宇宙屈指さをサラスBODY 2
銀河に浮かぶ大地、その名をギャラクシーランド。
これを『ギャランドゥ』と略すのは非公式である。なぜなら、ギャランドゥとは下腹部の体毛を意味する言葉なのだから。
筋肉とプロテインが支配する、この宇宙において、今日もサラス=バディ子は出会いを求め、優雅な旅と洒落込んでいた。相棒はモヒカンの女傑、モリーチと。バーバリアン星の王子アラハムキも相変わらず、ストーカー気味に追ってきている。
バディ子はビルド四天王のひとり『紅のオシリス』の屋敷へと招待された。
オシリスという男は銀河じゅうの美女を集め、その腹筋を愛でる日々を送っている。バディ子の活躍を聞きつけ、コレクションに加えようというのだろう。バディ子の恋人を自負するアラハムキが、当然のように割り込む。
「バディ子は渡さんぞ!」
「あなたは黙ってなさい。バディ子が行くって、言ったんじゃないのぉ」
野暮な邪魔者はモリーチによって羽交い絞めにされた。
美女に囲まれながら、紅のオシリスがおもむろに立ちあがる。
「ようこそ、サラス=バディ子! フフッ、君こそ、僕のコレクションに相応しい」
バディ子はあえて胸を張り、微笑んだ。
「あなたが強い男なら、いいわよ。コレクションになってあげても」
バディ子にとっても、オシリスは将来の婿となるかもしれない男のひとり。自分を打ち負かすほどの戦士であれば、髭を剃ってやるのも、やぶさかではなかった。
なお女性が男性の『髭を剃る』という行為は、この銀河において、もっともロマンティックかつエキサイティングなスキンシップである。
「それでは、僕の強さと美しさをお見せしようか。リングにあがりたまえ」
バディ子とオシリスはリングにあがって、睨みあった。ところがオシリスは背を向け、Tバックの尻で角材を挟み込む。
角材はひしゃげ、ぼっきりと折れてしまった。オシリスの尻が張っている。
「フッフッフ……この僕の尻を侮ってもらっては、困るよ」
「へえ……『紅』じゃなくて『オシリス』が異名だったってことね」
彼の尻に挟まれたが最後、バディ子の身体もへし折られてしまうだろう。リングサイドのモリーチがアラハムキを絞めつつ、青ざめる。
「まさか噂に名高い『ヒップサンド』を、この目で拝めるなんて……ごくっ」
しかしモリーチの瞳が眺めているのは、むしろオシリスの美尻だった。女性をも惑わせる魅力的な尻が、バディ子を狙う。
「食らってみたまえ、僕のヒップサンドを!」
「それはどうかしら?」
それに対し、バディ子もヒップアタックで応戦した。さながら達人同士の鍔迫り合いのごとく、尻と尻とが拮抗する。
「考えたね。尻を合わせれば、挟まれる道理もない」
「ここからが勝負よ! でやあっ!」
その応酬は水上のどんけつゲームのようでもあった。だが同じ戦法では、体格の差がもろに出る。バディ子のほうが先に疲れ、次第に動きも鈍くなってきた。
「はあ、はあ……」
「ヒップアタックを連発するのは、思った以上にきついだろう? ハッハッハ!」
この尻テクを得意とするオシリスには、まだ余裕がある。彼の尻はヒップアタックの連発で赤く染まり、まさしく紅い尻、紅のオシリとなっていた。一方、バディ子の尻は汗にまみれ、外れやすくもなる。
アラハムキが憤慨し、リングへと躍り込んだ。
「俺のバディ子と尻を突き合わせるとは、破廉恥なやつめ! 許さんぞ!」
「ア、アラハムキ?」
バディ子を押しのけ、両手の人差し指と中指を一ヶ所に集める。
肝の据わっているモリーチさえ顔面蒼白になった。
「それはだめよ、アラハムキ! カン・ツォーだけは!」
「……南無三!」
アラハムキ渾身の一撃が、オシリスの尻の中央に命中する。
「フッフッフッフ……!」
「ぐう? まさか」
しかしアラハムキの指先は、逆にオシリスの尻によって挟まれてしまった。オシリスが肩越しに振り向き、余裕綽々にはにかむ。
「愚かだね、君は。数多の戦士が僕のヒップサンドを破ろうと、その手を使った。……どうだい、動けないだろう? 古今東西、敵の尻に捕まった時の対処法まで考案してある格闘技など、存在しないからね」
こうなることがわかっていたからこそ、モリーチはアラハムキを制したのだ。カン・ツォーに問題があるからではないのだ。
オシリスが腰をグラインドさせようとする。
「さあて、君の指をへし折って差しあげようか。覚悟したま……」
「そのまま動かないで、アラハムキ!」
アラハムキの巨体の後ろで、バディ子が跳躍した。ロープを反動にして高々とジャンプし、朱雀背筋によって、ヒップアタックに加速をつける。
「はあああああッ!」
ヒップアタックがアラハムキの背中を押した。四本の指が尻の抵抗を突き破る。
「がぁ……?」
オシリスがかっと目を見開いた。
薔薇が咲く。
散りゆくために、薔薇は咲くのだ。
その棘さえ美しく感じてしまうのは……。
人間の心に一種の猟奇性が潜んでいるせいだろうか。
そうではない。
真の美しさを前にすれば、ひとの心は畏れを感じ、平伏するという。
嗚呼、薔薇は美しい、と。
オシリスは白目を剥いて、泡を吹く。バディ子は肩を竦めた。
「いい線行ってたけど、私の美意識にはそぐわないわね」
「お疲れ様、バディ子。観戦してたら、なんだか身体が疼いてきちゃったわぁ」
モリーチとともに館を出て、早々に次の宇宙へと旅立つことにする。
やがてオシリスは意識を取り戻した。
「はあ、はあ……この僕が、なんてざまだ」
まだ腰が抜けており、当分は起きあがれそうにない。
その後ろをアラハムキが取った。
「バディ子の尻と散々、戯れおって。俺のギャランドゥで、バディ子の尻の感触を上書きしてやろう。食らうがいい!」
縮れた剛毛を近づけられ、オシリスは戦慄する。
「ま、待て! それだけは、やめっ……グアアアアア~ッ!」
Tバックでは避けようもなかった。オシリスの尻にアラハムキの剛毛が擦れまくる。
醜悪な光景にもかかわらず、取り巻きの美女らは色めき立った。
「キャ~! アラ×オシよ、アラ×オシだわ!」
男たちの吐息はだんだん荒くなる。
その様子を遥か遠方のモニターで眺めている、三人の実力者がいた。
「……オシリスがやられたか」
「所詮、やつはわれわれ四天王の中でも、最弱……」
モニターの映像がバディ子に切り替わる。
「アマゾネス星の王女か。フフフ、面白くなってきたではないか」
新たな戦いがサラス=バディ子を待っていた。
宇宙屈指さをサラスBODY 2 ~END~
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