傲慢なウィザード #2

ACT.10 略奪

 またも白昼堂々、街にレイが出没した。

 緋姫たちは地下の司令部に寄らず、ただちに現場へと急行する。

「授業中に出てくるのだけはやめて欲しいわ、ほんと!」

「同感だ。こっちはクロードと同時に教室を抜けるわけだしな」

 ケイウォルス学園の大半の教師や生徒は、イレイザーの存在さえ知らなかった。おかげで緋姫には、授業をさぼりまくる不良、と思われていた時期もある。

 司令部で待機していられる愛煌は、まだよい。

『文句言わないの! 次は第十三部隊を走らせるから』

 現場へはクロードの執事に車で運んでもらった。しかし街中では野次馬が多すぎて、戦闘を始めるに始められない。ARCと協力関係にある警察が、ひと払いをしようとはするものの、効果は薄かった。

「危険です! さがってください!」

 ここ最近の怪物騒ぎに、皆も慣れつつある。我先構わずに逃げ惑って、パニックになることはない反面、迅速に避難してもくれなかった。

 とりわけマスコミは、無理にでも近づこうとするため、たちが悪い。

「もっと前に出ないと。そっちからまわれ!」

「おい! ここは立ち入り禁止だぞ!」

 緋姫たちなど、傍目には『学校を抜け出してきた野次馬』だった。クロード、紫月とともになるべく人目を避け、チャンスを待つ。

「これはやりにくいわ……」

「カイーナなら、ひとに見られることもなかったからねえ」

 問題のレイはビルの屋上で唸っていた。大通りを見下ろすだけで、攻撃の体勢には入らない。しかしクロードは油断せず、アイギスの発動準備を済ませた。

 紫月が驚いたように眉をあげる。

「……む?」

 隣のビルの屋上に、ひとつの人影が現れた。全身をバトルスーツで覆い、フルフェイスのマスクで正体を隠している。

 緋姫もクロードも目を点にするしかなかった。

「は? 何よ、あれ……」

「ヒーローってやつじゃない、かな?」

 謎の戦士がブロードソードを振りあげ、果敢にも化け物へと飛びかかる。

「でやあああっ!」

 レイは一刀のもとに両断され、消滅した。

突然の展開に観衆も絶句し、呆然と成り行きを見守る。ヒーローは季節外れのマフラーを靡かせながら、去っていった。

「お、追いかけるわよ!」

 緋姫たちはすかさず追跡を始め、現場を離れる。

 スカウト系のアーツを使えば、彼の行き先に見当をつけるのは容易だった。おそらく相手も、緋姫らの追跡には気付ているはず。

 人気のない空き地に入ったところで、彼はその珍妙な姿を現した。

「悪い、悪い。オレだよ、御神楽」

「え? あなた、まさか」

 フルフェイスのマスクが外れ、素顔を晒す。

 ヒーローの正体は輪だった。さしもの紫月も度肝を抜かれたようで、目を見張る。

「真井舵じゃないか! どうしたんだ、そいつは……」

「イレイザー用のスーツだよ。第四部隊では前から実装されてるだろ? オレもやっと自分のが出来あがってさ、動作テストのついでに、出てきたんだ」

 クロードは彼の後ろにもまわって、バトルスーツとやらの出来栄えを吟味した。

「でも、ちょっと恥ずかしくないかい?」

「顔は隠せるし、割りきっちまえば、使えるぜ」

 輪がアーツを解くと、バトルスーツは瞬時に学園のブレザーとなる。

「第六では使わないのか?」

「どうかしら……そういう話は、まだ来てないわね」

 緋姫には、あまり『欲しい』とは思えなかった。素性を隠せるにしても、派手すぎるせいで、かえって人目につきかねない。

 何より恰好が悪かった。男子は好きなのかもしれないが、緋姫には厳しい。

「もうちょっと、こう……当たり障りのないデザインなら、ねえ?」

「僕も同感だよ。いや、さっきの君は格好よかったけどさ」

 輪は上機嫌に胸を張った。

「これでオレも第四部隊の足手まといを卒業かな。じゃあ、先に戻ってるぜー」

 ケイウォルス司令部の愛煌から招集が掛かる。

『状況はどうなったの? こっちで見る限り、輪がいたようだけど……』

「戻ってから話すわ。放課後に、ね」

 緋姫たちは休み時間を狙って、それぞれの教室へと戻った。

 

 放課後、地下のケイウォルス司令部で第六部隊のミーティングが始まる。

 今日はいつもの面子に沙耶も加わった。このあとは駅前のグッズショップに寄る約束をしていることを知られ、恥ずかしい。愛煌が意地悪に突っ込んでくる。

「何を買うのよ? 緋姫」

「あ、あれよ、タメにゃんの……」

 離島にある遊園地『エンタメランド』には、去年から何かと縁があり、この面子で遊びに行く機会もあった。タメにゃんは猫の妖精で、エンタメランドに住んでいる。

「別にいいでしょ? 沙耶とお揃いにするってくらい」

 照れ隠しに怒ると、クロードが笑いを堪えた。

「可愛くなったねえ、お姫様は。いや、最初から可愛かったけどさ」

「うふふ、またみんなで行きましょう」

 話が脱線したのを、愛煌が咳払いで仕切りなおす。

「……こほん。まあ、そっちはおいおい予定を立てるとして、今日は議題があるのよ」

 壁面のスクリーンに、まだ日付の新しい新聞や地元紙が表示された。

 ケイウォルス高等学園の周辺で発生する化け物騒動は、すでに世間の知るところとなっている。先ほどの出撃では、緋姫も人前で戦うに戦えず、足止めを食らった。

「こんな調子じゃ、あたしたちが目撃されるのも時間の問題ね」

「そこよ。第六と第十三はうちの制服だから、すぐに出所がばれるでしょ? 上層部も『対策しろ』ってうるさいのよ」

 ケイウォルス司令部には全部で十三の部隊が所属している。そして輪の第四、緋姫の第六、リィンの第十三部隊は、学園の生徒で編成されていた。

 緊急要請のために授業を抜けるなど、デメリットは多い。一方で、隊員が集合しやすいという大きなメリットもあった。

「第六もそろそろ、ユニフォームってやつを検討しないといけなくなって……」

 紫月は険しい表情で、早くも難色を示す。

「出撃の前に着替えるのか? そいつは時間が惜しい」

「さっき輪がやってたみたいに、アーツで変換するんじゃない?」

「……ふむ。それなら、まあ」

クロードも服装の変更には否定的なようで、かぶりを振った。

「僕らが着てるのは、ただの制服じゃないんだよ? これがベストだと思うけどねぇ」

 緋姫たちのブレザーはアーツの力を反映することで、防御力を飛躍的に高めることができる。緋姫のレベルになると、レイの攻撃が当たるより先に、自動で障壁を張った。

「本当はプロテクターとか、つけるんだったかしら」

「あなたたちにはクロードのアイギスがあるから、いらないのよ」

 一同は今さら『なるほど』と納得した。それだけ、クロードが防御に徹し、役目を果たしていることになる。

 愛煌はやれやれと肩を竦めた。

「まあ、今だけ上層部を黙らせたら、それでいいから。何か案はない?」

 黙々とノートパソコンを叩いていた哲平が、勢いよく手を挙げる。

「ハイッ!」

 ほかのメンバーはぎょっとして、息を飲んだ。上司の愛煌も顔を引き攣らせる。

「ね、熱心ね。意見を聞かせてもらおうかしら、哲平」

「簡単なことですよ」

 哲平の眼鏡がきらりと光った。

「真井舵さんのバトルスーツを、第六部隊でも実装するんです! どうせ見られるなら、ヒーローになりましょうよ、ヒーローに!」

 スクリーンに奇抜なバトルスーツのデザイン案がいくつも並ぶ。

「ARCに都合が悪いことは、実在しないヒーローに押しつければいいんです」

「夢があるのかないのか、わからない発想ね……」

 哲平の提案は、やや強引でもあった。しかしこれなら、緋姫たちは正体を隠せるうえ、制服よりも遥かに守備力を高めることができる。

 ただ、クロードや紫月の受けは悪かった。

「僕の美意識にはそぐわないなあ。これ以外にデザインはないのかい?」

「動きづらそうだ。朝霧で戦うには、厳しいだろうな」

 男子からの評価は散々。にもかかわらず、哲平の自信は揺るがない。

「ふふふ……ぼくはまだ『男性用』しか見せてないんですよ? 御神楽さんにはとっておきの、用意してるんですから」

 スクリーンにとんでもないコスチュームが拡大表示された。

 紫月もクロードもがたっと椅子を鳴らす。

「こ、こいつは……!」

「今日ばっかりは、君の情熱を認めるしかないようだね」

 それはフリルいっぱいの、華やかなコスプレ衣装。哲平は自信満々に吼えた。

「これぞまさしくぼくらの夢、マジカルプリンセス! 御神楽さん、どうですかっ?」

「却下に決まってるでしょッ!」

 顔を真っ赤にした緋姫の怒号が、反響する。

 去年も哲平は『マジカルプリンセス計画』だのといって、奇想天外なバトルスーツを作成した。間違えて輪のアーツに組み込まれたため、緋姫は難を逃れている。

 沙耶もむくれ、ぷんぷんと頬を膨らませた。

「だめですよ、これじゃ。緋姫さんに着せるなら、もっと可愛くしませんと」

「……は? あの、沙耶……?」

「わたしがデザインします! 任せてください!」

 哲平の熱意に沙耶の暴走が重なり、おかしな方向に流れ出す。

「ね、ねえ? 顔が見えちゃってると、本末転倒だと思うんだけど……」

 クロードと紫月は次の話に移っていた。

「で、俺たちはどうする」

「そうだなあ……アレでも着てみるかい?」

 緋姫はひとり頭を抱え、この迷惑な嵐が過ぎるのを待つ。

 

 マジカルプリンセス計画には沙耶のみならず、ミユキまで乗り気になってしまった。Xデーは着々と近づいており、溜息ばかりが多くなる。

 今日の放課後も沙耶とミユキは手芸部にこもっているため、緋姫はゲームセンターで気分転換でもすることにした。ところが、そこで見知った顔に出くわす。

「ヤクモくんじゃない?」

「……あ。えーと……第六のひと」

 ヤクモには名前を憶えてもらえていなかった。

「緋姫よ。御神楽緋姫」

「ヒメ……思い出した。すごいレイが憑いてるひと、だ」

 イレイザーには善玉の『レイ』が憑依し、アーツの力を与えている。ヤクモにはそれが見えているようだった。

 緋姫はぎくりとして、表情を強張らせる。

「見えるの? あたしのレイが」

「……ちょっと変。ヒメのタマシイに、なんか? くっついてる……」

 ヤクモはそう明かすものの、関心がないのか、話題を変えた。

「おれ、ゲーム、割と好き」

「え? あぁ、こんなところにいるものね」

 緋姫も気持ちを切り替え、ビデオゲームのコーナーを一瞥する。新作が稼働し始めて間もないせいか、大勢の客で賑わっていた。やはり男子のほうが多い。

 初対面で襲われたこともあって、警戒していたが、今日のヤクモに毒気はなかった。

「ヤクモくんはどういうゲームするの?」

「……格闘ゲーム」

 格闘ゲームの対戦台では、客が頻繁に入れ替わり、凌ぎを削りあっている。

「難しそうなの、やってるのね。あたしはシューティングよ」

「へえ、シューティング……」

 彼のプライベートを邪魔すまいと、緋姫は適当なところで切りあげた。そのつもりが、シューティングゲームの席につくと、ヤクモも隣に腰を降ろす。

「おれもやる。ふたりプレイ。いい? ヒメ」

「え……ええ」

 答えるより先に、緋姫の分のコインも投入されてしまった。緋姫は戸惑いつつ、ヤクモと一緒に協力プレイで挑むことにする。

 変なひと、だけど……そこまで悪いひとじゃないのかしら?

 ヤクモはそれなりに上手かった。出すぎず、下がりすぎず、協力プレイであることを意識した適度な動きで、フォローを続けてくれる。

「あたし、こういうふたりプレイって、初めてなのよね」

「おれも初めて」

 たまに沙耶が付き合ってくれることもあったが、テクニックに差がありすぎて、微妙な空気になった。しかしヤクモとなら実力も均衡し、『らしい』プレイになる。

「ここのボス、先に左右の砲台から潰して!」

「わかった。おれ、右やる」

 ほかの客は新作の格闘ゲームに集まっているおかげで、シューティングゲームのほうは空いていた。ヤクモはひと込みを嫌って、緋姫についてきたのかもしれない。

「そうだわ。第十三部隊にはバトルスーツの話、行ってる?」

「あれのことかな。ミユキだけ張り切ってて、うるさい」

 緋姫とヤクモのコンビは楽々とボスを撃破し、次のステージへと駒を進めた。

「上手いじゃない! ヤクモくん」

「……ここのゲーム、一通りやってるし……」

 ヤクモの表情はあまりに淡泊で、喜怒哀楽が読めない。しかし楽しんではくれているようで、彼となりに会話も弾んだ。

「クロードとは仲良くやってる? 一緒に住んでるんでしょ」

「夕飯はいつも一緒……カップラーメン、おれのほうが詳しくなった」

「夕飯で食べてるんじゃないわよね? カップ麺」

 普段は接点がない分、近況の報告だけでも間が持つ。

 彼のほうからも質問が飛んできた。

「ミユキ……どう?」

「仲良くやってるわよ。すぐ散らかしちゃうのも、もう慣れたわ」

 ヤクモがほっと安堵の息をつく。

「あいつ、母親に捨てられて、地獄来た。ずっと怒ってた……でも、今は楽しそう」

 ゲームをプレイしつつ、緋姫はミユキの無邪気な笑みを思い浮かべた。

「やっぱりみんな、複雑な事情があったのね」

 第十三部隊の面々は、生きながらに地獄に落ちるほど、苛酷な目に遭っている。

緋姫もプロジェクト・アークトゥルスで人生を狂わされたからこそ、彼らに上から目線の同情ではなく、同じ目線の共感ができた。

 ヤクモが物憂げに呟く。

「ミユキは大丈夫。けど……最近、リィン、おかしい」

「……リィンが?」

 その名に緋姫はどきりとした。

緋姫に『好きだよ』と告白してくれた、銀髪の男の子。その想いに応えることも、拒むこともできず、彼に気を持たせるだけの状況が続いている。

「リィン、かなり変。気をつけて……」

 何がどうおかしいのか、聞きたかった。だが、ヤクモは具体的には話してくれない。

「あなたも何かあったら、相談してね。力になれるか、わからないけど……」

「クロードに相談する。そっちのほうが、早い」

 緋姫とヤクモはワンコインで最終ボスまで進み、クリアを果たした。

 

 

 街中でレイが出現し、騒然となる。

「うわああっ、本物? マジで出るのかよ!」

「逃げたほうがいいって! みんなも早くこっちへ!」

 今回のレイは巨大な亀の姿で、ショッピングモールをゆっくりと前進した。獰猛な唸り声をあげ、アスファルトの路面を揺るがす。

 すでに警察はバリケードを敷き、対応に当たっていた。

「例のあいつ、また来ますかね。ARCのイレイザーなんでしょうか?」

「この間のヒーローのことか。おれにもわからん……むっ!」

 皆の期待に応えるかのように、そのシルエットが現れる。バトルスーツで身を包んだ彼は、電信柱の上に立ち、マフラーを靡かせた。

「オレがやつを足止めする! 今のうちに逃げてくれ!」

 観衆は一様に目を丸くする。

「……本物のヒーロー? マジで?」

 レイはいきり立ち、前足で電信柱を薙ぎ倒した。

「おわっ? と、とと!」

その上に立っていたヒーローが慌てふためき、じたばたする。それは数秒と持たず、足を滑らせ、べしゃっと不格好に落下した。

「あれ? こんなつもりじゃ……」

 突っ伏しながら頭を掻くヒーローに、凶悪な魔物がにじり寄る。

「おっと! 僕らのヒーローをやらせはしないよ!」

 そこに青い生き物が割り込んだ。『アイギス』を張り、敵の進行を食い止める。

 観衆はさっきよりも目を点にした。

「タ、タメにゃん?」

 ヒーローの窮地に駆けつけたのは、人気のテーマパークに住んでいるはずの妖精、タメにゃん。愛くるしい猫の姿で、不気味な化け物と対峙する。

 しかもタメにゃんは色違いで何匹も集合した。緑色の一匹が刀を抜き放つ。

「一気に決めるぞ! 斬り裂け、朝霧!」

 だが、魔物の甲羅は固いうえに丸く、刃物を通さなかった。ピンク色のタメにゃんが撃ったアルテミスの矢も、弾かれてしまう。

「緋姫……じゃなかった、ホワイト! ウィークポイントを探しなさい!」

「やってるってば。オッケー、みんな、一旦さがって!」

 白いタメにゃんが腕を振りあげると、アスファルトの路面がめきめきと捲れた。尖った岩盤が魔物を真下から直撃する。

 レイの巨体はひっくり返り、無防備な腹部が上を向いた。

「今だよ、グリーン!」

「……あぁ、俺のことか。任せろ!」

 緑のタメにゃんが刀を逆手に持ち替え、魔物を串刺しに決める。

「目標の撃破を確認! みんな、撤収よ!」

 タメにゃんの群れは転びそうになりながら、わらわらとビルの向こうへ消えていった。

 一部始終を目撃した観衆は、呆然としてしまっている。

「さっきの、な、なんだろうな」

「タメにゃんは実在した、とか……?」

 取り残されたヒーローも慌てて撤退した。

 

「アホか、お前らっ!」

 輪の怒号がけたたましく反響する。

 第六部隊のメンバーは司令部で着ぐるみの頭を外し、汗だくになっていた。まだアーツによる着脱の機能が備わっていないため、自分で脱ぎ着するしかない。

 ヒーローの正論が『中のひと』たちに突き刺さる。

「顔は隠せたって、あれじゃ、逆に目立ってしょうがないだろ? 気付け!」

「め、面目ないわ……」

 ぐうの音も出ない。

緋姫自身、最初はおかしいと思っていた。そのはずが、タメにゃんの着ぐるみと見詰めあううち、絆されてしまった。恐るべき魔力である。

 愛煌は着ぐるみの身体でのけぞり、冷たいスポーツドリンクを咽へと流し込んだ。

「あっつ……どのみち、これじゃあ長時間の戦闘は無理ね」

「夏場はもっときついぞ? あれこそ地獄だ」

 着ぐるみのバイト経験がある紫月は、ほかの面子に比べ、余裕を浮かべている。

 クロードは地べたに座り込んで、暑苦しさに参っていた。

「夢を売るって、大変な商売なんだねえ。中のひとのこと、尊敬するよ」

 オペレーターの哲平が椅子ごと振り向き、青ざめる。

「あのぉ、みなさん? エンタメランドからARCに苦情が来てます。タメにゃんのイメージダウンになるから、今すぐやめて欲しい、と」

「げっ!」

 緋姫たちも一様に真っ青になり、急いで残りの着ぐるみを脱いだ。

「エンタメランドでは去年、大きな戦いがありましたからねえ。ぼくらの仕業だって、すぐに気付いたんでしょう」

「はあ……大失敗だわ。エンタメランドには、私のほうから詫びておくから」

 今回の企画『タメにゃん戦隊』はボツ。

「次はこっちにする? ヒメ」

 愛煌は出来上がったばかりの『試作品』を見せびらかした。哲平が発案し、沙耶とミユキが悪乗りしつつデザインした、ど派手な衣装がスカートを波打たせる。

 それこそがマジカルプリンセスのバトルユニフォーム。

 これを着るのが嫌で、タメにゃん戦隊を推した面もあった。緋姫は汗ばんだ額や首筋を拭いながら、マジカルプリンセスの難点を指摘する。

「顔が見えちゃうじゃないの、顔が」

「御神楽さんに限っては、その心配はいりませんよ。スカウト系のスペルアーツで表向きの個人情報を偽れば、御神楽さんだって認識されづらくなりますから」

「だったら、こんな服、最初からいらないでしょーがっ!」

 紫月とクロードはお茶で一服していた。

「こいつを着た姫様を、見てみたかったんだがな」

「ん? こういうのが好きなのかい?」

「そうじゃない。なんというか……これを着て恥ずかしがる姫様が、見たいんだ。ほら、学園祭の時は、姫様がメイドの恰好でしおらしくなって……」

「わかってきたねえ、紫月も。普段のお姫様を知ってるからこそ、グッと来るのさ」

 御神楽緋姫の黒歴史が掘り返されていく。

緋姫のこめかみで青筋が立った。

「……あなたたちのバトルスーツ、あたしがデザインしてあげるわ」

 まるで進展のない状況を見せられ、輪は嘆息する。

「アホらし。オレ、もう帰るぞ」

「何よ? 隊員の女の子にスクール水着で戦わせてる変態が、偉そうに……」

「ち、ちが! あれはオレが入る前から、ああだったわけで!」

 そのあと、緋姫がじきじきにバトルスーツをデザインしたことで、新しい事実が発覚した。御神楽緋姫の画力は幼稚園児並みらしい。

 

 マンションの部屋に戻って、『それ』を見せると、ミユキが笑い転げる。

「アハハハッ! なにコレ? ひー、くるひい~っ!」

「うふふ! ほっ、ほんとに、緋姫さんが描いたんですか?」

 沙耶も涙目になるほど笑ってくれた。

「なんでここ、でっかい毛虫がついてんのォ?」

「そこは袖よ、袖」

「すっごいカニ股になっちゃってますよ。モデルは、えぇと……比良坂さん?」

「そうよ! ね、紫月ってわかるでしょ?」

 緋姫は自分の作品をまじまじと眺め、首を傾げる。

「……あたしとしては、割と上手に描けてるって、思うんだけど」

「ぶっは!」

 とうとうミユキのボルテージが臨界点を突破した。甲高い笑い声が反響する。

 水泳と音楽に続き、みっつめの苦手な科目が判明した。文武両道、成績優秀という評価で安定しているようで、御神楽緋姫にはまだ、思わぬ弱点があるのかもしれない。

「感性を問われる分野に弱いんでしょうか? でも学園祭の時はダンス、ちゃんと上手にできてましたよね」

 ようやくミユキも落ち着いた。沙耶がお茶のお代わりを勧める。

「ねえねえ、ガクエンサイって、なぁに?」

「えぇと、秋になったら、学校でお祭りをするんです」

 緋姫の脳裏で学園祭のイメージが膨らんだ。

 去年は大事件になってしまったが、今年こそは皆で最後まで楽しめるに違いない。しかもミユキやヤクモ、シオンを加え、より賑やかなものになるはず。

 もちろんリィンも一緒に。

「その前に夏休みでしょ。気が早いわね」

「ほんとに一ヶ月もガッコーお休みとか、あるわけ?」

 やっと緋姫も人並みの高校生活を手に入れた。

 

 

 夢を見ているのが、わかる。

緋姫の半身でもある地獄の『霊』は、その光景を記憶していた。魔王の御前に三人の、年端もいかない人間の子どもが集められる。

 デュレン=アスモデウス=カイーナ。彼は地獄を統べる魔王のひとりとして、罪人の魂に罰を与える立場にあった。その裁きに容赦がなければ、慈悲もない。

「まだ子どものくせに、ここまで魂を腐らせやがるとはなァ」

 相手が幼い子どもだからといって、魔王に同情などあるはずもなかった。その殺気を敏感に感じ取ったらしい少女が、小さな手でナイフを握り締め、魔王に飛びかかる。

 そんな少女の決死の奇襲を、デュレンは指一本で弾き返した。

「粋がいいのもいるじゃねえか。こいつがミユキ、で……そっちはヤクモって名前か」

 魔王の冷たい瞳が、子どもたちの生い立ちを嘲笑する。

 ミユキは再婚のために母親に捨てられた。やっとの思いで家に帰ったが、そこには新しい子どもを抱いて喜ぶ、母がいた。それを目にした時から、憤怒の炎が揺らめている。

 ヤクモは親に医療実験のモルモットにされた。精神に支障をきたし、父親を瀕死の重傷にまで追い込んでいる。それ以来、何をするにも無気力になってしまった。

「……ったく。世も末だなァ」

 最後に魔王はリィンを見下ろし、唇の端を吊りあげる。

「面倒くせえし、片付けちまうか」

「そんなことをすれば、女王が黙っていないぞ?」

 魔王の傍らで、青白い霊魂が浮かんだ。デュレンは顔を顰め、チッと舌打ちする。

「てめえか、ルイビス。聞いてるぜ? プロジェクト・アークトゥルスとかいう人間どものオママゴトを、潰しに行くんだってなァ」

「ああ。近いうちに馬鹿どもの魂が来る。可愛がってやってくれ」

 魂の炎は子どもたちの、大人びてしまった絶望の表情を、ひとしきり眺めた。

「プロジェクト・アークトゥルスの被害者も、これくらいの子どもばかりだ。人間というやつは愚かで、業が深い……クズが多すぎるとは思わんか」

「ククク! そのクズをいたぶれるから、楽しいんじゃねえか。おれも、てめえも」

「……ふっ。否定はできんな」

 酷薄な笑声が響く。

 ルイビスは魔王におぞましい提案を持ちかけた。

「どうだ? そのクズを蹂躙する嗜虐と優越感を、この子らにも味わわせてやるのは」

「なるほど、ここで死神にしてやれ、と? ……そいつは面白え」

 デュレンが感心したように眉をあげる。

「運がいいぜ、てめえら。殺される側じゃねえ、殺す側にしてやる。このデュレン=アスモデウス=カイーナの下僕となって、存分に楽しみやがれ……ケッケッケ!」

 子どもたちは怯えながらも、魔王の眼前で跪いた。

「ほどほどにな、デュレン」

 魂の炎が揺らいで、ふっと消える。

「……てめえもなァ? クククッ、やつに手足にされるのは、どんなやつかねぇ」

 魔王は囁きながら、ミユキのナイフを踏みつけ、へし折った。

 

 

 夏に備え、水泳部では陸上トレーニングがおこなわれている。緋姫も部員として、イレイザーの任務がない限り、積極的に顔を出した。

 新入生もそれなりの数が入り、部の体裁は整っている。当然、部活動には実績が必要とされるため、夏の大会には出場しなければならなかった。ただし緋姫の出番はない。

「去年は結構いい成績だったから、期待されてるんでしょ? あたしみたいなのが練習でプール使ってて、いいのかしら」

「上手いひとだけになると、誰も入ってこなくなるから、それでいいのよ」

「ふうん。部活にも色々、事情ってのがあるのね」

 緋姫はふと中学時代のことを思い出した。

 能力が抜きん出ているために、行く先々で軋轢を生じたこと。中学の頃はソフトボール部にヘルプ要員として在籍したこともあったが、上級生からレギュラーを奪い、反感を買った。『出る杭は打たれる』風潮は、どこにでもあるらしい。

「水泳部じゃなかったら、もっと活躍できそうなのにね、御神楽さん。前にほら、バスケ部にも勧誘されてたでしょ」

「チームプレイは懲り懲りで……個人競技のほうが断然いいわ」

 バスケットボール部からの申し出には、おそらくミユキが関わっていた。ようやく部活をそこに決めたようで、毎日楽しそうに練習している。

「もう1セット、行くよー!」

「……ねえ、あの子は?」

 柔軟体操をしていると、部員のひとりが少年の存在に気付いた。緋姫も顔をあげ、中等部にいるはずのシオンと目を合わせる。

「シオンじゃない。どうしたの?」

「暇だったからさあ。ヒメ姉が溺れるとこでも、見てやろうと思ったんだけど」

「プールが開放されるの、まだ先よ? 残念だったわね」

 可愛らしい男の子が現れたことで、水泳部の女子らは目を輝かせた。キャプテンまで柔軟体操を中断し、ぐるりとシオンを取り囲む。

「この子、御神楽さんの知り合い? 弟くんかなあ?」

 シオンはあとずさり、緋姫の背中に隠れるようにまわり込んだ。

「ちょっ、ヒメ姉! 助けてってば」

「照れてる! 可愛い~!」

 緋姫は肩を竦め、小賢しい少年を小声でなじる。

「愛煌や沙耶の時は、取り入ろうとしてたじゃないの。甘えてきたら?」

「もう騙されるもんか。あんたの関係者、どっかおかしいに決まってるもん」

 彼の持論でいったら、愛煌も沙耶も『おかしい』ことになってしまった。女装癖のある愛煌はともかくとして、沙耶まで馬鹿にされるのは面白くない。

「紹介するわね。この子はシオンって言って……そう、親戚の子なの。中等部の女の子より、高等部のお姉さんと遊びたいんだって」

「あははっ、ナ~マ~イ~キ~!」

 兎を獣の群れに放つような心境だった。薄着の女子高生たちに揉みくちゃにされ、初心なシオンが真っ赤になる。

「練習終わったら、お姉さんたちと遊ぼっか? ひっひっひ」

「中等部に好きな子、いないの? 白状してごらん?」

「うわあっ、脱がすな! あんたら、ボクをどーするつもりで……ぎゃ~~~!」

 見ている分には面白かった。

 

 夕方になって練習が終わり、少年も解放される。

「死ぬかと思った……酷いよ、ヒメ姉。あんなふうにけしかけたりしてさ」

「でも気持ちよかったんでしょ? あなたも男の子だもの」

「……あんたのその偏った男性観、どっから来てるわけ? ちょっと引いたよ」

 緋姫はシオンと一緒に学園をあとにした。今日はミユキや沙耶と都合がつかず、別々で帰宅することになっている。

「遊びに行くんなら、ミユキのほうにしなさい」

「さっき行ったんだけどさあ……男子の野次馬が多くって、うんざり。ほら、ミユキってバカだからさ、胸でっかいじゃん?」

「あぁ、そういう……」

 バスケットボール部で活躍するミユキのイメージが膨らんだ。それはもう魅惑のDカップが揺れまくるに違いない。

「バカなのと胸の大きさは関係ないんじゃないかしら」

「そうか? まあ、ヤクモが言ってただけだし」

「……ふーん。ヤクモくん、ミユキのそんなとこばっか、見てたのね」

 自然とミユキやヤクモの話題になった。初めて会った時の対立が、嘘のように思えてくる。特にシオンとはすっかり打ち解けた。

「ヒメ姉ってさ、最近、ちょくちょくゲーセンでヤクモと遊んでるんだろ? いーなー、ボクにも声かけてくれよー」

「中等部の友達と遊べばいいじゃない、あなたは」

「やだよ。あいつら、カードゲームなんてやってんだぜ?」

「……こっちもゲームやってるんだけど」

 冗談を交えつつ、緋姫はシオンに質問を投げかける。

「ねえ、話したくないんなら、いいんだけど……あなたも地獄にいたんでしょ? どうして、その、落ちたりしたのかしら」

「あー、ボク?」

 シオンは両手を頭の後ろにまわし、あっけらかんと答えた。

「ボクの場合は事故だよ、事故。たまにさ、地獄と地上が繋がっちゃって……でも、ボクを見つけたやつが、ちゃんと対応してくれたんだ。おかげで魂抜かれずに済んだよ」

「……それが、前に言ってた『閣下』?」

「まっさか。……っと、そろそろ爺ちゃんと婆ちゃんに、顔見せとかないと」

 ミユキやヤクモほど深刻な事情ではないらしい。

 あれ? あたし、どうして……ミユキたちのこと知ってるの?

 違和感はあったものの、思考はシオンの言葉に遮られた。

「ところでさ、ヒメ姉、今からちょっと時間あるだろ」

 シオンが緋姫を見上げ、つぶらな瞳を転がす。

「ええ。ゲーセンでも寄ってく?」

「そうじゃなくて。……えぇと、ヒメ姉に会いたいってやつがいて、さ」

 緋姫は時計を確認し、二つ返事で応じた。

「いいわよ。そんなに遅くはならないんでしょう?」

「サンキュー! ついてきて」

 ゲームセンターの前を横切り、駅前のビルの壁を、アーツの力で登っていく。

 ……こんなところで?

 警戒するような状況ではなかった。逃げようと思えば、いつでも逃げられる。それにシオンに悪意は感じられなかった。

 間もなくビルの屋上へと辿り着く。

「連れてきたぜ」

 そこにはひとりの『ヒーロー』が佇んでいた。緋姫は肩透かしを食って、呆れる。

「何の用よ、輪? わざわざ、こんなふうに呼ばなくっても……」

 しかし軽く窘めながら、おかしな点にも気が付いた。

 シオンと輪に面識はあっただろうか。緋姫の記憶が確かなら、ふたりはまだ一度も顔を会わせたことがないはず。

 ヒーローは予告もなしに跳躍し、奇怪な鎌を振りあげた。シオンが叫ぶ。

「おっ、おい? リィンっ!」

「……えっ?」

 咄嗟のことで反応できなかった。

三日月の形の刃が、緋姫の肉体ではなく『魂』を直撃する。

「あああああああッ!」

かろうじて放ったサンダーボルトは、ヒーローのマスクを砕いただけで消えた。そこからリィンの寂しげな顔が現れ、緋姫と目を合わせる。

「ごめんね、プリンセス……。でも、これできみは自由だ」

 緋姫の身体が手前にくずおれるのを、リィンは優しく抱きかかえた。

 シオンは顔面蒼白になって、うろたえる。

「ど、どういうつもりだよ、リィン? ちゃんと告白したいっていうから、ボクは」

 ビルの下から突如、猛烈な勢いで竜巻が舞いあがってきた。緋姫の危機を察したらしい六翼の天使が、いつもは柔和な表情を激情で満たす。

「緋姫さんを返してくださいッ!」

 沙耶の翼が散らした羽毛が、一斉にリィンへと襲い掛かろうとした。しかしリィンが緋姫の身体を、盾のように前に出すせいで、攻めきれない。

 沙耶はシオンとともに間合いを取り、リィンを睨みつけた。

「くっ……一体、何が目的なんですか?」

「そ、そうだよ! あんた、さっき、ヒメ姉の魂を……」

 リィンのもとへ、ミユキとヤクモが合流する。

「もう終わったんだぁ?」

ミユキはケルベロスの鞭を構え、冷笑を浮かべた。ヤクモも鈎爪のフェンリルを剥き出しにして、沙耶らと対峙する。

「シオン、なんで……そっちに?」

「そりゃ、こっちの台詞だよ! お前らまでリィンとグルなのか?」

 リィンたちの後ろで、空間に亀裂が走った。地獄へのゲートが開き、どす黒い瘴気を溢れさせる。夕暮れの空も徐々に黒ずんでいった。

 リィンが鎌を消し、両手で緋姫を構える。

「そろそろタイムオーバーだね。行こう、プリンセス。ぼくらのお城へ……」

 彼の唇が愛しそうに囁いた。だが、緋姫は虚ろな表情のまま、瞳に何も映さない。

「……ねえ、プリンセス?」

 沙耶の声が震えた。

「緋姫さんの魂はふたつでひとつ、なんです。ルイビスの魂を切り離してしまえば、緋姫さんは自我を保っていられません。知らなかったんですか?」

 リィンが愕然として、瞳を強張らせる。

「そんな! ぼ、ぼくは、ルイビスの呪縛から、プリンセスを解放してあげようと」

 緋姫はただの人形のように、ぴくりとも動かなかった。

 沙耶が六枚の翼を広げ、羽根を放射状に散らす。そのすべてが、リィンたちに狙いをつけ、射撃の体勢に入った。ヤクモが人並みに恐怖をたたえ、たじろぐ。

「これ、閣下が言ってた、ヴァージニアの魔眼……?」

「さすがにヤバいんじゃないの? リィン」

 ミユキは舌打ちし、ケルベロスの鞭を引き絞った。

 リィンの瞳で黒い情念が炎となる。

「……いいさ。地獄に連れ帰って、ゆっくり起こしてあげればね」

 上空で『地鳴り』が響いた。沙耶もシオンも黒ずんだ空を見上げ、驚愕する。

「なっ、あれは……?」

「き、聞いてないぜ? ありゃ、カイーナじゃねえか!」

 遥か上空で、大地が『逆さま』になっていた。山は下を向き、河の水は落ちてこない。中央にある荘厳な城も、逆さまに聳え立つ。

「お前は来ないのか? シオン。じきにここは地獄になるよ」

「ん、んなこと言われたって……」

 シオンは怯えながらも、沙耶の裾を掴んだ。

「いっ、行くわけないだろ! いいから、ヒメ姉を置いていきやがれ!」

「シオン……」

 少年の決断をミユキがせせら笑う。ヤクモはリィンに従うのみだった。

「キャハハっ! 好きにすれば? あーあ、ガッコー、楽しかったんだけどなあ」

「ミカグラヒメ……気をつけてって、言ったのに」

 リィンたちが闇色のゲートをくぐり、緋姫を連れ去る。 

「緋姫さんっ!」

「待てよ、サヤ姉! ひとりじゃ無理だって!」

 暗黒の空で逆さまの大地が揺れた。六枚の翼でそれを目指そうとする沙耶を、シオンが必死に引っ張り、止める。

「緋姫さん! 目を覚ましてください、緋姫さん! 緋姫さああああんっ!」

 慟哭が木霊した。

 街じゅうで死の気配が漂い始める。レイの群れが雄叫びをあげた。

「やばすぎるだろ、これ……」

 街が地獄と化すのを目の当たりにして、シオンは息を飲む。

 緋姫の命運を懸けた戦いが、始まろうとしていた。

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