Slave To Passion ~妹たちは愛に濡れて~

SCENE 5

 妹らの女学院が夏季休暇に入ったことで、兄のルークスが引っ張り出される機会も多くなった。とりわけシェラとアリスのふたりには懐かれている。

 今日は迷宮の探索も休みのため、三人で一緒に夏の城下を巡っていた。

ふたりの妹はランチを軽めに済ませて、デザートで本気を出す。この時期はアイスクリームの販売が始まり、種類も豊富だった。

 アリスは爽やかな味わいのチョコミントで、シェラは濃厚なキャラメル。

「夏といったらコレです。ミント味は絶対に外せません」

「へえ~、そっちのも美味しそぉ」

 ルークスは食べず、アイスコーヒーで一服していた。これでは保護者同伴の気がしなくもないが、スバルやリーリエほど気負うこともない。

「シェラも随分ここに慣れたんじゃないか?」

「そお? アタシとしてはもっと刺激が欲しいんだけどなー」

 義妹のシェラはスプーンを咥えながら、ジェミニの青い空を仰ぐ。

ルークスは最愛の妹スバルと行き別れた直後にシェラと、シェラは実の兄を亡くした直後にルークスと出会い、義理の兄妹となった。その関係はもう十年も続いている。

 この少女は物心がついた頃からフェンリル団に身を置き、数々の戦場を見てきた。そのために武力衝突を『お祭り』とみなし、平和な生活では『退屈』と感じやすい。

「なんなら、このままジェミニ女学院に正式に入学してもいいんだぞ?」

「えぇ~? そりゃあ、そこそこ気に入ってるけどぉ」

 実のところルークスは、彼女の父親であるフェンリル団の団長からの要望もあって、シェラをジェミニ自治領へと連れてきた。

王子の立場で押せば、シェラを女学院に預けることは造作もないだろう。団長は娘に淑女としての教養を身に着け、ゆくゆくはルークス王子の花嫁に、と考えているらしい。

「中途半端に手ぇ出してから逃げたら、殺されるよなあ……」

「へ? どったの、アニキ」

「おまえのパパは大陸最強だもんなって話さ」

 とはいえ、ルークスにはシェラを異性として意識したことなど一度もなかった。シェラにしてもそのはずで、それこそ本物の兄妹のように男女の垣根を超えている。

 実の妹たち、スバルやリーリエでは決してこうはいかなかった。

「お休みの間も学院のプールは解放されてるそうです。お兄ちゃん、今度、水泳の練習に付き合ってくれませんか」

 もうひとりの妹は己のペースを乱すことなく、ジェミニの夏を満喫している。

「女子校のプールで? きみはおれをスバルに逮捕させたいのかい?」

「こないだみたいなことさえ自重していただければ、大丈夫です」

 最近になって新しい妹となった、アリス=フレアー。

 彼女は十年前、ジェミニ王宮の魔導研究所に『研究材料』として軟禁されていた。それを不憫に思い、足しげく通っていた記憶はおぼろげにある。

「アリスはよくこいつと遊んでくれてるけど、振りまわされたりしてないかな」

「ご心配には及びませんよ、お兄ちゃん。こっちも同じくらい振りまわしてますので」

 その少女にジェミニで十年ぶりに再会を果たしたものの、ルークスのほうはよく憶えていなかった。しかしアリスはルークスを忘れず、要求してきたのは先日のこと。

 シェラのように自分も『妹』として扱って欲しい、と。

「言っとくけど、アニキを振りまわしていいのはアタシだけだかんねー? アリス」

「おやおや。もう余裕がないんですか? シェラ」

「な、何よぉ? アニキの妹になったばっかのくせに……」

 最初は戸惑ったものの、こちらの妹も気兼ねせずにいられた。シェラを『動』とするならアリスは『静』で、性格は真逆だが、我の強さだけはよく似ている。

 チョコミントのアイスをゆったりと味わいつつ、アリスは真顔で訪ねてきた。

「ところで……お兄ちゃん、昨日はスバルさんたちとお出かけだったんでしょう? スバルさんもここでアイスを食べたそうですけど」

「ん? あぁ、リーリエもね……はあ」

 昨日の出来事を思い出し、ルークスは気だるげな溜息をつく。

「妹というより『恋人』がふたりですから。さぞかしイイ思いをしたんでしょうね、お兄ちゃん。ひゅーひゅー」

「それって『二股』になんないの? リーリエも怒らない?」

「妹は恋人じゃない、そして妹は何人いてもいい……そういう建前で、お兄ちゃんはスバルさんとリーリエさんの両方に手を出したんです。なんというハレム的発想! ちなみにハレムというのはですね、絶倫の権力者が正妻だけでは飽き足らず……」

「そっちの妹に変なことを教えないでくれ」

 聡明なアリス嬢の仰る通りで頭も痛くなってきた。

 最愛の妹・スバルに焦がれ、かといって王家の闇に翻弄されてきたリーリエも放っておけず、抑制できなくなった自分が悪い。それはルークスも自覚している。

 しかしそれは別にしても、スバルとリーリエはあまりに多感すぎた。昨日も兄妹でアイスクリームを分けあえば、

『や、やだ……間接キスになっちゃうのよ? お兄様』

 アイスティーでもストローを一本足して、

『一緒に飲みましょ、兄さん』

『ちょっと、リーリエ? それはあたしがやろうと、楽しみに……』

『スバルはさっき間接キスしてたじゃないの。これでフェアだと思うけど?』

 と恋愛小説さながらのテンション。夜は夜で添い寝だけのはずが、下着姿で大胆に迫られ、こっそり自慰のオカズにされた。

いつでも『OK』の妹たちと四六時中この調子では、こちらの身が持たない。

 これでもルークスは一応、我慢はしているのだから。

 シェラはとっくにキャラメル味のアイスを平らげ、頬杖をついていた。

「でさあ……アニキは結局んとこ、誰が一番可愛いと思ってんの?」

「そ、それはだな……」

 ルークスの脳裏には真っ先にスバルの顔が浮かぶ。しかし当然、ずっと傍にいるシェラや、健気なリーリエ、ユニークなアリスも可愛い妹だった。

 決めあぐねていると、アリスが真剣な表情で呟く。

「質問を替えましょう。お兄ちゃん、誰だったら抱けますか?」

 それこそ図星を突かれたような気がした。

 本当の妹ではないからといって、シェラやアリスを押し倒そうとは思わない。そもそもスバルやリーリエを辱めたのも、このような兄には幻滅してもらうのが目的だった。

「まだどっちともヤってないってこと? アニキ」

「実の兄妹ですから。でも、お兄ちゃんはスバルさんもリーリエさんも……」

 ここまで見透かされては観念するほかない。

「……抱きたいと思ってるよ。本気で」

 アリスとシェラは互いに顔を寄せ、ひそひそと囁きあった。

「妹と二股宣言です。王族同士で正統な子孫を残そうという本能なのでしょうか」

「どっちかは選べないわけ?」

 どんなに綺麗な言葉で飾ったところで、ルークスの気持ちは兄として間違っている。

 それでもスバルは十年ずっと重い焦がれた女の子で、リーリエも同じだけ自分を待ち焦がれてくれた女の子。ふたりを『妹』の一言で拒むことはできなかった。

 コーヒーを飲み干し、ルークスは席を立つ。

「次はシェラの服を見に行こうか。女学院の友達と一緒に出歩くなら、もう少しまともに着飾ったほうがいいだろうしさ」

「私もお洋服探すの、お手伝いします。ついでに着せ替えて遊びましょう」

「学院のやつらってそればっかよねぇ。お化粧だの、お洒落だの」

 アリスとシェラはそれこそ恋人のように兄の腕に掴まり、じゃれついてきた。

 

 

 ジェミニ王宮の迷宮――異次元空間の全貌が徐々に明らかになってくる。

 王家の伝承にあった通り、この迷宮はセントラルエリアを中心によっつの区画に分かれていたの。それぞれ地水火風の四大元素を特色として、モンスターもそれに準じてる。

 強風と冷気が織り成す風のエリアは、すでに突破済み。何しろシェラの十八番が火炎攻撃だから、ずっと主導権を握っていられた。アリスの火炎魔法も併せて、深層のアイスドラゴンも難なく仕留めたわ。

 土のエリアもモンスターの硬さには手こずらされたけど、魔法主体の戦法で切り抜けることができた。全属性に精通してるアリスの力はやっぱり大きい。

 問題は半分が水没してる水のエリアと、常に体力を奪われる火のエリアだった。あたしたちは先に火のエリアから探索を始めることに。

 タウラス帝国とキャンサー連合の内戦はまだまだ収拾の目処が経ってない。おかげで、ジェミニの王家がアスタリスクに一番乗りすることも現実味を帯びてきた。

 本当に天上都市なんてのがあれば、ね。

 火のエリアでも終点に到達し、この区画の守護者らしいフレイムドラゴンと対峙する。けれどもその灼熱の猛攻を前にして、進退は窮まってしまった。

「きみもフィールドの展開にまわってくれ、アリス!」

「は、はいっ!」

 あたしとアリスはふたり掛かりでレジストファイア(耐火炎の障壁)を張り、火竜のブレスを食い止める。まともに喰らったりしたら、一瞬で黒焦げに違いないわ。

 ブレス攻撃のインターバルを先読みして、リーリエが駆け出す。

「シェラちゃん、合わせて!」

「オッケー! これならぶっ通せるでしょ!」

 リーリエの動きに釣られ、フレイムドラゴンが鎌首をもたげた。その喉笛を、シェラの矢が怒涛の勢いで一直線に貫く。

すかさずリーリエが竜の口に火炎ビンを投げ込んだ。

 首を突き破られたうえに呼吸を妨げられ、火竜は苦しげにのたうちまわる。無茶苦茶に尻尾を振りまわしながら、断末魔のような咆哮を轟かせるの。

 お兄様の作戦は上手くいったみたい。

「みんな、離れるんだ! 動きが止まるまで近づくんじゃないぞ!」

 お兄様の号令に従い、シェラは軽い身のこなしで距離を取った。この戦いでは弓矢で狙撃に徹してたから、真っ先に安全圏まで逃れてくれたわね。

 リーリエもボールが跳ねるように戻ってきて、ついでにアリスを抱え込む。

「掴まって、アリスちゃん!」

「はぁ、はあ……かたじけないです」

 体力の低いアリスも、これで安全圏まで逃げきった。

 その間、あたしは最前列でレジストファイアの維持のため踏ん張る。

「あとはおれたちだよ、スバル。3、2、1……」

「今だわ!」 

 火竜が尻尾を大きく振りきる瞬間を狙い、あたしとお兄様も後ろにさがった。そのつもりが、先にフレイムドラゴンがこっちへ倒れ込んできたの。

「お兄様! だめだわ、上から!」

「し、しまっ……」

 同時に竜の喉笛で爆発が生じた。

そのせいで超高熱のブレスが押し出され、口から一気に溢れてくる。レジストファイアを解除するのが早すぎた――そう思った時には、あたしたちは炎の中へ。

 あの日と同じように、真っ赤な炎が襲い掛かってくる。

「きゃあああああああッ!」

 それからどうなったのかしら……?

次に目を開けた時、あたしの周囲では青白い氷が張っていた。ドラゴンの火炎にアリスが氷結魔法を重ねてくれたようで、あたしは多少、服を燃やされた程度で済む。

 けど、リーリエたちは顔面蒼白になってた。

「兄さん! しっかりしてください、兄さんっ!」

「すぐに応急処置を……あれ? 治療魔法のコードって、えぇと」

あたしの顔も同じ色に染まる。

お兄様が……お兄様が酷い火傷を負って、倒れていたの。愕然としつつ、あたしは四つん這いのままでお兄様の傍へと駆け寄る。

「やだ、お兄様! 聞こえてるんでしょ? お願い、目を開けてったら!」

「早く外に運ばないと! で、でもどうやって……」

 冷静沈着な羅刹のリーリエさえ、すっかり動揺してしまってた。

 ただ、シェラだけは平然と伸びをしてる。

「そんくらい大丈夫だってば。半分ずつ氷で冷やしといて、第3サークルの魔法で火傷の処置だけしとけば、さ」

「ちょっと、シェラ! こんな時に冗談言ってないで……」

「冗談じゃないのに、もお~。いいから、アタシの言う通りにしてよ」

 動揺の中で半信半疑になりながらも、あたしたちは彼女の助言に従うほかなかった。

 

 ジェミニ王宮を脱出したら、大急ぎでお兄様を屋敷へと運ぶ。

 伯母様はお仕事でいなかったけど、物資はメイドたちがすぐに用意してくれた。幸い応急処置が功を奏したおかげで、見た目ほど深刻なことにはなってない。

さすがフェンリル団の団員だけあって、シェラの手際のよさには驚かされた。

「ふあ~あ……疲れたから、アタシは寝るね。お部屋貸して~」

「それじゃあ、私も休ませてもらいます」

 眠そうなシェラに続いて、アリスも疲れた表情で席を外す。

特にアリスのほうは気を張りっ放しだったものね。寝室にはあたしとリーリエが残り、お兄様の手をぎゅっと握り締める。

「本当に大丈夫かしら……」

「命に別状はないはずよ。火傷もほとんど……」

不安で胸が張り裂けそうだった。お兄様の寝顔がこのまま死に顔になったら……と思うだけで、背筋が冷たくなるの。リーリエも同じで心細いに違いない。

あの時、あたしがもっと竜の動きに注意してたら……。

きっとお兄様があたしを庇ってくれたんだわ。レジストファイアにしてもあたしひとりじゃ魔力が足りなかったせいで、アリスも守備にまわり、氷結魔法が出遅れたの。

「お兄様……お願い、早く声を聴かせて」

「兄さん、どうか……!」

そんな妹ふたりでお兄様の寝顔を覗き込んでると、ぴくりと眉が動いた。

「……やれやれ。これじゃ、いつもの寝たふりもしてられないな」

おもむろにお兄様が目を開け、ばつが悪そうに微笑む。

 手もしっかりと握り返してもらえた。

「お、お兄様! ぐすっ……心配したんだからぁ」

「よかった……! 大丈夫なの? 痛いところはない?」

 あたしとリーリエはほっとして、瞳に涙を浮かべた。安心して涙が出るなんて初めてのことで、止め方がわからない。

「問題ないよ。これくらいの怪我、フェンリル団では何度も経験してるからさ」

「自慢になってないわよ、もう……お兄様ったら、ひとの気も知らないで」

 先にリーリエが手を離し、立ちあがった。

「咽が渇いたでしょう? 兄さん。今、飲み物を持ってくるから」

「そうだわ! お腹は空いてない? すぐに作ってあげる」

 お兄様を元気づけてあげたくて、あたしも腰をあげる。安心できたおかげで、ようやく判断力も戻ってきたみたいだわ。

 妹に心配を掛けまいと、お兄様も素直に甘えてくれる。

「任せるよ。食べさせてくれるんだろ?」

「もちろんよ!」「ええ!」

 あたしとリーリエの返事が重なった。お兄様に『アーン』で食べさせる権利はひとつしかないから、早くも火花を散らせることに。

「……あなたはお飲み物の係でしょ? リーリエ」

「お料理は私のほうが上手いはずよ。レストランで働いてたんだもの」

「どうでもいいから、早く頼むよ。腹が減ってるんだ」

 しかしお兄様の仲裁もあって、今回のところは休戦とした。寝室にお兄様を残し、あたしたちはキッチンへと急ぐ。

「そういえば、お兄様、さっき『いつもの寝たふり』って……?」

「気付いてないとでも思ったかい? 妹がオナニー狂だなんて先が思いやられるなあ」

「おおおっ、おな?」

 あたしとリーリエは湯気が立つほど赤面し、うろたえた。

 お兄様には内緒の『夜更かし』……とっくにばれちゃってたみたい。

 

 

 お兄様が全快するまで、迷宮の探索は見送ることとなった。

お昼頃にはアリスとシェラがお屋敷までお見舞いにやってきて、静養中のお兄様を連れ出そうとしたり、宿題を押しつけたりするの。

「ちょっとだけお庭に出ませんか? 暑いですけど、お日様も浴びないと……」

「なんかさぁ、二学期? までに、やんなくちゃいけないんだってー」

この妹たちと来たら、んもう……お兄様のこと、すぐ遊び相手にしたがるんだから。

もちろん、あたしとリーリエも暇を見つけては、お兄様のもとへ通い詰めてる。ふたり一緒だとお兄様に気を遣わせちゃうから、ひとりずつって決めてた。

リーリエとは少し時間も空けて、あたしはお兄様の寝顔をそおっと覗き込む。

「……きゃっ?」

 そのつもりが、罠に掛かったように抱き込まれてしまった。

「甘いよ、スバル。そう何度もキスはさせてやらないさ」

 妹の不埒な所業は把握済みだったのね……。

 お兄様はすっかり慣れた手つきであたしの背中を撫でおろした。遠慮なしにスカートをのけて、ショーツ越しにお尻を掴んだりするの。

「ちょ、ちょっと? 安静にしてなくちゃ」

「こうしてると元気が出るからね。今日はどんなの穿いてるんだい、スバル」

これじゃ『元気』の意味が違う気もするけど……恥ずかしがりながらも、あたしは少しだけスカートを捲しあげ、リーリエのとは色違いの白いショーツを披露した。

「前にお兄様に選んでもらったやつよ。お、憶えてるでしょ?」 

「おれがランジェリーショップなんぞに連れ込まれた時のやつだね」

「あ、あれはお兄様が……」

 相変わらず困ったお兄様だけど、もう大丈夫のようね。あたしはスカートからお兄様の手を追い出し、椅子へと腰掛ける。

 久しぶりに兄妹ふたりきりの一時となった。

 夏の午後は日差しが強くて、外は鮮やかなほどに照り返ってる。でも、お部屋の中はアリス謹製の魔導式冷風扇もあって適度に涼しかった。

ふとお兄様の手があたしの頬に触れる。今度は優しく、宥めるように。

「……怖い思いをさせちまったな、スバル。おれが守ってやるつもりだったのに」

「ううん。お兄様が庇ってくれたから、あたしは無事だったもの」

 今はお兄様の『妹』でいられるのが嬉しかった。誰にも文句を言われたりせず、好きなだけお兄様に甘えていられるから。

 いっそのこと、探検なんて辞めちゃって欲しい。

「もうあんな無茶はしないでね? お兄様」

「ああ。次のエリアは作戦を練りなおすとしよう」

 それでもお兄様は天上都市を求め、迷宮への挑戦を続けるつもりでいた。

 アスタリスクの魔導兵器を獲得するために? ……そうじゃないわ。もしそうなら、わざわざ危険を冒してまで、自ら迷宮に潜ることもないでしょ。

 お兄様の手を取り、あたしは本心を打ち明ける。

「本当のことを教えて。お兄様はアスタリスクを手に入れて、どうするつもりなの?」

 お兄様の双眸はどこか遠くを見据えてた。

「……スバルは破壊したいと言ったね。アスタリスクに魔導兵器が残ってるなら」

「そうよ。帝国にも連合にも……ジェミニにも使って欲しくないから」

 かつて天空に君臨し、大陸のすべてを支配したという天上都市アスタリスク。その砲撃は大地を削り、河を干上がらせたともいうわ。お兄様の言う通りなら、帝国と連合はアスタリスクを奪取するため、ジェミニに拘ってる。

「お兄様は復讐がしたいんじゃないの……?」

 そう言葉にするだけで、鼓動が震えた。

大使館の襲撃でフェンリル団は一切容赦せず、帝国軍や連合軍には犠牲者も出たもの。ある帝国貴族に至っては、炎に焼かれる以前に脚を斬られてる。

タウラス帝国やキャンサー連合の内戦にしても、フェンリル団が裏で糸を引いてた。よほど強い動機がない限り、そこまでのことはしないはずよ。

 お兄様も否定はしなかった。

「復讐……か。それもいいかもしれない」

 その声は悔恨と自嘲に満ちて、虚しくさえある。

「けどね、そんなことより知りたいんだよ、おれは。このジェミニを、おれたち王家を縛り続けているものが、本当は何なのか。アスタリスクに何があるのかを、さ」

 やはりお兄様の瞳はあたしじゃなくて、遥か彼方を見詰めていた。

「それだけだよ。すべてが片付いたら、おれはジェミニを出る」

「……お兄様? どうして……」

 淡々と別れを告げられ、あたしは言葉を失う。

「今さら十年前の王子が出てきて、どうなる? いたずらに民をけしかけて、無駄な蜂起に走らせるだけさ。そんなことなら、このまま伯母様に治めてもらうほうがいい」

「で、でも……みんなも待ってるはずよ? お兄様のこと」

 お兄様さえ帰ってきてくれたら、ジェミニ王国を再興できる――あたしだってそう信じて、十年も待ち続けていた。その時はお兄様とともに先陣を切る覚悟だって。

そう、先陣を……帝国や連合と戦うために。

「……っ!」

 あたしもまた『戦争』を望んでたんだってことに、愕然とする。

ひとの血を流し、それを大義のためと正当化すること。確かにあたしは王家の……王族の人間にこそ特有の、血生臭い使命感を抱いてた。

「おまえは残って、エリザベート様をサポートして差しあげるといい。そのほうが、おまえも力を発揮できるはずだからね」

「じゃあ、お兄様は本気でジェミニから……?」

「ああ。さよならだ」

 お兄様はただ純粋に、アスタリスクの真相をその目で確かめたいだけなんだわ。

それを『決着』として、ジェミニの地を去るというの。

「さらって行きたくもあったけどな。立派に自立してるおまえの未来を、女というだけで奪えやしない。……だから、おれは」

 だから、なの? お兄様があたしと兄妹の一線を越えなかったのも。

 でも、あたしにはもうお兄様と結ばれることしか考えられなかった。たとえ兄妹でも構わない。こんなにも強く、激しく異性に惹かれたのは、初めてのことだから。

 お兄様だって妹のあたしと一線を越えずにいるから、今なら諦められると思ってる。

 ……そんなの嫌よ。絶対に嫌。

 恋人だったら、ここで『行かないで』と懇願するところなんでしょうけど。あたしは今までになく女の覚悟を決め、分からず屋のお兄様に要求した。

「お願いがあるの、お兄様。お兄様がジェミニを出る前に……ひとつだけ」

「なんだい? スバル」

 ほんの少し声が震える。

「あたしを抱いて」

 兄妹のタブーがあたしの鼓動を跳ねあがらせた。

「気の済むように……気持ちの整理はつけたいから。いいでしょ? ……嫁入り前の身体だなんて言ったら、許さないんだから」

 これはあたしからの挑戦。お兄様がジェミニを去ったら、あたしはいずれ、ほかの男性と添い遂げることになる。それは、お兄様ではないひとがあたしを抱くってこと。

 あたしのことを本気で愛してるなら、そんなの耐えられないはず。

 そして、最高のセックスでお兄様を虜にしてみせるの。たった一回じゃ別れられないくらいに。何回でも、何十回でも抱きたくなるようにね。

 我ながら計算高い女になってしまって、自己嫌悪に駆られた。

 そんなあたしをお兄様は真剣なまなざしで見詰め、囁きに決意を込める。

「……わかった。抱くよ、おまえを」

 実の兄妹にあってはならない駆け引きが今、始まった。

「でも怪我が治るまで待ってくれ。ここで押し倒されるのは、フェアじゃないだろ」

「いいわよ。それなら……来週、どこかのタイミングで、ね」

 あたしはお兄様を求め、お兄様もきっと妹のあたしを切ないほどに求めてる。

 

 

 お兄様の快気祝いも兼ねて、カジノで遊ぶことになっちゃった。

 城下の北区にある、タウラス帝国直営のカジノでね。しかし今は休業してて、新装開店のための準備に取り掛かってた。

 実はもうじき『帝国』のカジノじゃなくなるの。

 今後の経営者はなんとフェンリル団へ。ジェミニ自治領としても、表向きはモンスター掃討で尽力してくれてるフェンリル団のため、便宜を図った形となった。

 もちろんお兄様は超VIP待遇で話がついてるってわけ。あたしたちは今日一日、カジノのゲームホールを貸し切りで使わせてもらえることに。

 ……お兄様の目的? そんなの決まってる。

 カウンターの向かいにある来賓用のソファで、お兄様は悠々と寛いでいた。

「どのウサギさんも可愛いねぇ! 目移りしちゃいそうだよ、おれ」

 それを取り囲みながら、妹たちはウサギのお耳を揺らす。

「どうせこんなことだろうと思ってたわ。……最低」

 よりにもよってバニーガールの恰好で、ね。際どいにも程がある格好に戸惑い、あたしは我が身をかき抱くほかなかった。

 黒光りの艶めかしいボディスーツは、胸元を大きく開け、首筋にはお洒落な蝶ネクタイがひとつ。背中もほとんど露出してて、紐で括ってるだけだから心許ない。

 こういうふうに首周りを肩まで開けるのって、ドレスでもあるけど(デコルテね)、こっちは下着を併用できなかった。

 そのうえハイレグカットは太腿の付け根を越えてる。

お尻にも窮屈なくらい食い込んで、ウサギの尻尾を飾ってた。脚線は網タイツですらりと引き締められ、ハイヒールも合わせて、妖艶さを醸し出してる。

 それほど挑発的で大胆な恰好にもかかわらず、頭の上にはウサギのお耳だもの。

 あたしはリーリエを、リーリエはあたしを見て、その破廉恥なスタイルを自覚した。リーリエのほうも胸が大きいから、その……零れちゃいそうで。

「兄さん、あの……ど、どうかしら」

「似合ってるよ。首輪でもつけて飼いたいくらいだ」

 しかも今日はアリスとシェラまで同じ恰好でお兄様を囲ってた。ひとつ年下のアリスは恥じらい、シェラの背中に隠れたがる。

「こ、このカッコは非常識です。機能面はさほど悪くないのかもしれませんが……」

「可愛いんだから、いーんじゃない? ほらほら、ねっ! アニキ」

 一方でシェラは陽気に笑い、お兄様と同じソファへ飛び込んだ。負けじとアリスも反対側におずおずとつき、お兄様の腕には素直に抱かれる。

「いつもみたいに甘えて欲しいなあ、アリス」

「もうちょっとだけ心の準備を……ごにょごにょ」

 まんざらでもないみたいだわ。おかげで、あたしとリーリエは出遅れた。

「あぅ……えっと、お兄さ――」

「シェラ、今日のパーティーはおまえのパパさんには内緒だぞ」

「別にいーけど……。なんで? アニキ」

「おれが殺されるからだ」

 お兄様ったら、目が生き生きしてる。

 シェラといいアリスといい、いつも以上にスタイルのよさが際立ってた。アリスなんて着やせするタイプで、普段はマントつきの魔導服だから、これには驚かされる。

 それこそ『お兄様の恋人』だったとしても、違和感がないわ。

「スバル、リーリエ。突っ立ってないで、飲み物でも淹れてくれないかな」

「わたしがやるわね。みんな、アイスティーでいいかしら」

「これでお酒があったら酒池肉林ね。ぞっとするわ」

「キャハハッ、無理無理! アニキってば、てんで弱いんだもん~」

 幸いジェミニ自治領では、お酒は二十歳になってから。奔放なお兄様もそこは弁えてくれてる(シェラの言うように弱いってのもあるんでしょうけど)。

 人数分のドリンクを淹れて、あたしたちも腰を降ろす。

「いつまでも恥ずかしがってないで、もっとよく見せてくれよ。スバル、リーリエ」

「そ、そんなふうに言われても……」

 お兄様の熱い視線に耐えかね、あたしやリーリエはすっかり赤面しちゃってた。でも……妹じゃなく『女』として見てもらえるわけだから、複雑な気持ち。

 特に今日は……ふとお兄様と目が合い、あたしは照れ隠しにそっぽを向く。

「どうかしたのかい? スバル」

「な……なんでもないわ」

 お兄様とは今夜こそって約束してるんだもの、セックスを。

 だからこそバニーガールの衣装だって頑張って、お兄様を誘ってる。

 ただ、あたしの抜け駆けにはリーリエも勘付いていそうだった。何かとあたしの前を遮り、お兄様にバニースタイルを見せつけたがるの。 

「ところで、兄さん。あっちのお部屋は、その、一体……?」

 そんな彼女でも困惑せずにいられないのが、ステージの右手にある空間だった。ステージはわかるのよ、奏者が曲を弾いたり、踊り子がダンスを披露するためのものだって。

 その向かって右手のカーテンを開くと、隠し部屋が露になるってわけ。

 そこにはホール型の大きなベッドが置いてあった。ムーディーなランプといい、使い道には容易に想像がつく。

「……お兄様が作らせたんでしょ。あんなお部屋」

「まあね。凝ってて面白いだろ?」

 お目当てのバニーガールを連れ込むためのベッドルームなんだわ。お兄様の素っ頓狂な発想には、ほとほと愛想が尽きそうになる。

 だけど、これはお兄様も『意識』してくれてるってこと。

 普通の恋人同士じゃなくって実の兄妹だから、こういう場所で奇を照らしたシチュエーションのほうが、いいのかもしれない。

 お兄様もカジノの雰囲気を大事にして、今日はディーラー服で決めてる。

 もちろん、今すぐってわけでもなかった。

「お兄ちゃん、この前言ってたビリヤード、私にも教えてください」

「そうだね。じゃあ、相手はシェラにしてもらおうかな」

「しょーがないなぁ。練習に付き合ってあげんだから、さっさと強くなってよねー」

 お兄様はアリスやシェラを連れ、ビリヤード台のほうへ。ふたつあるから、あたしとリーリエも隣で対戦しつつ待つことに。

 お兄様のアドバイスを聞きながら、真面目なアリスはキュー(棒)を構える。

「ええっと……こうですか? お兄ちゃん」

「もっと水平にするんだよ。重心を低くして……」

「ひゃっ?」

 そのレクチャーにかこつけ、お兄様がウサギのアリスをいやらしく撫でまわした。お尻や太腿を網タイツ越しにさすって、手触りを吟味し始めたの。

 さしものアリスも紅潮し、ねちっこい手つきに戸惑う。

「お、お兄ちゃん? あの……」

「お兄様っ! ちゃんとビリヤードしなさいったら!」

 見かねて、あたしはいきり立つものの、お兄様の悪戯は一向に止まらなかった。確信犯的な笑みを浮かべ、シェラの腰にも手をまわす。

「これもビリヤードだよ。なあ? シェラ」

「そーそー。別にアリスは『本当の妹』でもないんだし、問題ないでしょ?」

 その事実にあたしとリーリエは青ざめ、何も言い返せなかった。

 アリスは妹じゃない。お兄様に懐いてるってだけで、シェラだってそうよ。あたしやリーリエよりもお兄様に『恋人』として抱かれる資格があるの。

「お兄ちゃん……早くビリヤードを」

「おっと。待たせちゃったかな」

 さらにお兄様はどういうつもりか、キューをアリスの脚の間へと割り込ませた。そしてバーベルのように持ちあげ、アリスの股座に真下から奇襲を仕掛ける。

「ひゃああっ?」

 たまらずアリスはのけぞり、悲鳴をあげた。両手でキューを握り締めながら、太腿をぴったりと閉じ、少しでも刺激を弱めようとする。

「初々しいなあ。あっちのベッドに連れてくのは、このウサギさんが最初かもね」

 しかし困惑こそすれ、アリスの表情は快楽の色も浮かべてた。お兄様に抱きすくめられると、素直になって、寄り添いもするの。

「だ、だめですよ? お兄ちゃん……私は妹なんですから」

「あれ、知らないのかい? ウサギは寂しいと、兄妹でも愛しあうんだよ」

 嘘だわ、そんなの。けれどもアリスはお兄様の言葉を疑いもせず、陶然としてた。

「っと、ごめんごめん。バニーのアリスがあんまり可愛くてさ」

「べ、別にいいですけど……」

 改めてお兄様たちはビリヤード台を囲み、練習がてらゲームを始める。

あたしとリーリエもキューを手に取るものの、気が気でならなかった。お兄様の手はアリスのみならず、シェラのお尻にも頻繁に触れてる。

「アニキ? アタシはひとりでできるってば」

「ちょっと持ち方が気になっただけだよ」

 バ、バニーガールの恰好までして、お兄様を虜にするつもりが……。ちょっぴり自棄も起こしながら、あたしはビリヤードでリーリエと相対した。

「どうかしら? スバル。勝ったほうが、兄さんと一時間デートっていうのは」

「賭けは嫌よ。ろくなことにならないもの」

「あら、自信がないの? ふぅん……あなたにしては弱気ね」

 ここまで言われちゃったら、乗るしかない。ボールを見据え、キューを構える。

 ルールは定番のナインボールね。手球(白い球)を常に一番数字の小さい球に当て、最終的に9の球を落としたほうが勝つの。

 こういった分析が十八番のアリスは、早くも才能の片鱗を見せ始めてた。

「やっるじゃーん! アリス、スポーツはそうでもないのに」

「ゲームでは負けませんよ。得意分野ですから」

 シェラも慣れた手つきでヒットを放つ。

 年下の妹たちに負けてられず、あたしもリーリエと腕を競いあった。……ただ、キューとともに上半身を水平に倒すと、バニースーツから胸が零れそうになる。

 同じくらいのサイズのせいで、リーリエも四苦八苦してた。

「こ、これなら……!」

 彼女のヒットはわずかにぶれ、手球が独楽のように曲がってく。

 次はあたしの番ってところでお兄様に背後を取られた。

「ちょっと、お兄様? ……まさか」

「スバルにも教えてあげようと思ってね」

 キューを取り上げ、それをお兄様はあたしのお尻へと差し込んでくる。こっちは前屈みのままで身じろぐものの、今にも白乳が肌蹴そうで、下手には動けなかった。

「ひゃああっ? こ、こらぁ、悪戯しないでってば」

「こうやって、全身で調整するんだよ。ほら」

 キューは後ろから太腿の隙間をくぐり抜け、胸の谷間へ差し掛かる。おかげであたしは寝そべるようにして、キューに胸と股座で跨る姿勢となってしまった。

 あたしの真っ赤な抵抗に構わず、お兄様がヒットを撃つ。しかし手球は見当違いの方向へ転がり、かえってリーリエに有利な配置となった。

「もっもう! お兄様のせいよ?」

 キューを引き抜き、あたしは頬を膨らませる。

 それでも悪びれず、お兄様は続けざまにリーリエにも同じプレイを強要した。

「え? わ、わたしもなの?」

「羨ましそうに見てたじゃないか。こうして欲しかったんだろ」

 リーリエもキューに跨る姿勢となった。

しかし恥じらいながらも、あたしよりは素直で嫌がろうとしない。ハイヒールでも不安定なりに爪先立ち、キューの高さをゲーム盤と揃えるの。

「……どうぞ? 兄さん」

「いい子だ。行くぞ……それ!」

 キューはまったくぶれず、手球にクリーンヒットした。あちこちで球同士がぶつかって快音を放ち、あたしは不安とともに成り行きを見守る。

 9の球がコーナーへと落ちた。リーリエは小躍りして、ウサギのお耳を揺らす。

「やったわ! スバル、これで兄さんは今から一時間、私が独り占めよ」

「今のゲームは無効でしょ? お兄様が勝手に」

「それはこっちだって同じ条件じゃない。さあ、兄さ……」

 ところが、別のウサギがリーリエに挑戦状を叩きつけてきた。

「まだウサギはこっちにも二匹いるんですよ、リーリエさん。次は私が相手です」

「アタシも、アタシもっ! 面白くなってきたじゃん」

 お兄様の争奪戦にはアリスとシェラも加わることに。初戦で負けちゃったあたしとしては、リーリエの独走を止めるためにも心強かった。

「優勝賞品はおれでいいのかい? みんな」

「せっかくですし、その恰好で執事みたいにもてなしていただけると」

 その後もウサギさんたちのビリヤードは白熱する。まずはアリスVSシェラでアリスが勝利し、こっちの勝者であるリーリエと決勝戦へ。

優勝したのはアリス。二位決定戦でシェラもリーリエを降し、準優勝となった。

 さっきのソファに戻ったら、お兄様はアリスとシェラを傍に置く。

「そっちのも食べさせてよぉ、アニキ」

「世話の焼けるウサギだなあ」

「寂しいと死にますので、こっちもお願いします。お兄ちゃん」

 そして敗者であるあたしとリーリエは、罰ゲームとして、ステージの上でウサギさんの真似をさせられてた。

「うぅ……あ、あたしは実力で負けたわけじゃないのに」

「この短時間でまさか、アリスちゃんがあんなに上達するなんて……」

 両手をお耳の位置に当てながらの、ウサギ跳び。ハイヒールだろうと踏ん張って、一生懸命に身体を弾ませる。これが思った以上にきつい。

「脚が開いてないじゃん、スバル~!」

「これで、じ、充分でしょ?」

 しかも弾むたび、ボディスーツから双乳が零れそうになるの。おまけにスクワットみたいに脚を広げなくちゃいけないから、ハイレグカットも丸見えになった。

 あられもないウサギ跳びを眺め、お兄様はすっかりご満悦。

「次はダーツで遊ぼうか。シェラが有利な気もするけど」

「賛成っ! 次こそアリスをギッタギタにしちゃおっと。ひひひ!」

「そ、それならわたしも勝負できるわ」

 悔しいけど、得意なゲームのないあたしじゃ、ほかのウサギに勝てそうになかった。

 

 やがてアリスやシェラは遊び疲れ、ソファで寝息を立て始める。ふたりにブランケットを掛けてから、あたしたちはいかがわしいベッドルームへと場所を移した。

 カーテンを降ろしさえすれば、ゲームホールからも隔離される。とはいえ、あんまり大きな音や声を出すのはまずいわね。

 音はともかく、声は……。

 あたしとリーリエはベッドの上で腰を降ろし、お兄様を待つ。

 やっぱりリーリエには勘付かれてた。

「兄さん、スバル。ひょっとして……そっちも?」

「え……どういうこと?」

 まさかと思い、あたしは疑惑の表情でお兄様を見上げる。

お兄様は誤魔化したりせず、すべてを打ち明けた。

「ジェミニを出るといったら、リーリエもおれに『抱いてくれ』ってね」

 つくづく、あたしとリーリエは同じことを考えちゃうみたい。

 単に恋のライバルってだけなら、あたしたちの関係はとっくに破綻してるはず。だけど同じ『妹』だから、少なからず共感もあって……。

「誘ったのはおまえたちのほうだ。今夜はおれも、もうどうなるかわからないぞ」

 お兄様も迷ったりせず、妹ウサギたちに圧し掛かってきた。早くも息を荒らげながら、バニースーツに手を掛け、強引にずらす。

「きゃっ? やだ、いきなり……」

たわわな胸の果実が右も左も零れ出て、ムーディーなランプのもとでピンク色に照り返った。あたしは頬を染め、リーリエも恥ずかしそうにそれを念入りにかき抱く。

「本気……なのよね? 兄さん、本当にわたしのこと」

「何度も言わせないでくれ。今夜は手加減しない」

 あたしたちの裸乳をまじまじと眺め、お兄様はごくりと咽を鳴らした。

 いつもリードを握りっ放しのお兄様が。あたしやリーリエの艶めかしいバニースタイルに魅入られてるのか、今夜は自らペースを乱しつつあるの。

 お兄様の手があたしとリーリエの乳房を片方ずつ、麓から深めに引っ掴む。その先端をくっつけて一辺に頬張るのが、お気に入りみたい。

「んふぅ? はぁ、そんなに強く吸っちゃ」

「やっ、そこ……あひぇいっ?」

 そうやって夢中で吸いつきながら、お兄様は残りの乳房にも手を伸ばした。

あたしとリーリエで合計よっつある膨らみのうち、外側のふたつは揉みしだいて、内側のふたつは舐めすする。いつになく欲張りで、本当にウサギを襲ってるみたいだわ。

「さっきからずっと我慢してたんだよ、っんむ……美味しいじゃないか」

勢いに押されながら、あたしたちはシーツを掴んで息む。

恥ずかしい恰好でいたせいか、こっちも無意識のうちに我慢してたのかも。ボディスーツは香汗で蒸れ、女の子自身も酔わせかねない発情期のにおいを漂わせる。

 先にリーリエのほうが自ら双乳を寄せ、差し出した。

「た、たくさんおかわりして? 兄さん……」

「……あっ、あたしのだって!」

 負けじとあたしも躍起になり、火照った白乳を両手で手前に運ぶ。

 それを吸いあげられたり、舌でねぶられたりすると、ぞくぞくと震えが来た。母性本能も触発され、お兄様のことが可愛く思えてくるの。

 あのお兄様が赤ちゃんみたいに……。

 いつの間にか、あたしたちはお兄様の虜に、お兄様はあたしたちの虜になってた。兄妹じゃなく男女としての情欲がぶつかりあい、高揚感とともに実感させる。

 これから始まるのはセックスなんだってこと。

「んっあむぅ?」

 真正面からキスを受け、あたしはベッドへと押し倒された。唇を表も裏も貪られ、当然のように舌も絡め取られる。

「ぇれあぁ、っぷあ、おにいひゃま……えぁあっらあ」

 唇は離れても、涎が糸を引いた。それを零したくなくて、舌を平たく伸ばす。

 リーリエも押し倒され、お兄様の息継ぎも許さないキスに溺れた。それを間近で見せつけられ、猛烈な嫉妬心に駆られるとともに、あたしはキスの快感を思い出す。

 気持ちいいんだわ、リーリエも……。

 頭の中が甘く痺れてしまって、思考は長続きしなかった。

ただ、お兄様のことが好き、愛して欲しいっていう欲求だけははっきりしてるの。だから、今夜はあたしのほうからもお兄様を欲した。

「お兄様、あの……早くぅ」

 自分でも信じられないくらい甘い声で、おねだりだってできちゃうわ。

 リーリエの唇をたっぷり貪ってから、お兄様のキスが戻ってくる。

「どうした? スバル。珍しく素直じゃないか」

「だ、だって……特別な夜でしょ?」

 もう見詰めあってるだけで胸の鼓動が跳ねあがった。

お兄様の視線も、声も、手つきも、すべてがあたしに興奮をもたらす。それどころか、リーリエの息遣いや震えさえシンクロしてしまって、身体は感度を高めるばかり。

「兄さぁん、スバルだけじゃなくって、っはあ、わたしにももっと……」

「あたしが先ったらぁ、リーリエ? お兄様だって、ねぇ?」

 あたしとリーリエ、二匹のウサギは呼吸とともに汗だくの裸乳を上下させた。頭の上でシーツを掴み、ウサギのお耳だけでも起こす。

 お兄様はますます目の色を変えた。

「おねだり上手になったな、ふたりとも」

 上を全部脱ぎ捨て、細身なりに逞しい身体つきを露にする。

 それを捕まえようと、リーリエが手ではなく脚を伸ばした。網タイツを薄く引き伸ばしながら、大胆なポーズでお兄様にしがみつくの。

「逃がしてあげないわよ? 兄さん」

「ちょ、ちょっと! 独り占めしないでってばぁ」

 先を越されつつ、あたしも同じように脚を折り曲げ、お兄様にまとわりつく。

 お兄様の後ろでハイヒールがぶつかりあった。脇腹に爪先を通したりして、お兄様の身体に網タイツをじかに擦りつける。

「やれやれ。どっちのウサギもすっかり発情しちゃったか」

 お兄様ははにかむと、あたしたちのボディスーツへと再び手を這わせてきた。今度は下へ降り、ハイレグカットの脇から侵入して、妹の秘密に近づいてくる。

「ひゃん? お……お兄様、はあ、そこはまだ」

「まだ、なんだい? いけないなあ、スバル……リーリエのもびしょびしょだぞ」

 隣で一緒にリーリエもまさぐられ、顔を上気させた。

「言わないでぇ、兄さん? わたし、あん、そんなにはしたない子じゃ」

「この有様で? 見てごらんよ、スバル」

 あたしの視線ひとつにも彼女は驚き、身体を竦めようとする。けど、お兄様の指先が股布を潜り抜けるたび、かえって『はしたない』悦がりっぷりを披露してくれた。

「んえぁあ……あっ! だめったら、に、兄さぁん?」

あたしもお兄様に弱点ばかり責められて、脚をハイヒールの爪先まで引き攣らせる。

「あっ? あ、あぁ……お兄様、そこは優しく」

「そこって? はっきり言ってくれないと、わからないな」

 意地悪な言葉でなじりもしながら、お兄様は妹ウサギを翻弄した。

 あたしとリーリエのふたり掛かりでも、このひとをリードなんてできないんだわ。心ならずもマゾの悦びに目覚め、身体じゅうを打ち震わせる。ボディスーツも中は蒸れるどころか濡れ、網タイツの真中はびしょびしょになってた。

「ひとりずつだぞ。おいで」

 不意に抱きあげられ、あたしは柔らかな白乳をお兄様の胸元に押しつける。

 今度はお互い抱擁を深めあってのキス。あたしのほうから始めたような気もした。

「んあっぁむ、おにいしゃま、へあっ、あはひ……もぉ、らめなのぉ」

 キスなのに目を閉じず、お兄様の綺麗な瞳を覗き込む。

 唇を荒らされながら、こっちからも荒らした。互いに舌をのたくらせて、そっちでも濃厚な抱擁を楽しむ。

 キスの最中、お兄様は切ない調子で囁いた。

「おまえが妹だから、止められないんだよ。スバル」

 本当かもしれない。あたしだって、お兄様が『兄』だからこそ十年も想い焦がれ、この時を待ってたんだもの。女としても、妹としても抱かれたい。

 そんなあたしとお兄様の淫猥なキスを見せつけられ、リーリエも熱をあげた。

「兄さん、わたしにも……ぁあむ」

 ふくよかな豊乳越しに真正面からお兄様と抱きあい、キスに耽る。

 それを見てるだけで、生唾がみるみる溜まってきた。裸乳へと涎を垂らしながら、発情期のウサギはもどかしさに苦悶するの。

「へぇあ、お兄様ぁ……」

いけないとわかってても、自分で慰めずにいられなかった。あたしは左手の人差し指を噛みつつ、脚をいっぱいに広げ、右手を下へと急行させる。

 お兄様がやったのか、網タイツには穴が空いてて……かきまわすと、快感の波が打ち寄せてきた。途端に舌まで痺れて、呂律がまわらない。

「えあはぁ……お兄様、これぇ……はあっ、我慢れきないの、らからあ」

呼吸は俄かに色を帯び、喘ぎとなる。

お兄様も我慢できない様子だった。リーリエをキスであやしつつ、あたしのほうに熱視線を注いでくれる。

「じゃあ、スバルからだ。こっちにお尻を向けてごらん」

「……はい。お兄様……」

 あたしは膝立ちの姿勢となり、ウサギの尻尾をお兄様に向けた。

 後ろで衣擦れの音がして、リーリエが『きゃ!』と驚く。肩越しに振り返ってみると、お兄様は裸で……大きなものを構えてたの。

「ウサギさんの大好物だぞ。わかるな? スバル」

「やだ……ニンジン、だなんて……」

 とても言葉にできなくて『ニンジン』と呼ぶしかなかった。直視もできず、あたしは真っ赤になって緊張感を漲らせる。もうすぐお兄様のが後ろ、から……。

 これって脚は開けておくの? 閉じていいの?

 初めてだけにわからないことだらけで、やっぱり怖くもある。

 リーリエはお兄様の背中にしがみつき、あたしとは結ばせまいと必死になってた。

「ま、待って、兄さん! スバルは妹よ?」

「きみもね。よく見てるんだ……大丈夫、まずは練習だけにするからさ」

 それを意に介さず、お兄様はあたしのお尻を捕まえ、とうとう突き進んでくる。

「……ああっ? お兄様……!」

太腿の付け根に挟まるようにして、その存在感は徐々に大きくなった。身体の一部とは思えない熱さと硬さに驚き、あたしは脚を閉じきる。

しかしボディスーツをよけず、それは股布の外へと逸れた。ハイレグカットの下でカオを出し、お兄様は胴震えを起こす。

「そのままじっとしてるんだぞ? こうやって、っはあ、練習を」

 まだ練習なんだわ。奪うことはせずに、股座と太腿でできた『▽』の隙間へ飛び込み、セックスに見立ててるの。妹が相手だから、一線を越えられないのかも。

 それでも今までにない、いやらしい遊戯になっちゃって……お兄様はバニースーツの両サイドをしっかりと掴みながら、ニンジンを動かし始めた。

「へあぁ? なんで、これ……あん、お兄様ぁ?」

 股の下で圧力が変動し、波を打つ。

 引き抜くのかと思いきや、また突っ込んできた。た、多分……こうやって矢継ぎ早に刺激を与えるものなのね。だんだん勢いもついてきて、お尻がお兄様とぶつかる。

 リーリエはお兄様を後ろから抱き締め、うなじや肩にキスを捧げていた。胸肌に手も這わせて、練習中のあたし以上にお兄様を独り占めするの。

「兄さんったら、こんなふうに……はむっ、なんだかわたひまでぇ」

「だろ? 次はリーリエだからね、ッはあ!」

 それが悔しくて、あたしは太腿をきつく閉じ、お兄様を締め付けちゃう。

「お兄様ぁ? んはぁ、今はあたしと……じゃなきゃ、やあっ」

 おねだり上手な声も出て、無性に恥ずかしかった。

「もちろんだって、スバル!」

 お兄様の手がバニースーツを這いあがり、汗ばんだ白乳を両方一辺に押し揉む。

まるでもぎ取るみたいに強く、何回でも飽き足らず。リーリエがお兄様を独占するように、お兄様はあたしを独占して、どんどん熱く昂っていくの。

 お兄様のニンジンも大暴れ。

 こんな勢いでやるものなの? これを次は身体の中で受け止めるの……?

 その生々しい想像があたしの純潔をしとど濡らした。股布の脇から漏れ、網タイツごとかりそめの結合部を潤わせる。おかげで滑りもよくなったみたい。

 裸乳も無茶苦茶に揉みしだかれ、あたしは熱っぽい喘ぎを散らした。

「あっあぁん! えぁあっ、お兄様、へぁ、はげひぃ!」

 ボディスーツにぎりぎり阻まれて、じかに刺激されないのが狂おしいほど。妹の入り口はずぶ濡れで準備万端なのに、お兄様のは毎回のように逸れ、届かないの。

 やがてお尻のほうで外れ、生温かい潤滑油だけが残る。

「ぅ、うはぁ……?」

 苦悶のあまり疲れ果て、あたしはぺたんと尻餅をついた。

吐息まで熱っぽくて、頭の中がぼうっとしてる。

「はあ、はあ……次はリーリエだぞ」

「は、はい。兄さん……」

 その間にもお兄様は向きを変え、リーリエのお尻にしがみついた。あたしにやったのと同じ要領でボディスーツの下をくぐり抜け、ニンジンを網タイツで擦り立てる。

「やっ、やぁん、これ! 兄さんのが、だめっ、えへあっあぁ!」

 リーリエも淫猥な遊戯に戸惑いつつ、色っぽい調子で身悶えた。傍から見てると、本当に『襲われてるウサギさん』だわ。

「こっちのマゾウサギも、はあ、躾が大変だよ」

「ちがっ、わたしはマゾなんかじゃ、くふぅ? そ、そんなに激しくしちゃ、やぁ!」

 抜き挿しの動きに慣れてきたら、お兄様は手の位置を変え、リーリエの巨乳を丸ごと鷲掴みにする。あたしには見向きもせず、リーリエの柔らかさに夢中で……。

「リーリエだけずるいったら、お兄様? れあっ、んふあぁ」

 そんなお兄様の背中へと這いあがり、あたしはキスに気持ちを込めた。

 今度はあたしがお兄様を、お兄様がリーリエを後ろから抱き締め、リズムに乗る。どんなにいやらしくても、ちゃんと『兄妹』で遊んでる気がした。

「みんなで一緒にしようか。おいで、スバル。リーリエもこっちに」

 お兄様に促され、あたしとリーリエは背中合わせでお尻をくっつける。

 最初は意味がわからなかったけど……お尻とお尻の間には『◇』の空間があって、そこに真下からニンジンの感触が現れた。

「うそっ? やだ、お兄様……んはぁ、こんなの恥ずかしいのに」

「これが気持ちいいのね? 兄さん、そ、それなら……」

 それをもっと感じたくて、あたしたちはお尻で押し合いへし合い。ウサギの尻尾を振りながら、お兄様の躍起な突き上げに晒されるの。

「おれもそろそろ……はあっ! スバル、リーリエ! ウサギみたいに!」

 あたしとリーリエも喘ぎを競いつつ、お尻をリズミカルに弾ませた。やっぱり姉妹なのね。回数をこなすにつれ、息もぴったりと合ってくる。

 しかもお兄様がボディスーツのハイレグカットへ手を潜り込ませてきた。網タイツの穴を広げ、妹の純潔に指を捻り込む。こんなのもう耐えられない。

「ッえはぁ! ら、らめ……お兄様、ああっあたし、あたひもおっ!」

「そこされちゃ、んあぁ、わたしも! にっ、兄さぁん!」

 双乳の角を自分で弄りもして、あたしたちは一緒に、一心不乱に悶え狂った。

甘い痺れが行き渡って、身体じゅうが熱化する。衝動じみた高揚感が込みあげ、あたしをお兄様のニンジンに夢中にさせた。

 お兄様に手首を返された瞬間、痺れが爆ぜる。

「「へぇあああぁあああーっ!」」

 嬌声を張りあげたのは、あたしだけじゃない。リーリエも達し、あたしと一緒にいやらしい悦びに打ち震えた。それを追って、お兄様も妹たちのお尻に愛情を吐き散らかす。

 汗だくの背中でのけぞりながら、あたしとリーリエは快感に酔いしれた。

「あはあぁ……っ! お兄様、これ……す、すっごぉい……!」

「兄さんのが、び、びくびくっへぇ! あえへぇ」

 恍惚の笑みさえ浮かべ、ぞくぞくする。

 やがてあたしたち姉妹は突っ伏し、ウサギのお耳を寝かせた。それでもお尻は高さを維持し、お兄様の濁った愛情が垂れていくのを、ねっとりと感じる。

 お兄様は息を切らせつつ、ウサギの尻尾をハンカチで拭ってくれた。それからズボンを穿きなおし、ベッドの中央で寝転がる。

「はぁ、はあ……休憩にしようか」

 抱きすくめられるままに、あたしとリーリエも添い寝の位置についた。

 ようやく我を取り戻し、猛烈な恥ずかしさに赤面する。

「あ、あたしったら、こんな恰好で……んもう、お兄様が変なふうにするからよ?」

「兄さんが『どうしても』っていうなら、あの、わたしはこれでも……」

 リーリエも頬を染めるものの、裸の胸を隠そうとはしなかった。

まだ約束は果たされてない。女としてのあたしたちは続きを求めてる。……けど、さっきの勢いを受け止められる自信はなかった。

 お兄様が頭を優しく撫でてくれる。

「おれだって男なんだ、ふたりとも抱きたい。でも女の子にとっちゃ痛かったり、怖かったりするだろ? おれの一時の欲求のためだけに、傷つけたくはないんだよ」

さっきまで熱かったお兄様の身体が、今は温かくなってた。

「スバルもリーリエもおれの……大切な妹だからさ」

 その言葉が妹としてのあたしを救ってくれる。

 リーリエも同じことを思ってるのかしら? 声には涙が混じってた。

「ぐすっ……ありがとう、兄さん」

「そんなに大切なら、ずっと傍にいてくれるんでしょ?」

あたしたちはお兄様と手を繋ぎ、セックス以上に結ばれたんだってことを実感した。血を分けた兄妹なんだもの。これより理解しあえるカップルなんて、ありえない。

「残るよ、ジェミニに。三人で一緒になろう」

お兄様の妹でよかった。

ところが、お兄様の視線は不意に明後日の方向へ飛ぶ。

「それでいいかい? シェラ、アリス」

「……エッ?」

いつの間にやら、カーテンの隙間から二匹のバニーガールが顔を覗かせてた。驚きながらも興味津々といった顔つきで、アリスまで瞳をきらきらさせる。

「もうおしまい~? いよいよって雰囲気だったのに。ねえ、アリスぅ」

「後学のため、続きも見たいんですけど……」

リーリエは肩を竦め、照れ隠しにお兄様の頬を抓った。

「……そんなことだろうと思ってたわよ。に、い、さ、ん?」

「いや、さすがに『妹』の前で最後までは……なあ? あててっ!」

 一度ならず二度までも。羅刹ほど冷静になれないあたしは、痛切な声で叫ぶ。

「お兄様のばか~ッ!」

 渾身の平手打ちが横っ面に決まった。

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