Slave To Passion ~妹たちは愛に濡れて~

SCENE 4

 ジェミニ自治領の夏もいよいよ本格的に暑くなってくる。

 タウラス帝国やキャンサー連合では内戦が続いてるものの、ジェミニ自治領では平穏な日々が続いてた。あたしたちも女学院の定期試験に集中していられたくらいだもの。

 おかげでアリスは学年トップを維持。あたしは上の中……ううん、上の下か中の上ってあたりで、とりあえず面目は保てた感じね。

リーリエもあたしと似たり寄ったりの成績で、可もなく不可もなし。

 しかしシェラは答案をすべて白紙で提出し、ワーストの結果を叩き出してしまった。まあ学院長も期待はしてなかったみたいで、お咎めなしになってる。

 その日もあたしは自治警察の本部で、アリスとともに状況を整理していた。

「帝国にしろ連合にしろ、戦況は芳しくないようです。連合では南西部のフォボスが独立を表明し、近隣諸国と足並みを揃えたとか……」

「まだまだ目処はつきそうにないわね」

 幸いにして、ジェミニ自治領への影響は微々たるものだった。帝国貴族も連合議員もことごとく本国へ帰還し、ジェミニとの国境沿いに最小限の兵力を残すのみ。城下から帝国軍・連合軍がいなくなるのは、実に十年ぶりのこととなる。

 さらにはフェンリル団が自治領の南北で陣を敷き、帝国・連合を警戒するとともに、モンスターの掃討に当たってるの。フェンリル団の人気もうなぎ登りだわ。大使館襲撃と海賊団殲滅の件は保留となり、忘れられつつある。

 北の帝国からは逃亡する民も現れ始めていた。ジェミニ自治領は人道的な立場からそれを受け入れ、その労働力を地方の開発などに当ててる。

 内戦が終わって、彼らも故郷に帰れるといいんだけど……。あたしだってジェミニ王宮から焼け出された苦い経験があるから、決して他人事じゃなかった。

 報告がてら、アリスが話題を変える。

「リーリエさんとは上手くいってるんですか? スバルさん」

「ええ、まあ……前から仲もよかったから」

 リーリエは今、あたしと一緒に伯母様の屋敷で暮らしてた。お兄様と伯母様の間で話がまとまったようで、ね。伯母様ともすっかり打ち解けてる。

 ただ、あたしは前ほどリーリエと馴れあえなかった。お兄様との情事の件もあって、おそらく彼女のほうもあたしの存在に戸惑ってる。

 お兄様が泊まりに来ても、あの夜ほど過激なことにはならなかった。あたしとリーリエは『下着になれ』とは命令されるものの、それ以上のことは強要されない。

 やっぱり兄妹だから、よね?

 あたしもこのままじゃいけないとは思ってた。でもリーリエがあんまり素直なものだから、こっちも引くに引けなくて……『下着で添い寝』なんていう牽制が続いてる。

「そういうアリスのほうこそ、シェラとは仲良くやってるの?」

「問題ありません。クラスにも馴染んでますし」

 正直なところ、シェラのことも少し警戒してた。彼女の場合はあくまで『義理の妹』であって、お兄様と血が繋がってるわけじゃないもの。

 そんなあたしたち兄妹の事情(情事)はさておいて、ジェミニ自治領は暑い夏を迎えつつあった。アリスったら、今のうちから夏季休暇のスケジュールを立ててる。

「やっぱり今年も海でしょうか? 西海岸のビーチで……」

 余所は戦争してるんだから、心の底から楽しめるとは思えないわ。けど自治警察のみんなにだって息抜きは欠かせなかった。シルバーフォックス隊、グレイハウンド隊、レッドジャッカル隊は休暇をずらし、治安維持に穴が空かないようにもしてる。

 近辺の魔物をフェンリル団に掃討してもらえるのは助かるわね。

 その割にモンスターは一向に減らなかった。昔からジェミニにはモンスターが多くて、何かしらの原因があるんじゃなかって言われてる。

「どうかしましたか、スバルさん。気になることでも?」

「ちょっとね。ジェミニ一帯のモンスターの動きが知りたくって……」

 敏腕な助手でもあるアリスがぱらぱらとファイルを捲った。

「今まで帝国軍・連合軍が撃退した分は情報が届かず、不明瞭でしたが、この半月の出現パターンは網羅できてます。確かに……奇妙といえば奇妙、ではありますね」

 ジェミニ自治領のモンスターはほとんどがこの『城下』に向かってるようなの。途中の町や村は、必ずしも襲われるわけではなかった。

 シルバーフォックス隊の隊員が本部に駆け込んでくる。

「スバル隊長! イーストロードでモンスターが出没しました!」

「出撃よ! シルバーフォックス隊はただちに現地へ!」

 帝国と連合の脅威が遠のいても、自治警察のお仕事は終わらないわ。

 

 その夜、あたしは浴室の前でリーリエと鉢合わせになる。

「あなたも今からお風呂? リーリエ」

「え、ええ。……今夜は早めに済ませようと思って」

 屋敷のお風呂は大きいから、ふたりで入っても余裕があった。ここで引きさがるのも気まずいから、あたしたちはバスタイムを一緒することに。

 脱衣所で背中合わせになり、服を脱いでいく。

「キラル海賊団の残党はもうほとんど残ってないんでしょ?」

「おそらくね。兄さんは次の任務を用意してくれてるみたいだけど……」

 兄さん……か。この子は本当にお兄様の妹で、あの羅刹なのね。

 それにしては華奢な身体つきで、腕も細かった。多分、王家相伝の魔導を併用してるから、超人的な動きが可能なんだわ。

 あたしの神聖魔法より身体能力の向上に特化してるのかも。

 けど……そんなことより、リーリエの下着のほうが気になってきた。白やピンクが多いあたしと違って、黒や紫でスタイルもよくアダルティックに決まってるのよね。

 胸は同じくらいとはいえ、こっちはお子様みたいな下着じゃ分が悪い。

「ねえ、リーリエ。そういうブラってどこで買うの?」

「え? ええと、サーレントの近くで……」

 リーリエのほうもあたしの下着が気になるのか、ちらちらと横目で窺ってきた。

「スバルこそ、可愛いパンツよね。兄さんが夢中になるわけだわ……」

「な、何言ってるのよ。お兄様はもっと大人っぽい下着のほうが」

 妹同士で意見は食い違い、なんだか虚しくなってくる。

「……そもそもお兄様がいけないのよ。恋人はひとりじゃないとだめだけど、妹は何人いてもいい、なんて言って……」

「わ、わたしは今の関係で充分……満足だから」

「そんなだから、お兄様が図に乗るんだってば。ちゃんと女の子の言い分も……」

 これがお互い彼氏についての議論なら、まだ意義もあった。

けれども、あたしたちは実の兄と下着で添い寝するような関係でいるわけで。

「……今度、一緒に下着を買いに行かない? リーリエ。お店を教えて」

「そうね。兄さんにもっと気に入ってもらえるようなのを……」

 あたしとリーリエはライバルにして運命共同体。しばらくの間は手を結ぶことに。

「……えっ?」

 そのままお風呂に入ろうとした矢先、外が眩しくなる。それこそ明け方ほどには明るくなって、城下は大騒ぎになった。

「行くわよ、リーリエ!」

「ええっ!」

 あたしとリーリエはもう一度服を着て、迅速に屋敷を飛び出す。

 輝きを放ってるのは、城下の中央にあるジェミニ王宮だった。これだけ明るいなら、馬で走っても大丈夫そうね。羅刹のリーリエは屋根伝いにどんどん先へ跳んでいく。

 しばらく走って、あたしたちはジェミニ王宮へと辿り着いた。城下のみんなは不安そうな面落ちで王宮を見上げてる。

「スバル様! こ、これは一体……?」

「あたしにもわからないの。とにかくお城には近づかないで」

 ジェミニ王宮は十年前の惨劇によって半壊し、今なお風雨に晒されていた。ジェミニは自治領だからって、帝国と連合が修繕を認めなかったのよ。

 あれからずっと王宮の時間は止まってる。

「……スバル?」

「何でもないわ。さあ」

 不安を胸に抱きつつ、あたしはリーリエとともに王宮へ足を踏み入れた。

 光の出所は西の塔みたいね。確か魔導研究所があって、夏場は宮廷魔導士たちが地下で氷を製造してたわ。その塔も十年前に崩れ、瓦礫の山と化してる。

 そこから光の柱が夜空の彼方まで伸びてるの。

「やはりまだ機能が生きてたか……」

 その光を間近で眺めてるのは、お兄様だった。傍らにはシェラと、アリスもいる。

「お兄様っ? アリスまで、こんなところで何やってるの?」

「あの、その……ごめんなさい。私はルークスさんに頼まれて、案内を」

 アリスがあたしに一言もなしに、お兄様と行動をともにしていたなんて。シェラのほうはいつもと同じ調子でお兄様にくっつき、無邪気な笑みを弾ませる。

「これってもう天上都市まで届いてんのぉ? アニキ」

「まだだよ。これから呼ぶんだ」

 ジェミニの民なら、誰でも知ってる言い伝えがあった。

「天上都市……? お兄様、アスタリスクを呼ぶってどういうこと?」

「そのままの意味さ。そして、それこそが帝国と連合がジェミニに拘る理由なんだ」

 かつてこの大空には高度な文明の都市群があったというわ。

 それが天上都市アスタリスク。月に一度、ジェミニの空を通り過ぎる『あれ』ね。

 アスタリスクは大地を離れ、大空を我が物とした。西海岸が三日月の形なのも、そこにアスタリスクがあったからだって伝承が残ってる。

 光の柱の中央には聖剣カストゥールが突き立てられてあった。十年前に伯母様がお兄様に預けたのは、単なる宝剣じゃなかったのかもしれない。

「ジェミニ王宮はね、アスタリスクの一施設の上に建てられたんだよ。いつの日かアスタリスクをこの大地へ呼び戻せるように」

「その役目がジェミニ王家に代々継承されてきたわけですね、ルークスさん」

 そんなこと、あたしは知らなかったわ……全然。

 アスタリスクにしたって、学者が趣味で調べてるくらいのものとしか。今でもあれは空を漂ってて、一部で観測も続けられていた。

 空の上から地上を支配したという、最強の天上都市……。だけどアスタリスクは空の彼方へと消えた。地上は独立を果たし、今の国家が誕生したの。

 リーリエも固唾を飲んで、大きな光の柱を見上げた。

「アスタリスクの持つ魔導兵器……それが帝国と連合の狙いなのね」

「ああ。だからこそ、まずはジェミニを支配下に置こうと躍起だったのさ」

 ジェミニにはアスタリスクの鍵が眠ってる。

 それが本当なら……タウラス帝国とキャンサー連合はそんな物のために、あたしたちの城下に火を放ったというの?

 戦争の道具を手に入れるために、戦争する。その発想には反吐が出た。

「……許せないわ」

「だから、おれたちで決着をつけるんだ。スバル」

 やがて光の柱は細くなって消える。

 その根元には妙なゲートが現れていた。地下への入り口にしては、中は明るい。

「試しに入ってみようか。みんなもおいで」

「エヘヘ! 面白くなってきたじゃん」

 お兄様に続いて、あたしたちは慎重にゲートをくぐった。

 その向こうにあった摩訶不思議な光景を目の当たりにして、リーリエさえ驚愕する。

「こっ、これは?」

「信じられません……地下に降りたはずなのに、上にも広がってます」

 星空の真中にでも迷い込んだみたいだった。

そこでは橋のような回廊が縦横無尽に伸び、立体的な迷宮を形成してる。ランタンが等間隔に配置されてるおかげで、視界そのものは明るかった。

 あちこちに分かれ道があって、かなり複雑に入り組んでるようね。

 お兄様は迷宮の先を指差し、決意を込めた。

「この中枢部まで行けば、アスタリスクを呼び戻せるはずだ」

 これこそがお兄様の目的だったんだわ。

 タウラス帝国とキャンサー連合をジェミニから退け、その隙に王宮の謎を解き明かす。最終的にはアスタリスクを手に入れるつもりなのよ、きっと。

 シェラがけらけらと笑う。

「帝国とか連合なら、心配いらないって。アタシのパパが足止めしてくれてるしぃ」

「あの内戦はフェンリル団が仕組んだんですかっ?」

 これにはアリスも驚きを隠せなかった。

薄々予感はしてたけど……フェンリル団は『国家間の争いには不干渉』という行動理念を捻じ曲げてまで、お兄様に協力してる。アスタリスクが欲しいから?

「力を貸してくれるかい? リーリエ、アリス」

 お兄様に誘われ、羅刹のリーリエは服従のポーズを取った。

「はい。兄さんのためなら」

「私もお手伝いします。正直、興味もありますので」

 謎めいた迷宮を前にして、アリスは目を輝かせてる。こうなったら止められない。

 シェラは聞くまでもないわね。

「すっごいモンスターもいるんでしょ? アリス、足引っ張らないでよねー」

「ふふん。吠え面かかせてあげますよ、シェラ」

 けど、あたしはみんなのように二つ返事で賛同できなかった。

お兄様のことが急に怖くなって、あとずさる。

「アスタリスクを手に入れて、お兄様はどうするつもりなの……?」

「さてね。手に入れてから考えるさ」

 お兄様は正直に答えようとせず、あたしに背を向けた。

 やっぱり……天上都市アスタリスクの力で『復讐』を? 大使館の襲撃だって容赦のなかった、このひとのことだもの。

アスタリスクの魔導兵器が実在するなら、大陸の制圧だってできるかもしれない。帝国と連合を完膚なきまでに叩き潰し、それをジェミニ王国の再興とするつもりなら。

 お兄様の野望は大勢のひとびとを犠牲にしかねなかった。

「おまえは力を貸してくれないのかい? スバル」

 失望を胸に、あたしはかぶりを振る。

「お兄様は復讐がしたいんでしょ? そんなこと……あたしには耐えられない」

 あの日と同じ惨劇を繰り返してはならないのは、ジェミニだけじゃないのだから。にもかかわらず、お兄様たちは帝国や連合を陥れ、いたずらに戦禍を広げていた。

 それこそ戦争の道具を手に入れるために、戦争するなんて。

「ごめんなさい」

「……そうか。残念だよ」

 本当の兄妹なのに、通じあえない。

 あたしとお兄様は血が繋がってるだけで、兄妹とは言えなかった。

 

 

 ジェミニ王宮で光の柱が昇った件は、城下でも話題になってる。

 あれを伝説上のアスタリスクと結びつけるひとは、まだいないわ。表向きは自治警察が調査を担当することになり、アリスがその指揮に当たってた。

 フェンリル団は南北の防衛及びモンスターの掃討で手が離せない。自治警察にしても治安維持という大切な仕事があるから、迷宮の探索に人材を割くことはできなかった。

 だから、お兄様は少数精鋭で迷宮に挑もうとしてる。

 メンバーはお兄様とシェラに、羅刹のリーリエ。アリスも魔導士としての実力は申し分ないから、大きな戦力になるわ。

 ただし十年前の惨劇のせいで、お兄様は神聖魔法の修行が途中で終わってるの。だから神聖魔法の使い手として、あたしを同行させたがってる。

 けど人殺しの兵器を探すだなんて、あたしは絶対に御免だった。あたしがそれを認めたら、あの日、ジェミニで亡くなったひとびとを裏切ることになるもの。

 むしろ止めなくちゃならない、お兄様を。

 そんなことを、あたしは朝から伯母様と相談していた。久しぶりに伯母様のお部屋を訪れ、ベランダで夏のガーデニングを手伝いながら。

「アスタリスクを降ろしたからといって、兵器が見つかるとは限りませんよ?」

「見つかってからじゃ遅いでしょ? お兄様はきっと復讐に取りつかれてるんです」

 伯母様だって平和を愛し、名領主として民からも慕われてる。

 そのはずの伯母様が、冷酷にして恐ろしいことを囁いた。

「それほどの兵器が手に入るのなら、ジェミニのためになるのではなくって? 帝国と連合さえ従えて、大陸史上最大の王国さえ築くことができるでしょうね」

「……お、伯母様……?」

 ぞっと背筋に寒気が走る。

 いつかのお兄様の言葉を思い出さずにいられなかった。

『ジェミニの不運は、あなたが女王にならなかったことだ。あなたは民を第一に考え、それでいて適度に野心家でもある。……どれも、おれの父には足りなかったものさ』

 伯母様は決して温厚なだけじゃない。帝国や連合を相手取ってジェミニの利権を守り抜くだけの、度胸やしたたかさも持ち合わせてた。

「兵器でなくても、空を飛ぶほどの文明です。どうかしら? スバル」

「え、ええと……」

 伯母様の言う通りかもしれない。アスタリスクの技術力がジェミニに莫大な富をもたらす可能性は大いにあった。民の暮らしだって今より向上するわ。

しかし伯母様は破顔し、かぶりを振った。

「冗談ですよ。あなたのお話を聞いてたら、ルークスがそう言ったのかと思って」

「や、やめてくださいったら……心臓が止まるかと」

 あたしは胸を撫でおろしつつ、昨夜のお兄様の言葉から真意を探る。

『おれたちで決着をつけるんだ。スバル』

『さてね。手に入れてから考えるさ』

 お兄様は何と決着をつけたがってるのかしら……?

 伯母様は穏やかに微笑むと、あたしの頭を撫でた。まるで自分の娘のように。

「もっとルークスを信じておあげなさい。あなたのお兄様、でしょう?」

「……お仕事に行ってきます」

 けれどもあたしは頷くことができなかった。

 

 自治警察のお仕事をこなしつつ、二日が過ぎる。

 王宮についての噂はなりを潜め、ジェミニ自治領は夏を謳歌し始めた。女学院でも先週からプールの授業が始まり、お昼休みには一年生が髪を乾かしてる。

 食堂で合流したアリスやシェラも、まだ髪が湿ってた。

「今年こそは二十五メートル、泳げるようになりそうですよ。スバルさん」

「去年も聞いたわよ? それ」

「今年は本当です。シェラが教えてくれますから」

 このふたりって性格はとことん対照的なのに、仲がいいわね。変わり者同士……なんてふうにも思ったけど、アリスが怒るから黙っておく。

「ずっとプールでもいいくらいなのにねー。アリスもそう思わない?」

「そんなに泳いでたら、身体じゅうがふやけて、元に戻らなくなっちゃいます」

「……えっ、まじで?」

 あたしとリーリエは苦笑しつつ、妹分たちの話に耳を傾けてた。

「それよりさあ~、明日から迷宮に潜るんだけど……スバルはほんとに来ないわけ?」

「行かないわよ。協力するつもりはないの」

 頑なに拒絶してやると、シェラが口を尖らせる。

「だったら、スバルもアニキになんか要求すりゃいいじゃん」

「そういうのじゃなくて、あたしはお兄様にアスタリスクを諦めて欲しいから……」

「アリスだって条件つけたんだし。ねえ? アリスぅ」

 あたしははっとして、パートナーの困惑しきった表情を凝視した。

「……アリス? あなた、一体?」

「た、大したことじゃないんです。その……」

 アリスはもじもじと指を編みながら、時間を掛け、恥ずかしそうに白状する。

「わ、私にもシェラみたく『お兄ちゃん』と呼ばせて欲しい、と……」

「だっだめよ! これ以上は」

 唐突に大声をあげたのはリーリエだった。周囲のみんなも驚いて、彼女に注目する。

「……あ。ごめんなさい、あのっ、気にしないで?」

 あたしも驚きはしたけど……アリスがお兄様に何やら気を揉んでることには、前々から気付いてた。ここは姉貴分として彼女に問いかけてみる。

「そろそろ教えてくれないかしら? 十年前、あなたとお兄様に何があったのか」

「そうですね……。スバルさんにもお話したいとは思ってましたし」

 一際長い深呼吸を挟んでから、アリスは少しずつ口を開いた。

「ご存知の通り、私には魔導の才能がありました。そのせいで……私はジェミニ王宮の魔導研究所に閉じ込められてたんです」

 衝撃的な事実に心拍数が跳ねあがっていく。

 幼い少女を研究所に監禁したのは、あろうことかお父様の判断。帝国や連合の軍事力に対抗するためなのか、魔導の研究材料としてアリスの力を引き出そうとした。

 にもかかわらず、アリスの口元が緩む。

「私にとっては、時々遊びに来てくれるルークスさんだけが頼りでした」

「……そんなことがあったのね」

 あの頃の優しいお兄様のことだから、親身に遊び相手になってあげたんでしょうね。

「ですから、本当はスバルさんのことが羨ましかったんです。こんなに素敵なお兄ちゃんがいて、いいな、ずるいなって……えへへ」

 アリスの嬉しそうな笑顔を見てたら、納得できてしまった。

 今でもこの子はお兄様を信じてるんだわ。お兄様はアスタリスクの兵器で戦争を始めたりしないって、心の底から。

「お城が陥落した『あの日』も、ルークスさんは逃げる前に私を出してくれました。もしルークスさんが来てくれなかったら、どうなってたか……」

 魔導研究所のある塔だって崩壊してたもの。逃げ遅れていたら、炎に飲まれたか、帝国や連合の兵に捕まってたかもしれない。

 お兄様がお父様を軽蔑しがちなのも、このためだったんだわ。

 リーリエが神妙な面持ちで呟く。

「ひょっとしたら、お父さんは……あの迷宮を突破させるために、アリスちゃんの魔導を欲したんじゃないかしら」

「待って? それなら、あなたの技術だって」

 あたしの脳裏でも同じ推測が成り立った。ジェミニの王家が神聖魔法や暗黒魔法、羅刹のような戦闘技術を橙継承させるのは、アスタリスクを取り戻すためかもってこと。

 事は秘密裏に進めなくちゃならない。

だったら、身内だけで迷宮に挑むでしょ?

 すべてを打ち明け、アリスはふうと息をついた。

「まあ、そういうことで。私はルークスさんについてくつもりですから」

 こんなお話を聞かされたら、あたしの心だって揺らぐ。

「一緒に行きませんか? スバルさん」

「……考えさせてちょうだい」

 やがて予鈴も鳴り、食堂のみんなは教室へと引きあげていった。あたしもリーリエとともに席を立ち、次はプールだから着替えに急ぐ。

「じゃあね、ふたりとも」

「いってらー! ……そーだ、アリス? ごにょごにょ……」

 シェラとアリスの内緒話は気になったけど、問い詰めてる暇はなかった。

 

 プールの授業ではみんな必ず『スクール水着』を着用するの。

 無地で紺色、やたらと面積の大きいやつね。女子生徒の間では『ダサい』と、今ひとつ評判はよろしくない。けど学校指定の水着なんて、こんなものよね。

 むしろ水着を選ばなくていいから、助かる。

 青い空ではさんさんと夏の太陽が輝いていた。絶好のプール日和、あたしはクロールをターンとともに背泳ぎに切り替え、冷たい水と戯れる。

 はあ……気持ちいいっ!

 リーリエも余裕で課題をクリアし、自由に過ごしてた。羅刹だもの、授業の水泳くらいワケないのも当然よね。

「スバル! 先生にこれを運ぶの、頼まれて……手伝ってくれる?」

「いいわよ。それを持っていけばいいのね」

 あたしたちはビート板を半分ずつ抱え、プールサイドを出た。

倉庫かと思いきや、第二更衣室のほうへ案内される。

「こっちでいいの? リーリエ」

「ええ。ここに連れてくるように言われてるから」

「……っ! ま、まさか?」

 不意を突かれ、あたしは彼女に後ろで両手を拘束されてしまった。羅刹だけあって、一瞬のうちに完璧に縛ったみたい。

 ドアも閉じきられ、第二更衣室は密室と化した。

「安心して。先生には、スバルはお仕事だって言ってあるもの」

 目の前には長椅子が並べられ、まるでベッドのようになってる。そこには、あたしたちの兄にして恋人――ルークス=フォン=ジェミニが悠々と腰掛けていた。

「やあ、スバル。海に遊びに行く前に、プールで予行演習でも、と思ってさ」

 その意味ありげな笑みひとつで、鳥肌が立つ。

「よ、予行演習……?」

「そうだ。おれの言うことを聞かない妹の『おしおき』も兼ねて、ね」

 よりによって今のあたしはスクール水着しか着てなかった。すでに一度あたしを辱めたことのある、お兄様のことだもの。目的には嫌でも想像がつく。

 リーリエはお兄様の命令に従って、あたしを第二更衣室へ連れ込んだってこと。

「あ、あの……兄さん? お願いが……」

「なんだい? リーリエ」

 そのリーリエが頬を染め、おずおずと申し出た。

「スバルだけじゃなくって、わたしにも、その……同じことを」

 自ら『おしおき』されようと、お兄様に乞うようなまなざしを向けるの。

「しょうがない子だ。じっとしてるんだぞ?」

 本気だなんて信じられなかった。しかしお兄様に背中の側で両手を縛られても、抵抗しない。あたしと同じ『妹』なのに……望んでるんだわ、あの続きを。

「さあふたりとも、こっちにおいで」

 あたしとリーリエはスクール水着の恰好で拘束され、緊張とともに佇む。お兄様は興味津々にあたしたちの、ずぶ濡れの水着姿を吟味していた。

「こんな恰好で授業を受けてるなんて、たまらないな。おれが教えたいくらいだ」

 けれども、あたしのほうはそれどころじゃない。

「冗談言ってないで、解放してったら! 誰かに見つかったりしたら……」

 ここはジェミニ女学院の中であって、目と鼻の先にあるプールでは、今もクラスのみんなが授業中なのよ? あたしは自治警察のお仕事で誤魔化せるにしても、誰かがリーリエを探しにくるかもしれない。

「そうなったら、おれもお手上げさ。スバル、おまえが逮捕してくれ」

「~~~っ! お、お兄様のばか!」

 あたしの怒号も意に介さず、お兄様は手を伸ばしてきた。あたしとリーリエはベッド代わりの長椅子へと引っ張り込まれ、それぞれ片腕に抱かれる。

「おまえが悪いんだぞ? スバル。あの迷宮を突破するには、おまえの力が必要なのに」

「そ、それはお兄様が兵器を……ひぅあぁ?」

 スクール水着越しに脇腹を撫でまわされ、身体がびくっと驚いた。あたしは抵抗のつもりで身じろぐものの、反対側のリーリエは素直に愛撫を受け入れ、吐息を漏らす。

「んはあ……兄さん、や、優しく……してください」

「あれ? おれは今から『おしおき』をするんだけどなぁ」

 どっちも両手を拘束されてるせいで、いやらしい手つきからは逃げられなかった。雫まみれの太腿をさすっては、スクール水着を這いあがり、指をばらまくの。

 薄生地越しに胸の膨らみを鷲掴みにされ、あたしの息も乱れた。

「んふぁあっ? だめったら、こ、こんなとこで」

 今に見つかるかもしれない。そう思うだけで、背筋が冷たくなるのに。あたしの意志に反して、身体は早くも感度を高めつつある。

 お兄様に家族として、妹して抱き締められる分には構わなかった。お兄様が泊まりに来たら、下着姿こそ強要されるけど、こんなふうに執拗には求められないもの。

 それはリーリエも同じ。

「焦らさないで、兄さん……あん、わたしはもっと、はぁ、兄さんに」

 だからこそ、素直な彼女は声を抑えながらも受け入れた。

妹だけど『女』でいられるのは今だけ。だって、あたしたちが隙だらけの下着姿で添い寝したって、お兄様はその気にならないんだもの。

 あたしにとっても、これはお兄様に愛してもらえるチャンス……?

「どうした、スバル? 反応が弱いじゃないか」

「ひゃあっ? やだ、ちょっと……!」

 そんな浅はかな考えに釣られたせいで、首筋への奇襲に対応できなかった。濡れた髪にも構わず、頬や耳たぶを丹念に舐めまわされる。

 続けざまにお兄様は向きを変え、リーリエとキスを交わした。

「んんっむぅ……ぷはっ、兄さぁん」

「いい子だね。スバルもリーリエを見習わないとな」

 リーリエが従順に受け入れるものだから、お兄様のキスも優しい。あたしに見せつけるように互いに唇を綻ばせて、濃厚に舌をもつれあわせるの。

 不意にリーリエの瞳がうっすらと開き、あたしの顔を冷ややかに見詰める。

 その瞬間、どくんと心臓が跳ねた。同じ妹として、嫉妬に燃えずにはいられなくなってきて、無性に唇も渇く。

 ところが、お兄様の言葉は想定外だった。

「兄貴と妹のキスがいけないってんなら、妹と妹のキスはどうだろうね」

 あたしとリーリエはぎくりと表情を強張らせる。

「兄さん? それって……」

「きみもおしおきされたいんだろ? ほら、やってみるんだ」

 お兄様の腕に抱かれる形で、ふたりの妹は向かいあった。

女の子同士でキスだなんて考えたこともないのに……。リーリエもお兄様とのキスの分の生唾を飲みくだし、躊躇いがちに目を逸らす。

「どうした? スバル。おれの言うことが聞けないなら、ここを出てもいいんだぞ」

「ま、待って!」

 本当に連れ出されそうになり、あたしは青ざめた。

 このひとは『やる』と言ったら絶対にやるわ。女学院に忍び込んでるような立場でも、あたしを追い詰めるためだけにね。

「それとも、ここでおれに貫かれたいか?」

「わ……わかったから。リーリエと……や、やればいいんでしょ?」

「そうだよ。ちゃんと舌も入れて、な」

 覚悟を決め、あたしはこわごわとリーリエを真正面に見据えた。リーリエのほうも戸惑いこそすれ、緊張気味に瞼を伏せる。

そして一回の深呼吸のあと、あたしたちの唇が重なった。

「ンッ! んぁう……」

「っはぁ、スバル、あぁむ」

 ぎこちないなりに舌を伸ばし、絡みあわせる。

 目を閉じてるせいか、かえって相手の動きを追ってしまった。あたしの舌が上に逸れたら、リーリエの舌は下へと潜り込む。左に滑ったら、右にかわす。

 その最中にもお兄様の手は背中を降り、お尻へと達した。

「そのまま続けてるんだぞ? スバル、リーリエ」

スクール水着の上からお尻の谷間をなぞりつつ、股座に潜り込んできたの。

 あたしもリーリエも反射的に太腿を擦りあわせて、隙間をきつく閉ざした。しかし無理やり突破され、水着のフロントデルタに指先を添えられる。

 薄生地越しに弄られるたび、液の感触が強くなった。

「……? どっちも濡れてるね」

「ちがっ、それはプールで……へあっはぁ」

 リーリエのキスに溺れつつ、あたしはいやいやと腰を振るようにもがく。けれども、かえってお兄様を誘うだけの、いやらしい仕草になってしまった。

 スクール水着を後ろに引っ張られると、股下の生地がお尻に食い込む。

「んぷはっ? だ、だめったら、兄さん……水着が」

「ちょっと、加減して……えはぁ、こっちは動けないんだからぁ」

 お尻を引かされた分、上半身は前のめりになった。あたしとリーリエは胸の位置で真正面からぶつかり、互いに柔らかさを弾ませる。

 スクール水着はプールの水で濡れてても、身体はどんどん火照ってきた。お兄様にお尻を撫でられるだけでも感じ、微弱な震えを堪えきれない。

「その水着は学院の指定だろ? ふたりにはサイズが合ってないんじゃないかな」

 お兄様は先にリーリエの背後を取り、スクール水着に手を掛けた。肩紐をずらし、彼女の胸元を暴いてしまう。

「きゃっ! や、やだ、兄さん……」

 豊かで形も美しい白乳が、これ見よがしに揺れた。

正面からだと、肩幅くらいあるのがわかるわ。あたしも胸の大きさがコンプレックスだから、彼女の多感な羞恥ぶりが自分のことのように伝わってくる。

 次はあたしが脱がされる番。

「悪趣味なのよ、お兄様は。女の子に……こ、こんなことばかり……」

 反抗しようにも、恥ずかしくて声が声にならなかった。あたしの双乳も大胆に弾み、お兄様とリーリエの目を釘づけにしてしまうの。

「やだ、スバルったら……さきっちょが勃って……」

「い、言わないでってば!  そっちこそ、そんなに……なってるじゃないの」

 合計よっつの突起が疼く。

あたしは左、リーリエは右に並んで、お兄様のねちっこい視線に耐えるほかなかった。両手がこれじゃ、隠したくても隠せない。

「最高だね。実の妹を剥いてやったかと思うと、ぞくぞくする」

 そう……あたしたちは兄妹。ぎりぎりのところで踏み留まってるとはいえ、それもお兄様次第だった。拘束のせいもあって、狼の前で動けなくなったウサギの気分だわ。

 お兄様の手がそれぞれ外側の乳房に伸びてくる。

「どっちのほうが柔らかいかな?」

「おっお兄様? んふぁ、そんなに強くしちゃ……!」

 下からすくいあげられるように押し揉まれ、重心が揺らいだ。あたしとリーリエは肩で触れ、内側の乳房を真横からぶつけあう。

「スバル、あ、あなた……」

 リーリエのほうも感じたのね。あたしたちの裸乳はもうプールの水で濡れてるだけじゃない。赤みが差すほど火照ってしまい、汗ばんでる。

 休みもせず、お兄様は手の位置を変え、今度は内側の乳房を鷲掴みにした。

 しかも……あたしとリーリエの突起をくっつけて、両方を一辺に咥えちゃったの。

「へあぁ? お兄様、そ、それだめ……ッ!」

「に、兄さん! 欲張らないで、あんっ、ちゃんとひとつずつぅ!」

 ふたつを同時に吸うせいで、その力が強い。おまけに舌を無茶苦茶にのたくらせるものだから、摩擦も合わさり、快感の連鎖から逃れられなかった。

 まるでそこが新しい性感帯になっちゃったみたい。みるみる痺れが強くなって、あたしとリーリエはひたすら呼吸の回数を競う。

「はあっ、んはぁ……やんっ! もう吸っちゃ、やらあぁ!」

 両手で抵抗できない分、腰をくねらせるしかなかった。

そんな妹たちの悦がりっぷりを前にしてか、お兄様のキスはますます荒々しくなる。

「これでも、ぷはっ、おれは我慢してるんだよ? どっちも可愛い妹だからさ」

「んくふぅ……っ! 兄さん、へあぁ、少しでいいから、休ませてぇ?」

 あたしたち妹は一緒になって喘ぎ、発情期の香汗でスクール水着を蒸らした。プールで泳いでたはずなのに、これじゃサウナにでもいるみたいだわ。

やっと苛烈な吸いつきから解放され、あたしもリーリエもくたっと虚脱する。

「……っはあ、はぁ……はあっ」

「まだまだ、おしおきはこれからだぞ」

 プールのほうから笛の音が聞こえてきた。学院のみんなは授業中なんだってことを思い出し、あたしは羞恥に燃えるとともに恐怖する。

おしおきの効果は充分すぎるほど。

 長椅子(ベッド)の上で、先にあたしが仰向けに押し倒された。

「お兄様? 今度は何を……」

 その上にリーリエがうつ伏せで覆い被さってくる。おかげで、あたしの裸乳はリーリエの裸乳で圧迫され、むにゅうとひしゃげた。

リーリエの湿った髪が垂れ、あたしの視界を狭くもする。

 スクール水着のフロントデルタは上下で向かいあってた。それがお兄様の狙いだったみたい。まずは上になってるリーリエの秘密に、おもむろに顔を近づけてきたの。

 さしものリーリエも赤面し、声を上擦らせた。

「やっやだ! 嗅がないで、兄さん!」

「無茶を言うなあ……これはプールのにおい、かな?」

 それを責め立てるようにわざとらしく鼻を鳴らすのが、意地悪なお兄様のやること。あたしに跨ってるせいで、リーリエのほうは脚を開いたまま逃げようもない。

 けど、拒絶の言葉はすっかり色めいてた。

「兄さんの言うことなら……っはあ、ちゃんと聞くから、そこだけは許してぇ?」

 こっちからじゃ見えず、あたしもお兄様の動きに神経を尖らせる。

 スクール水着の薄生地は太腿の付け根にぴったりと張りついてた。あたしのは上向き、ミーシャのは下向きで重なり、中央を擦れあわせる。

「こっちも確かめないとな」

「えっ? お兄様、そそ、そこはいやったら!」

 今度は下のあたしが狙われた。両脚を押し広げられ、その中央に鼻を……ううん、唇まで押しつけられる。薄生地越しに熱いキスが触れ、乙女の奥のほうがまた濡れた。

「これに懲りたら、おれの命令には従うんだぞ? スバル」

「わ、わかったから……もうやめ、へ?」

 同じキスが上昇し、リーリエの聖域にもねっとりと舌を這わせる。

「んはああぁ? 兄さん、そんなとこ……んあぁっ!」

 彼女が恥ずかしがるほど、こっちも無性に恥ずかしくなった。女としての羞恥も、妹としての背徳感も、シンクロするとともに相乗的に高まっていく。

「おれも我慢できないよ。はあ、可愛い妹の、こ、こんな恰好……!」

 リーリエのお尻の向こうで、何やら衣擦れの音がした。あの夜のようにお兄様が……妹に向けてはならない獣欲を剥き出しにしたんだわ。

 更衣室には淫欲のムードが立ち込め、あたしとリーリエはごくりと息を飲む。

 それが躊躇いなのか、期待なのか、自分でもわからなかった。ただ、お兄様に次こそ乙女を荒らされる確信はあって……とうとうスクール水着の股布を脇へとのけられる。

「み! 見ちゃやあ、お兄様ぁ……!」

「見ないで……くださぃ」

 抵抗の声がはもるように重なった。

 お兄様の目の前で今、あたしたちの聖域が全貌を露にしてるんだもの。お兄様はいそいそと片手を振りながら、得意のキスで奇襲を仕掛けてくる。

「へぇあっ? やだ、兄さんってば、あっ……んふっいぃい!」

 反射的にリーリエは唇を噛んで、拘束の姿勢でものけぞるくらい息んだ。その狂おしそうな身振りだけで、何をされてるのかわかる。

 ……しかも、このタイミングで更衣室に誰かが近づいてきたの。

「こっちにもいませんわね。リーリエさんはどちらへ?」

「向こうも探してみましょう」

 あたしも肝を冷やし、瞬きさえ忘れる。リーリエが声を抑えたわけね……。

 間もなく話し声は足音とともに遠ざかっていった。あたしたちは第二更衣室で息を潜めつつ、その息をまた激しく荒らげる。

「あえぇへああっ?」

 嬌声を張りあげてしまったのは、あたしのほう。

「ち、ちょっと……スバル? あん、大きな声は出さないでったら」

 多少は我を取り戻したリーリエの下で、唇から舌が零れるほどに色悶える。

「むっ無理よ! お兄様、やだ……っはぁ、こんなの恥ずかしくって、もお……ッ!」

 お兄様のキスのせいで。

 乙女の聖域は暴かれながらも潤っていた。そこをお兄様に舌でぐるりと擦り抜かれ、快感の連鎖が始まる。疼きは痺れを欲し、痺れはさらなる疼きをもたらした。

「今のうちから、っぷはあ、しっかりほぐしておかないとな」

 いつかお兄様を迎えるかもしれない、妹の――その想像も興奮に拍車を掛ける。

 十年ぶりに再会して、こんな関係になってるのが嘘みたいだわ。

「っはあ、んふぁ……おにぃ、さ……」

「らっらめえ! 兄さんっ、あん、これ以上はぁ!」

 あたしが淫らなキスから解放されても、今度はリーリエが同じ快楽に翻弄され、突っ伏してくる。お互い背中で両手を拘束されてるから、汗みずくの白乳をぶつけあった。

相手の熱っぽい吐息がこっちの呼吸まで侵し、さらに酔いを深くする。

「お……お兄様、へぁ、あたし……ろっ、どぉにかなっちゃう!」

 お兄様の涎とともに上からリーリエの蜜が垂れ、あたしの乙女を潤わせた。そこだけ雨曝しになった花のように濡れ、淫靡な香りを放つ。

「わたしももぉ、兄さぁん! あっ、ぁあ……あん! あっ、あはぁあっ!」

 リーリエの喘ぎも重なって、もはや興奮に自他の区別がつかなかった。彼女と裸乳で押し合いへし合いしながら、あたしもお兄様のキスを受け、身体じゅうを過熱させる。

「ひゃめっへ、これぇ! えひゃらぁあああああーっ!」

「にいしゃあっ、えにぃ、れへぇえええっ!」

 ついには臨界に達し、飛翔感に打ちあげられた。あたしとリーリエは胸で抱擁を深めつつ、八の字に開きっ放しの脚を痺れつかせる。

 頭の中はとろとろで、もう『気持ちいい』ってことしかわからない。

「あはぁあ……っ!」

 あたしの真正面でリーリエも恍惚の笑みを浮かべてた。声の震えも身体の痺れもひとつになって、お兄様との間違いだらけのキスに酔いしれる。

 ようやく絶頂の波が引き、リーリエのほうも長椅子で仰向けに転がった。

「スバル、リーリエ! ご褒美だっ!」

 そんな妹たちに目掛けて、お兄様が灼熱を放つ。

 スクール水着はお兄様の愛情にまみれ、ぬめ光っていた。薄生地に染み込んで、蒸れきった柔肌にも熱を分けてくる。

「あぁ、熱ぅい……!」

こんなにも汚されてるのに、不思議とそうは思えなかった。

妹でも女になれた、それこそ『ご褒美』のようで……心ならずも身体はマゾに目覚め、お兄様のおしおきに屈服してしまうの。

 もっと命令して? お兄様……リーリエより聞いてみせるから……。

 このひとの考えにはついていけないつもりでも、身体のほうはもうお兄様でなくっちゃいけない。同じ余韻に浸りながら、あたしとリーリエは拘束を解かれるのを待った。

「またやっちゃったよ。ふたりがあんまり可愛い声で鳴くからさ」

 お兄様の前で手を繋ぎ、息を切らせつつも一緒に微笑む。

 小さな窓の外で、不意にガタッと音が鳴った。

「あ。やばっ!」

 お兄様も含めて、あたしたちは一様にぎょっとする。

だ、だって……その窓からシェラとアリスが覗き見してたんだもの!

「ちちっ、ちょっと嘘でしょ? いつから見てたの!」

「シェラちゃん、授業は?」

 あたしとリーリエは真っ赤になり、大慌てで裸の胸をかき抱いた。驚いてた割に、もう服装を調えてるお兄様が信じられないわ。

「まったく……好奇心が過ぎるぞ、シェラ。大人の時間だと言ったじゃないか」

「ひひひっ! 前から怪しいと思ってたんだよね~、アニキ」

 シェラは悪びれもせず、小粋な笑みを咲かせる。

 その一方で、アリスは石像のように硬直してしまってた。あ、あたしたちの情事がよほど衝撃的だったみたいで……つぶらな瞳をぱちくりさせる。

「知りませんでした。見たのだって初めてですけど……きょ、兄妹で……」

「おっと。じゃあね、スバル。また今夜」

「まったねー! ほらアリス、しっかりしてってばぁ」

 お兄様はアリスに説明もせず、飄々と逃げていった。シェラもアリスを回収しつつ、情事の現場を離れていく。

 あたしとリーリエはさらなる大問題に気付き、スクール水着の手前を摘んだ。

「……やだっ、これ! どこで洗えっていうの?」

「ど、どうしようかしら……」

 そうこうしてるうちにチャイムが鳴って、クラスメートが隣の更衣室に戻ってくる。あたしたちは出るに出られず、次の時間も更衣室で悶々と過ごすのだった。

 

 

 ジェミニ王宮の異次元迷宮へ突入し、前へ前へと突き進む。

 あたしは聖剣カストゥールを構えつつ、神聖魔法でフィールドを張った。その障壁で悪魔じみたモンスターの炎を遮断し、突破口を開く。

「今よ、みんな!」

「任せて! スバル、兄さん!」

 一瞬のうちにリーリエとシェラが躍り出た。さすが『羅刹』のリーリエ、目にも止まらない速さで刀を振るい、モンスターを二匹まとめて一刀両断に仕上げる。

 それに負けじとシェラも猛然と矢を放ち、魔物を貫いた。

「いっただき!」

 接近戦では弓の形を大剣に替え、力任せに切り裂くの。華奢な身体つきはアリスと大差ないにもかかわらず、彼女は豪快なパワーを秘めてた。

「あとは私がやります。散開してください」

 後列のアリスが魔導杖で魔方陣を描き、裂ぱくの気合とともに発動させる。

「エーテルブラストッ!」

 怒涛の勢いでエネルギー波が放たれ、突風まで巻き起こった。その射線上にあった魔物をことごとく焼き尽くし、回廊から一掃する。

「こんなものか……この調子なら、進む分には問題なさそうだな」

 お兄様は中衛でフォローに徹してた。神聖魔法はあたしのほうが慣れてるからって、聖剣カストゥールもこっちに持たせてる。

 行く手に立ちはだかるモンスターは、地上のものとはまるで別物だった。悪魔族や不死族(骸骨とか)、魔法生物(例えばミミックね)なんてのも見かけたかしら。

 こうなってくると、あたしの神聖魔法も本領発揮できる。初めて遭遇した時は、そりゃもう驚いたけどね……グレーターデーモンなんて冗談でしょ。

「カストゥールは扱えそうか? スバル」

「ええ。小振りで軽いから、レイピアと大差ないわ」

 一度は拒絶したものの、あたしはお兄様に協力することに決めた。

空の彼方からアスタリスクを呼び戻してやるの。そして魔導兵器は見つけ次第、破壊する。兵器がなくなれば、帝国と連合も諦めるはずだわ。

 これがあたしにとっての『決着』よ。

 それに……お兄様のこと、ちょっとは信じてみようかなって。あの気高くて優しい、昔のお兄様が戻ってきてくれると、胸に期待を秘めながら。

「リーリエも問題ないね?」

「はい。兄さん」

 同じ妹のリーリエは今日もお兄様に従順で、あたしを少々焦らせてくれた。

 お兄様にとってはどっちが妹で、どっちが恋人なのかしら……?

アリスがつぶらな瞳でお兄様を見上げる。

「中枢部までどれくらいあるんですか? お兄ちゃん」

「ここの広さや距離については、伝承には残ってないんだ。ただ、よっつの区画で石板を集めれば、道は開くと……地道に探索していくしかないね」

 シェラは武器を弓の形に戻し、息巻いた。

「くう~っ、これこれ! やっぱ、こんくらいは歯応えがないとさあ」

 この子はフェンリル団のメンバーだけあって、筋金入りの戦闘狂なのよね。お兄様に頭を撫でられると、甘えん坊の子猫みたいにじゃれ返す。

「にゃあ~!」

「シェラは大丈夫だろうけど、無理をするんじゃないよ、アリス」

「了解です。撤退できるうちに撤退しましょう」

 なんだかアリスやシェラのほうが『本物の妹』のようで……その睦まじさを、あたしとリーリエは羨望のまなざしで見守ってた。

 いいなあ、ふたりとも……。

 あたしたちはお兄様と一線を越えつつある。恋人を自負してもいいかもしれない。だからこそ、もうお兄様の『妹』ではいられなくなってきた気がして……ね。

 アリスとシェラはお兄様の傍にくっついて、和気藹々とする。

「帰ったら、週末の準備も進めませんと」

「だよね、だよねっ! ジェミニのビーチってすっごい綺麗なんでしょ? アニキ」

 この週末は慰労も兼ね、シルバーフォクス隊は西海岸でバカンスの予定だった。女の子があたしとアリスだけじゃ寂しいから、リーリエとシェラも誘ってる。

「おれは初耳だよ? スバル。仲間外れなんて酷いなあ」

 だけど、お兄様には声を掛けてなかった。あたしはそっぽを向いて拗ねる。

「嫌よ。絶対にイヤ」

「どうして? 海なら一緒に泳げるじゃないか」

「お、お兄様がまた『悪戯』するからに決まってるでしょっ?」

 怒りと恥ずかしさとがない交ぜになって、顔が真っ赤になってしまった。先日はプールで(希望したとはいえ)同じ目に遭ったリーリエも、困惑を浮かべてる。

「わたしも兄さんが来るのは、ちょっと……」

「ええっ? そんなに信用ないのかい? おれってやつは」

 お兄様はひどく狼狽し、新しい妹にさえ縋りついた。

「なんとか言ってくれないか? アリス。どっちの妹も急に反抗期みたいなんだ」

「私では少々……ほかにはないタイプの痴情のもつれのようですし」

 頼る相手を間違えてるわよ、お兄様?

この前のプールでの情事、誰に見られたと思ってるの。おかげで、あたしもアリスにはやたら気を遣ってしまった。

「アニキはおばさんと留守番してりゃいいんじゃない?」

「寂しいじゃないか! ずるいぞ、シェラ? 自分は誘われてるからって」

 お兄様は妹の水着を逃がすまいと必死になってる。

 この十年で逞しくなったんだか、情けなくなったんだか……はあ。

 

 

 それでも、お兄様がお屋敷に来た日は泊まってもらって。

 内緒のランジェリーを披露しつつ、あたしとリーリエはお兄様と添い寝するのが、いつからか恒例になってた。リーリエが辞めないから、あたしも辞められないのよ。

 それに下着姿なら、妹じゃなく女として扱われる実感もあるから……。

 薄闇の中、お兄様はベッドの真中で寝息を立ててる。

 その向こうでリーリエがもぞもぞと動き出した。お兄様を起こさないように注意しながらも、うっとりとキスを捧げるの。

「はあっ、兄さぁん」

 うぅ、今夜も始まっちゃったわ……。こうなってはあたしも引くに引けず、リーリエと競いあって、お兄様の頬や耳たぶを舐めたくった。

「えれあぁ……ンッ、んあふっ」

 それと同時に、あたしたちは片手をショーツの中へ。お兄様の温もりを味わいながら、こうして自らを慰め、快感に身悶える。

 いけないことだってわかってても、リーリエには負けられなかった。

「ああっむ、お兄様ぁ……起きたりしないでね? へぇあぁ」

「兄さんったら、ぷはっ、どきどきしてるわ……もっと、わたしのキスでぇ」

 お兄様の寝巻を剥いで、その厚い胸にもふたり一緒に舌を這わせる。男のひとの胸の突起も、刺激することでちょっぴり硬くなるみたいね。

 ショーツの中でもリズムよく指を繰り、痺れの間隔を縮めていく。

 

 そんな妹たちの求愛を一身に受けながら、ルークスは『寝たふり』に徹していた。スバルやリーリエの悩ましい喘ぎと、甘えたがりなキスのせいで、目が冴えてならない。

 ……まあ、たまには翻弄されてやるのもいいか。

 兄妹にあってはならない夜。

 だが、それも迷宮を突破し、アスタリスクに辿り着くまでのこと――。

真夏の夜は背徳とともに更けていった。

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