奴隷王女~かりそめの愛に濡れて~
第5話
リゾートを終え、城に戻ってからというもの、忙しい日々が続く。
休暇のために滞っていた分もあり、今日も補佐官のクリムトがてきぱきと書類を捌いていた。モニカ王女はデスクに掛け、似たような内容の報告書や指令書に目を通す。
「はあ……」
「浮かない顔ですね。どうかしましたか?」
「あ、ううん。……セニアは元気にしてるかなあ、って」
クリムトに勘付かれたくなくて、咄嗟に嘘をついてしまった。そのために、妹のことを忘れていた自分の愚かしさにも気付き、自己嫌悪に陥ってしまう。
「心配いりませんよ。ちょくちょくお手紙も来てることですし。この機会に近隣諸国の文化を学ばれるのもよいかと」
「帝国風のバレエが気に入ったみたいね、あの子」
サジタリオ帝国は東と南の戦線で手がいっぱいなのか、ソール王国への圧力を弱めつつあった。それでも城下の一角には帝国軍が常駐し、ジェラールの指令を仰いでいる。大使館の中で自粛する気は更々ないらしい。
「帝国の戦争は今、どうなの?」
クリムトは眼鏡を押さえ、溜息を漏らした。
「勝つにしましても、落としどころを探してるのではないでしょうか。サジェッカで連合を破った時は、僕も終わるものと思いましたが、あれからもう二年ですし」
「……長いわね」
サジタリオ帝国が最新鋭の大砲をひっさげ、ことごとく敵を撃破したことは想像に難くない。帝国は兵器の運用に長け、また軍の統制も取れていた。
ああいう国だから、王子もタチが悪いのよ……。
間違っても公の場では口にできないレベルの愚痴が、脳裏をよぎる。
戦争さえ終われば、帝国との関係も修復していけるだろう。とにかく帝国軍を引きさがらせないことには、ソール王国に未来はない。
同時に敵は帝国だけではなかった。依然としてレオン王の行方は掴めず、ソール王国は若き王女が国王代理を務めるという、不安定な状態にある。
しかしモニカの気分が乗らない原因は、まったく別にあった。
どうしてジェラールはあんなに怒ったのかしら?
最近は寝ても覚めても彼のことばかり考えている。
ジェラールはモニカに『おれのものになれ』と強要し、モニカはそれを承諾した。モニカひとりが辱めに耐えることで、ソール王国の独立は現に保証されている。
そのはずが、モニカのほうから一線を越えようとすると、彼は急に頑なになった。
モニカにしても、あのまま『ご奉仕』を続行できたとは思えない。
なんだか嫌だわ、あたし……いやらしいことに興味があるみたいで……。
まさかクリムトに聞くわけにもいかず、悶々とする。
やがて今日の政務を終え、モニカは席を立った。ところが、アンナではないメイドのひとりから、妙な伝言を伝えられる。
「……え? 夕食のあとは遊戯室へ?」
「はい。ジェラール様が是非、姫様にご覧いただきたいと」
あれからというもの、彼がモニカを求め、部屋に現れることもなかった。食事も別で済ませて、モニカとは距離を取っている。
それを関係の悪化と疑う声も出始めていた。とりわけ親帝国派にとって、モニカとジェラールの縁談は降って湧いた吉報であり、大いに期待が寄せられている。
「わかったわ。すぐに行くからと伝えておいて」
「承知致しました。それから……ジェラール様より、今夜のお召し物にはこれを、と」
ドレスにしては小さな包みを渡され、モニカは目を白黒させた。
「なんなの? これ」
「恐れながら、私は存じません」
ひょっとしたら新しい下着かもしれない。無論、モニカに拒否権などなかった。
アンナが見当たらないのを不思議に思いつつ、夕食のあと、モニカは部屋で問題の包みを開ける。そして、悪趣味を通り越した『それ』に口角を引き攣らせた。
「こっ、これを着ろ……ですってえ?」
ジェラールの発想には呆れ果て、開いた口が塞がらない。
☆
ソール城の遊戯室は父が娯楽のために設けた、いわば『自分だけの遊び場』だった。大人びた雰囲気の一室で、ビリヤードやダーツといったゲームを一通り揃えている。
ソファとは別にカウンターの席もあり、さながらアダルティックなナイトクラブの様相を呈していた。ピアノが部屋の格式を高め、娯楽にも品格を与える。
それを悠々とかき鳴らすのはジェラールだった。その手が鍵盤を撫でるだけで、美しい旋律が響き渡る。
「ようこそ、モニカ。きみはおれを待たせるのが上手だね」
「お、遅れたつもりはないんだけど……」
父の遊戯室はジェラールによって改装されたとはいえ、原形を保っていた。四、五人でも寛げるように大きなソファを置き、あとはゲームを増やしたくらいだろう。
「本当はボーリング用のレーンも欲しかったんだけど、あんまり勝手に弄っちゃ、きみのお父上に申し訳ないからさ」
「大砲の弾を転がす、帝国のアレね」
「……どうしたんだい? おれは仲直りのつもりで呼んだのに、冷たいじゃないか」
モニカは赤面しつつ、被せていただけのドレスを剥がす。
「こっ、こんな恰好させておいて……何が『仲直り』よ? あなた」
今夜のモニカ王女はハイレグカットの黒のスーツをまとい、胸の谷間を大胆なほどに曝け出していた。蝶ネクタイで愛らしさも際立たせて、ジェラールの目を引く。
脚は網タイツでぴったりと覆われていた。ハイヒールも相まって、妖艶な色合いが王女の脚線美を引き締める。
「お耳が足りないじゃないか、モニカ」
「わ……わかってるってば」
ウサギのお耳を乗せれば、帝国カジノで定番らしいバニーガールが出来上がった。猛烈な恥ずかしさに駆られながら、モニカはせめて胸の高さを両手で隠す。
「可愛いウサギさんだね。飼い主はおれだぞ」
「……最低だわ」
傲慢な彼には逆らえず、悔しかった。
それでも以前のように彼と会話が成り立ち、心のどこかで安心もする。
こういうところがなかったら、あたしだって少しは……。
ジェラールはモニカの身体を求め、モニカはそれを受け入れる――それがふたりの、歪であっても自然体でいられる関係だった。
「それで? お酒でも注いであげればいいのかしら」
「いいや、ゲームでもしようと思ってね。……さあ、きみらも入っておいで」
「……えっ?」
ところが、奥のほうから意外な人物が現れ、モニカは瞳を強張らせる。
自分と同じ恰好を強要されたらしい、二匹のバニーガール。ブリジットとアンナはおずおずと歩み出て、モニカとあってはならない対面を果たした。
「あ、あなたたち……どうして?」
唖然とするしかないモニカに対し、ブリジットは屈辱に打ち震える。
「なぜわたしに相談してくれなかったのですか! まさか姫様が王国のため、このような男にかしずいていたなど……そうとは知らず、わたしは……」
モニカとジェラールの秘密を、彼女にも知られてしまったらしい。その傍らでアンナはウサギのお耳が垂れるまで頭をさげた。
「申し訳ございません。わたくしがブリジット様にご相談申しあげたために……」
メイドのアンナは前々から秘密を知っている。ジェラールの凌辱からモニカ王女を救うべく、騎士団長のブリジットを頼ったのだろう。
しかし先日のリゾートでは、ふたりともジェラールとそれなりに打ち解けたはず。
「さては、あなたが仕組んだのね?」
「人聞きが悪いなあ。これでも、おれは譲歩してやったんだけど」
ジェラールはアンナを睨みつけ、淡々と吐き捨てた。
「いけないメイドだよ。あの夜のぼくたちを、この子はこっそり覗いてたのさ」
「……っ!」
決して強くはないアンナの瞳に涙が浮かぶ。
ふつふつと怒りが込みあげてきた。ジェラールはアンナの弱みにつけ込んで、ブリジットまで誘い出したに違いない。この衣装もおそらく彼女の手製だった。
「覗き見だなんて、そんなこと、アンナがするわけないでしょ? 多分……そうよ、あたしを呼びに来たとかで偶然……」
「かもしれないね。でも、おしおきは必要だ」
おしおきという言葉の意味にぞっとして、モニカは口を噤む。
ブリジットはアンナを庇い、彼に人差し指を突きつけた。
「き、貴様の戯言にはわたしが付き合ってやると、言ったはずだ。姫様を解放しろ!」
しかしジェラールは眉ひとつ動かさない。
「きみにモニカの代わりが務まるのなら、ね。そのために今夜はこうして全員を集めたんだ。きみやアンナがモニカよりもおれを満足させられるか、興味がある」
「くっ……どこまでも悪ふざけを」
ブリジットもまたジェラールの要望に応じる形で、この場に現れたようだった。
「なんなら隙を見て、おれを締めあげるかい? 騎士団長殿」
ジェラールが壁の的を見据え、ダーツを投げつける。
動きそのものは無造作に見えたが、ダーツは的の中心に寸分の狂いなく命中した。バレーを得意とするように体力もあるはずで、ブリジットでも勝つのは難しい。
「そう怖がることはないさ。せっかくのパーティーなんだ、楽しもうじゃないか」
ジェラールは我が物顔でソファに腰を降ろし、寛ぎ始めた。
アンナが前に出て、三角形のグラスに真っ赤なワインを注ぎ込む。
「ど、どうぞ……お召しあがりくださいませ」
「いいね。きみはおれ好みのウサギだ」
アンナもモニカと同じバニーガールの恰好で、胸元の露出に戸惑っていた。大胆なスタイルのせいで、控えめな仕草であっても濃厚な色気を醸し出す。
ジェラールったら、またアンナに……。
ボディスーツの後ろは窮屈そうにお尻に食い込んでいた。毛玉のような尻尾が彼女の腰つきを追いかけ、ジェラールはごくりと咽を鳴らす。
「おれの相手をするんじゃなかったのかな? ブリジット」
「そ、それは……」
指名され、ブリジットは困惑の色を浮かべた。さすがにバニーガールのスタイルでは強気を保っていられないようで、鎖骨の下から片手を剥がそうとしない。
やっぱり綺麗よね、ブリジットは。ジェラールだって気に入るわけだわ。
そうして佇むだけでも、肉感的なプロポーションは間違いなくジェラールの獣欲を触発していた。曲線のついたラインがボディスーツをくぐり、想像を掻き立てる。むっちりとした太腿も網タイツを引き伸ばし、危ういほどの色香を漂わせた。
しかしジェラールはブリジットをよそに、モニカを呼ぶ。
「しょうがないな。モニカ、手本を見せてやれ」
「あたしが? で、でも……」
「ブリジットの前じゃ恥ずかしいかい? いいから、おいで」
おずおずとモニカはブリジットの傍を横切り、ソファへと歩み寄った。ジェラールに腕を引かれ、その膝の上に座らされる。
「ち、ちょっと?」
「きみの席はここだろ。アンナもこっちで座るといい」
「は、はい。それでは……」
彼の右手のほうにはアンナが招かれた。ソファにはもたれず、ちょこんとお尻だけ乗せて、モニカに『本当によろしいのでしょうか』と目配せしてくる。
「どっちのウサギさんも可愛くて、目移りするなあ」
それでもジェラールの手が彼女に伸びることはなかった。あくまでモニカにだけ腕をまわし、脇腹や太腿を撫でさする。
「くすぐったいから、や、やめてってば」
「そんなこと言って、本当は嬉しいくせに。もっとおれに甘えてごらん」
ブリジットにこそ見せつけるように、ジェラールはモニカ王女を抱き寄せて、耳たぶを噛んだ。胸にも手を伸ばし、バニースーツに指を引っ掛ける。
「まっ待て! 貴様、それ以上の狼藉は……」
「狼藉? これが、おれたちのデートなんだけどね」
ブリジットは癇癪を起こすも、ジェラールの悪戯めいた愛撫は止まらなかった。モニカもブリジットの手前、羞恥心を燃えあがらせながら、彼の手つきに息を乱す。
「ん、ぁはあ……ほんと、やめなさいったら? ジェラール」
「いい声が出せるようになったじゃないか。その恰好のせいかな?」
嫌がるつもりで抵抗しても、彼の興奮を煽るだけ。早くもボディスーツの裏へと侵入され、胸の膨らみを鷲掴みにされてしまった。
「ひゃうっ?」
麓から押し揉まれ、快感が閃く。
「ブリジットじゃ、こうはいかないだろうね。可愛いぞ、モニカ」
甘い囁きにも酔わされ、くらっとした。ブリジットよりも愛されている――などという女として優越感が、心ならずもモニカを高揚させる。
「んあぁ? ま、待って……ジェラ、っはあ」
「前みたいに『ラル』って呼んでくれないのかい?」
おかげで抵抗には必ず妥協がつきまとい、ジェラールの愛撫を受け入れるまでの時間稼ぎにしかならなかった。
遠慮がちにアンナがジェラールの右腕にしがみつく。
「あ、あのぅ、ジェラール様……モニカ様が困ってらっしゃいますので……」
「あれ? ひょっとして、きみもこんなふうにされたいのかな」
まるで図星を突かれたかのように、メイドの初心な小顔も朱に染まった。恥じらいの仕草もバニーガールの恰好では挑発にしかならず、ジェラールを強烈に惹きつける。
何もできないのは、正面で佇むブリジットだけ。
「ア、アンナまで……もうやめてくれ」
「ちょ、ちょっと、ジェラール? ブリジットがすごく見て……んふぁ」
べろりと頬を舐められるたび、モニカは色っぽく悶えた。白い肌は香汗にまみれ、発情期のにおいを漂わせる。モニカ自身が酔ってしまうほどに。
ジェラールはブリジットを冷めた表情で一瞥した。
「きみがモニカよりおれを楽しませる、だって? 騎士団長殿は口だけみたいだね」
「くっ……その汚らわしい手を、今すぐ姫様から離せ。外道め」
「モニカが嫌がるなら、ね。……そう見えるかい?」
耳たぶを優しく食まれ、モニカは女の快感に身体を打ち震わせる。
「ああっあぁ? そ、そこは」
「そこって、どこかな?」
さらに双乳の角を摘まれ、甘美な痺れにも襲われた。それこそ一匹のバニーガールとなって、ジェラールからの抱擁に充足感さえ芽生え始める。
ウサギたちの飼い主が淡々と命令を放った。
「さあ、モニカ。……胸を見せてごらん」
あたかも暗示のごとく頭に響いて、正常な判断をくだせない。ただ、その命令に従ってはならないことだけは、かろうじてわかっていた。
「だめよ、そんなの」
「へえ? だそうだが……きみはどうする? 騎士団長殿」
ジェラールに意味深なまなざしを向けられ、さしものブリジットもびくっと竦む。
「わ、わたしにどうしろと……」
「お待ちください!」
急に声をあげたのは、アンナだった。
「わたくしがお見せしますので、どうか……姫様にはご容赦のほどを……」
もじもじと躊躇いがちではあるものの、頬を染め、自らバニースーツに手を掛ける。そして深呼吸を挟むこと、二回。
三角形の生地は呆気なくずれ、艶めかしい美乳が露になった。
「へえ……」
モニカを抱き締めながらも、ジェラールはアンナのあられもない姿に生唾を飲む。アンナはバニーガールの大胆さとメイドの繊細さを兼ね備え、濃厚な色気を醸し出した。
先を越され、モニカは密かに困惑する。
まさか、いきなり脱いじゃうなんて……ジェラールも真剣だわ……。
まだジェラールが下劣な表情を浮かべるなら、嫌悪のひとつもできた。しかし彼は感心さえして、アンナの健気な献身ぶりを称える。
「最高のメイドだよ、きみは。だからこそ、ぼくもモニカをきみに任せられる」
「お、お褒めいただくようなことでは……ございませんので」
これでリードを取ったアンナだったが、奥ゆかしさを疎かにすることはなかった。ジェラールに差し出すように胸を寄せあげる一方で、真っ赤になってしまった顔を逸らす。
「そうだね。きみの頑張りに免じて、モニカは勘弁してあげても……」
「ま、待て!」
何もできないプレッシャーに耐えかねたのか、ブリジットが踏み込んできた。モニカともアンナとも目を合わせるに合わせられず、唇を噛む。
「……ブリジット?」
「姫様はおろか、アンナにまで無理をさせては、騎士の名折れだ。……ジェラール、そんなに女の胸が欲しければ、わたしのもので満足するがいい」
その両手がボディスーツの脇腹へと親指を差し込んだ。黒光りする生地はずれ落ち、小振りなメロンほどある豊かな裸乳がたわわに弾む。
魅惑のサイズにジェラールは目を見張った。
「大きいじゃないか。モニカも見てみなよ。すごいと思わないか?」
「え、ええ……」
彼に加担するつもりはなかったが、モニカもブリジットの巨乳ぶりには感服する。
赤面ししつも、ブリジットは意を決したようにソファへと歩み寄ってきた。ジェラールの左に腰を降ろし、もどかしそうに網タイツの太腿を擦りあわせる。
「これでいいのだろう? ひ、姫様は解放しろ……」
「わたくしのこともお好きになさってください。ですから、モニカ様だけは」
負けじとアンナも前のめりになって、双乳を揺らした。
今まで余裕ぶっていたジェラールのほうが狼狽し、声を上擦らせる。
「ま、待ちなよ。そんなふうに迫られたら、おれだって我慢の限界ってやつが……」
彼の腕に抱かれているにもかかわらず、一転してモニカの立場は弱くなった。
このままおとなしくしていれば、自分は胸を出さずに済む。だからといって、アンナやブリジットをジェラールの凌辱に晒せるはずもなかった。
同時に――彼の瞳がふたりの艶姿で満たされているのが、無性に悔しい。
あなたが欲しいのはあたし、でしょ?
そんな嫉妬さえふつふつと沸きあがってきた。
「ち……ちょっと待って」
「姫様?」
近づいてくるブリジットを制し、モニカも黒ウサギのボディスーツに手を掛ける。
「これは王女であるあたしの役目なのよ。だ、だから……」
自分でも信じられなかった。ジェラールの気を引くためだけに、真っ白な美乳を曝け出し、その大胆さを強烈に自覚させられる。
ジェラールはモニカの艶めかしさにこそ釘づけになった。
「アンナといい、きみといい……おれを喜ばせるのが上手すぎるぞ?」
モニカの胸にはじかに手を伸ばし、弾むような独特の柔らかさを堪能する。
「あっ? やだ……んはぁ、ジェラールったら」
「マシュマロみたいだね。こうすれば、もっと大きくなるのかな」
曲線は上からも下からも彼のてのひらで包まれた。桜色の突起を指で弾かれると、痺れは肩まで突き抜け、吐息が一段と熱を帯びる。
ジェラールの囁きが耳に触れた。
「一番はきみさ。心もおれのものになりなよ、モニカ」
「だめよ……あたしは、っはあ、ソ、ソール王国のお姫様……なんだもの」
気高い王女でありたい女の自分と、快楽に溺れていたい牝の自分とが葛藤する。
ジェラールはモニカの反応を見逃さず、感度のよいところを集中的に擦り立てた。バニースーツのハイレグカットにも侵入の気配を近づけ、モニカを竦ませる。
そこにアンナとブリジットの手も割り込んだ。
「おっ、お待ちになってください! ジェラール様」
「姫様もお気を確かに! このような男に身体を許すなど……」
愛撫を遠ざけられ、モニカはもどかしさに息を切らせる。
「はあ、はぁ……う?」
解放されたはずなのに、身体は疼きを漲らせていた。バニースーツから胸を曝け出しているにもかかわらず、汗をかくほどに暑い。
おもむろにジェラールは席を立ち、ソファには三匹のバニーガールを残した。
「そうだね……じゃあ、一番おねだり上手なウサギさんを苛めてあげるよ。こっちにお尻を向けて、おれを誘ってごらん」
モニカたちは一様に顔を赤らめ、尻込みする。
「さ、誘うって……?」
「わかってるくせに。王女を守れるかどうかは、きみたち次第ってことさ」
中央のモニカ越しに、アンナとブリジットは目配せとともに頷きあった。ふたりしてソファの背もたれによじ登り、ウサギの尻尾を上に向ける。
「き、貴様が帝国の王子でさえなければ……」
「わたくしは構いません。ど、どうぞ? ジェラール様のお好きに……」
反抗的なブリジットは悔しげに、従順なアンナは恥ずかしそうに赤面しながら、おずおずとウサギのお尻を差し出した。
ジェラールは遠慮なしにバニーガールの後ろ姿を眺め、唇をひと舐めする。
「いいねえ! アンナもいいが、強情なブリジットをへし折ってやるのも面白そうだ」
「……早くしろ。ただし、姫様には一切手を出すな」
とうとう彼の手がふたりのお尻へと伸びた。しかしウサギの尻尾に触れるだけで、愛撫を始めようとはしない。ただ、真中のモニカには巧みにプレッシャーを掛けてくる。
「きみは見てるだけでいいのかな?」
「……っ!」
ここで小さくなっていれば、今夜のところは凌辱から逃れることができた。だが、彼が自分以外の女で満足するさまなど、見ていられない。
「あ、あたしも……」
淫らなムードにもあてられ、モニカは裸の胸をソファに押しつけた。アンナやブリジットとウサギのお耳を揃えつつ、ジェラールの前で懸命にお尻を浮きあがらせる。
「ほら、これでいいんでしょ? ジェ……ひゃああっ?」
「これを待ってたんだよ、モニカ!」
すぐさまジェラールがモニカのお尻に掴みかかってきた。網タイツ越しに太腿を撫でまわしては、バニースーツの股布を指でなぞる。
お尻にはキスを落とされ、腰から下が反射的に震えた。
「こっ、こら! そんないきなり……んはあ、激しくしないで……!」
脚を閉じようにもこじ開けられ、乙女の香りを吟味されてしまう。モニカのお尻を好き放題に撫でながら、ジェラールは秘密の部分を躍起なほど嗅いだ。
「きみは本当に可愛いウサギさんだ。病みつきになりそうだよ、この柔らかさ」
際どいところを舐められて、モニカは瞳に涙を溜める。
「やだっ? そんなとこ……」
「は、辱めるなら、わたしにしろ! これ以上の狼藉は」
横からブリジットがお尻を割り込ませてきた。アンナもウサギの尻尾を揺らし、モニカとジェラールのスキンシップに嫉妬さえ見せ始める。
「ジェラール様? あの、わたくしにも……」
「ごめん、ごめん。ふたりだけで盛りあがってちゃいけないか」
やっとジェラールはモニカウサギの股座から唇を離し、涎を拭った。
「お姫様に触られるのが嫌なら……よし、こうしよう。モニカ、きみが自分でやるんだ」
「はぁ、はあ……え?」
半ば朦朧としていたせいで、彼の命令が理解できない。促されるまま、モニカは彼に正面を向け、呼吸のたびに汗みどろの裸乳を上下させた。
「じ、自分でって……なんのこと?」
「知らないとは言わせないよ。前にアンナにされたのを思い出して、自分で慰めたことがあるんだろ? それくらい気持ちよかったはずだよ」
「――ッ!」
誰にも知られてはならない夜の秘め事が、モニカの羞恥心を燃えあがらせる。
あの夜、アンナに散々弄られ、モニカは初めて『絶頂』を体験した。それを再現しようと、真似をしてみたことはある。
いけないことと頭では理解し、己の行為を軽蔑しながらも。
「やったことなんて、あぁ、あるわけ……」
「いいや。それは『知ってる』って顔さ。で、上手にはできるのかい?」
ブリジットだけはそれを知らないようで、首を傾げた。
「何の話だ? 姫様、どうされたのです」
それをモニカに教えてしまったアンナは、浮かない表情で口を噤む。この場で自慰などできるはずもなかったが、ジェラールの威圧的な命令は有無を言わせなかった。
「できないなら、さっきの続きでおれがイかせてやってもいいんだが」
「や、やるわ! やるから……」
彼にキスで荒らされるよりはと、モニカは覚悟を決め、スローモーションで乙女の部分へ右手を伸ばす。網タイツは薄いため、ほとんどじかに触れることができた。
バニースーツの股布をのけ、ぎこちないなりに指を繰り出す。
「ン……は、はあ」
とても見せられず、太腿を閉じあわせていると、注文をつけられてしまった。
「もっとよく見せるんだ。脚を広げろ」
ジェラールの言葉に普段のような穏やかさはない。ワイングラスを片手にテーブルへと腰掛け、きびきびと言い放つ。
「おれにすべてを曝け出せ。でないと、満足できないな」
「は、はい……んふうっ?」
アンナとブリジットが固唾を飲む中、モニカは稚拙に手首を返した。
ひとりでも上手にできないのに、ひとに見られて、快感に耽られるはずもない。指の動きも要領を得ず、網タイツを擦るだけになる。
「やっぱり無理よ、こんなの……」
まごついていると、ジェラールはアンナを急き立てた。
「しょうがないな。手伝ってやるんだ、アンナ」
「わたくしが、ですか?」
「ほかに誰がいるんだい? この間の夜みたいに、お姫様を気持ちよくしてやれ」
アンナはモニカの拙い自慰を見詰め、紅潮する。
「い、いらないってば! 自分でするから」
咄嗟にモニカは下のガードを固めるも、そのために上が疎かになった。ウサギのアンナが憚らずに右から迫ってきて、モニカの裸乳にキスで吸いつく。
「あ――あふぁあっ?」
たまらずモニカはしゃくりあげ、ウサギのお耳を振りまわさずにいられなかった。アンナの温かい舌がぬるりと突起にまとわりつくだけで、のけぞるほどに腰が跳ねる。
すでにアンナは淫猥なムードに飲まれ、正気を失っているようだった。
「モニカ様、んぷあっ、ろぉぞ? 気持ちよく……ンッ」
とろんとした顔つきでモニカに見惚れ、キスに熱を込める。
同時にモニカの右手を取り、バニースーツの裏へと潜り込ませてもきた。彼女の巧みな指捌きに導かれ、モニカも徐々にコツを掴む。
「へはあぁ、らめ……そんなにしちゃ、あっ、あたし、また……!」
だんだん何に対して抗っているのか、わからなくなってきた。火照った身体がは快楽を歓迎し、抵抗は言い訳がましくなる。
なんで? ひとりだと上手にできない、のに……だめ、気持ちよくなっちゃ……!
ひとりきりの夜に自ら慰めても、達することはできなかった。しかし今は身体じゅうが感度を高め、彼の視線ひとつにさえ疼きを漲らせる。
「ずっと我慢してたのかな? モニカはいやらしいお姫様だね」
「い、言わないで? あたしは……っひはあ? アンナ、も、もっと優しく!」
意地悪な言葉を否定する余裕もなかった。それこそ『いやらしいお姫様』として、メイドのキスに悶えつつ、快楽に飲まれていく。
「姫様、お気を確かに……」
傍で見ているブリジットさえ、ムードに飲まれつつあった。
「きみも手伝ってあげなよ、ウサギさん。お姫様にご奉仕してあげないと」
「ば、ばかな……わたしはそのような」
言葉では拒絶するのものの、モニカの艶姿から目を離そうとしない。ごくりと咽が鳴るほど息を飲んでは、渇いた吐息をにおわせる。
「ブリジット? ほんとにだめなの、た、助けてぇ?」
モニカが身じろぐと、まだ責められていない左の美乳が弾んだ。それがブリジットの獣欲に拍車を掛けたらしい。
「姫様、わたしはもう……うぁ、あ……」
彼女の崇高な忠誠心が、獣じみた衝動に取って代わられるのを、モニカは目の当たりにした。ブリジットも覆い被さってきて、モニカの左の裸乳を頬張る。
「ひはぁああんっ!」
右も左も敏感な蕾を吸われながら、モニカは自ら乙女の秘密を弄り、悩乱した。アンナの指を押しのけるように侵入を深め、快感を高めていく。
おかげで脚が引き攣り、閉じられなくなってしまった。はしたない自慰を止められず、ねちゃねちゃと蜜をかき混ぜるさまを、ジェラールにじっくりと見物される。
「おやおや。仲のいいウサギさんたちだねぇ」
「んむぅ……もにひゃ、さま……」
アンナは目を瞑り、一心不乱にモニカの突起を吸いあげた。ブリジットのほうは恥辱の涙を浮かべつつ、それでも丹念に舌を巻きつけてくる。
「ひめさま、っぷあ、お……おゆるひを」
ついには快感が臨界点を超えた。モニカはしどけない顔つきで舌を出し、発情期のエクスタシーに酔いしれる。
「だめっ! あ、あたひ、これっ、えあ……へぇああぁあああーッ!」
蕩かされるような恍惚感に飲まれ、全身が打ち震えた。瞳は悦びで満たされ、真正面のジェラールを愛しそうに映し込む。
バニースーツは股座の一帯がびしょ濡れになっていた。網タイツも蒸れ、アンナ、ブリジットとともに牝のにおいをふんだんに漂わせる。
「……っはあ! はあ、ぁはあ……」
のけぞりの姿勢からモニカが虚脱すると、アンナとブリジットも息を切らせた。
満身創痍のモニカにジェラールが熱い視線を注ぎ込む。
「我慢できたのが不思議なくらいだよ。マゾウサギのお姫様」
マゾウサギ。侮辱されたはずなのに、モニカの胸はさらに高鳴った。
形はどうあれ、彼に求められることに女の部分が悦びを感じる。モニカの中で今、倒錯した愛が芽生えつつあった。
アンナはくたっとモニカにもたれ、ジェラールを見詰め返す。
「ジェラール様もモニカ様も、わたくしのご主人様でございます、ので……」
「いい子だね。モニカのこと、よろしく頼むぞ」
彼女ばかりジェラールに認められるのが悔しくて、無意識のうちにモニカはジェラールの手を取ろうとした。ところが、隣でブリジットが激しく咳き込む。
「げほっ、ごほ! き、貴様……よくも、わたしにこのような真似を!」
我を取り戻したらしい。しかしジェラールは傲岸不遜な態度を改めなかった。
「きみが勝手にやっただけだろ? おれは『手伝ってやりなよ』と声を掛けただけさ」
「いけしゃあしゃあとッ!」
ついにブリジットは激昂し、ウサギのお耳を足元に叩きつける。
「ブリジット? お、落ち着いて……」
「こんな男の肩を持つのですか? 目をお覚ましになってください!」
もはやモニカの声も届かないほど、彼女は荒れた。憎きジェラールに人差し指を突きつけ、怒りの言葉を吐き捨てる。
「貴様は必ずこのわたしが締めあげてやる。必ずだッ!」
「フッ。期待してるよ。ウサギさん」
父が残した遊戯室に声高らかに響き渡る、宣戦布告。
まさかブリジット……ジェラールもどうして、こんなこと?
うら若き騎士団長は義憤に駆られていた。
☆
遊戯室での悶着があってからというもの、気分が上向かない。仕事の効率も下がる一方で、モニカ王女はとうとう政務を放り投げた。
「ごめんなさい、クリムト。気分転換に行ってくるわ」
「了解しました。お仕事のことは気にせず、ゆっくりなさってください」
補佐官のクリムトは嫌な顔ひとつせず、モニカの好きなようにさせてくれる。それだけモニカの顔色が悪かったのだろう。
クリムトには迷惑掛けてばっかりね、ほんと。
そんな彼にスイーツでもご馳走しようと、モニカは城下へと繰り出す。
そのあとをセリアスが追ってきた。
「ひとりになるなと言ったはずだぞ、王女」
ジェラールの指示とはいえ、彼はモニカの護衛として神経を尖らせている。それを迷惑に思ったつもりはないが、今日に限っては苛々とさせられた。
「たまにはいいでしょ? あたしにだって、ひとりになりたい時はあるの」
「敵に狙われても、か」
「ええ。あなたはジェラールの護衛をしてなさいったら」
我ながら八つ当たりに過ぎず、情けない。しかしモニカのひとりの人間、抱え込めるストレスには限度もあった。
レオン王は拉致され、サジタリオ帝国には侵攻を許して。ジェラールのせいでブリジットはとうとう堪忍袋の緒を切らせてしまったのだから。
「あたしのことは放っておいて」
「……困ったお姫様だ」
モニカはセリアスを無視し、行きつけのケーキ屋を覗き込む。
その瞬間、ショーウィンドウがばりんと割れた。
「きゃあああっ?」
すかさずセリアスが剣を抜き、モニカの前方へと躍り込む。
「さがっていろ! フッ……どうやら向こうも痺れを切らせたようだぞ」
屋根の上から黒い人影が飛び降りてきた。覆面で顔を隠しており、素性はわからない。弓なりに反った剣を構え、セリアスと対峙する。
「目的は誘拐か? それとも……」
「……………」
「無口なやつだ。モニカ王女、前には出るなよ!」
アサシン、東方でいう『忍者』らしい男は俊敏な動きで襲い掛かってきた。それをセリアスは難なく受け止め、鍔迫りあいに持ち込む。
「セ、セリアス!」
「じきにひとも集まってくる! いいか、『帝国軍』に保護してもらえ!」
突然の決闘に街は騒然となった。王国騎士団とは別に帝国軍の兵士も駆けつける。
「モニカ様、早くこちらへ!」
「え、ええ……」
その間にもセリアスは忍者と剣戟を重ねつつ、遠ざかっていった。
彼ほどの剣士であれば、心配はいらない。だとしても、モニカは責任を感じずにいられなかった。ひとりで出歩かなければ、敵も直接的な手段には出なかったはず。
大丈夫かしら、あのひと……。
すでに剣士と忍者の姿は見えない。
城下を抜け、セリアスは遺跡のホールで忍者と相対した。
手裏剣に頬を掠められながらも、刀を奪い、敵の右手を刺し貫く。
「……………ッ!」
「はあ、はあ……どうあってもしゃべらんつもりか」
忍者は一言すら話さなかった。捕らえたところで、口を割らせるのは難しいだろう。セリアスのほうも疲弊し、息を切らせる。
とはいえ忍者に対し、憎悪や嫌悪感はなかった。むしろ彼の稀有な実力に感心し、尊敬の念さえ込みあげてくる。
「お前ほどの男が安っぽい暗殺稼業とはな。……どうだ? この件が片付いたら、俺と一緒に『フランドールの大穴』に挑んでみないか」
「……………」
睨みあっていると、中二階の通路に身なりのよい集団が現れた。
「ハッハッハ! ヤキがまわったな、ザザ」
ソール王国の重臣たちが専属の護衛だけ連れ、ホールのセリアスらを見下ろす。
「その剣士を仕留められれば御の字だったが、まあよい」
「貴様らが黒幕か」
セリアスの脳裏ですべての点が繋がった。
やはり王国貴族が軍神ソールの復活を目論み、暗躍していたのだ。しかし彼らは肝心なところで『失敗』をしでかし、隠蔽工作にあの手この手を尽くしている。
「ジェイムズが急逝したのも貴様らのせいらしいな」
「ほう? 一介の傭兵ごときが、よくも首を突っ込んでくれたものだ。ますます生かしておくわけにはいかんなあ」
勝利を確信しているのか、連中は何ら隠し立てしなかった。
護衛のひとりが壁のレバーを引くと、ホールの床がみるみる真っ黒に染まっていく。
「こ、これは? まさか闇の力を!」
「おびき出されたとも知らずに、愚かなやつよ。ワッハッハッハ!」
その影がセリアスとザザに絡みついた。脚の次は胴、胴の次は腕へと至り、闇の世界へと引きずり込もうとする。
「……………!」
忍者は鋼線を投げつけるも、深手を負った右手では届かなかった。
「貴様も余計なことを知りすぎた。ザザ、剣士とともに地下迷宮で朽ち果てるがよい」
とうとうセリアスもザザも闇に飲まれてしまう。
王国の重臣らは高笑いを響かせた。
「ハッハッハッハ! これで厄介なやつは片付いた。あとは……そうだな、騎士団長に頑張ってもらうとしようか」
「では、いよいよジェラールを?」
「騎士団のやつらも喜々として動いてくれよう。われわれのために、な」
やがて闇の力は消え、遺跡のホールは正常な空間に戻る。
「モニカ姫がジェラールと結託すれば、面倒なことになる。早急に手を打たねば」
「焦ることはない。軍神の力もいずれ、われらのものに……」
その場にはセリアスの剣だけが残っていた。
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