ダーリンのぴょんぴょん大作戦!
第7話
アミューズメント・ビルの調査を諦め、進藤美景は繁華街をぶらついていた。
「はあ……もう、わけがわからないわ」
真井舵輪やクロード=ニスケイアが入ったはずなのに、依然として例のビルは無人の様相を呈している。それでも周囲には警備員が張っており、二度も見つかってしまった。
中には少し入ったところで、不可解なドアに行く手を阻まれている。
「あの向こうで何をやってるのかしら、真井舵くんたち……」
また、ビルに入る時と出る時には、奇妙な浮遊感があった。学園祭でも体験した、あの逆転の現象に似ている気がしてならない。
「私の推測が正しければ、一之瀬さんや三雲さんも、おそらく一緒に……」
しかし現時点では『彼らは事件に関与しているらしい』以上のことは言えなかった。
そもそも今回の事件は話題性が高く、マスコミも殺到している。その割に、出てくるのは曖昧な証言ばかりで、真相には誰も迫れずにいた。世間の関心も薄れつつある。
だからこそ、ここで自分が真相を解明してやりたい。
「……あら? あの子は確か」
ひとまずコンビニで食料でも調達しようと思った矢先、ひとりの少女の顔立ちにぴんと来た。件の真井舵輪の妹、真井舵蓮で間違いない。
「本当にいいんですかぁ?」
「誘ったのはわたしだもの。遠慮しないで」
帽子を目深に被った眼鏡の女性と一緒に、喫茶店へと入っていく。
その女性の雰囲気にもぴんと来た。とんでもない大物を見つけたかもしれない。
(まさか、まさか! SPIRALの有栖川刹那っ?)
大人気アイドルグループ『SPIRAL』のリーダー、有栖川刹那。彼女は数年前、彗星のごとく現れ、今やトップアイドルと称されるほどになった。
歌唱力も演技力も評価が高く、数々の女優賞を獲得している。最近はNOAHという新鋭気鋭のアイドルグループに押され気味だが、とりわけ男性には根強い人気を誇った。
確か有栖川刹那はL女学院に在学中のはず。同じ学院生の真井舵蓮と繋がりがあったとしても、不思議ではない。
(ひょっとすると、真井舵くんとも関係があったりして……)
千載一遇のチャンスだった。アミューズメント・ビルの入口で途方に暮れるより、彼女らを探るほうが、有意義で面白いに決まっている。
美景はしめしめと忍び足で同じ喫茶店へと入っていった。
蓮は緊張しつつ、憧れのアイドル・有栖川刹那と一緒に席につく。
「有栖川先輩とご一緒できるなんて、ほんと嬉しいです! えへへ……」
「刹那、でいいわよ。友達にはそっちで呼んでもらってるから」
彼女がL女学院の高等部に通っていることは知っていたが、こうして話す機会などあるはずもなかった。コンサートで初めて本物を見て、感激したのも、つい先月のこと。
「そんな変装でばれたりしません?」
「大丈夫。ここのマスターとは馴染みだし、心配しないで」
そんな雲の上の存在に誘われ、夢のようだった。理由など見当もつかない。
(SPIRALの新メンバーに勧誘したい、とか? まさかねー)
刹那がリーダーを務めるSPIRALには、ほかに三人のメンバーがいた。しかし、やはり有栖川刹那の人気が頭ひとつ抜けている。
「あ、あのう……芸能界のこととか、聞いちゃってもいいですか?」
「ええ。遠慮しないで、何でも聞いて? 蓮ちゃん」
今日のために有栖川刹那のことは徹底的に調べた。ダンス大会で優勝し、芸能界入りを果たしたこと。デビュー曲の『天使のホホエミ』が記録を塗り替えたこと。
刹那は悪い顔をせず、蓮の質問にひとつずつ答えてくれた。
「NOAHと険悪だなんて、一部のマスコミが勝手に言ってるだけよ。確かにライバルではあるけど、向こうも友達と思ってくれてるんじゃないかしら」
「よかったあ。あたし、NOAHも大好きですから」
ケーキも美味しいおかげで、次第に緊張は和らいでくる。
「アニキ……お兄ちゃんはNOAH派だなんて言うんですよ? SPIRALの新曲、貸してあげたのに、まだ聴いてないみたいで」
冴えない兄の話になると、刹那は笑みを深めた。
「あなたのお兄さん……ふふっ、よく知ってるわよ。愛しの輪クンだもの」
「……え?」
思いもよらないことを囁かれ、蓮は目を白黒させる。
刹那の柔らかい手が蓮の手に触れた。
「実はね、蓮ちゃんに協力して欲しいのよ。わたしが輪クンを手に入れるために」
「お、お兄ちゃん、を……?」
彼女の唇が誘惑的な誘いを投げかけてくる。
「あなたには素質があるわ、蓮ちゃん。わたしが力の使い方を教えてあげる」
何を言っているのか、よくわからなかった。それでも、有栖川刹那のためにできることがあるなら、何だってやりたかった。
「任せてください! あたしは刹那さんの味方ですから!」
「ありがと。次はお洋服でも見に行きましょうか」
健気な蓮とともに刹那も嬉しそうに微笑む。
その会話のすべてを、進藤美景は隣の席で聞いてしまった。
(真井舵くんの妹さんが、有栖川刹那と……? 真井舵くんを手に入れるって?)
大スクープには違いない。だが、おいそれと出版社に売り込む気にはなれなかった。過去にこういった特ダネを持ち込んで、三流記者に横取りされたこともある。
(こうなったら、妹さんを徹底マークね。L女の友達にも協力してもらって……ミモリンなら多分、手を貸してくれるはず)
我ながら、今回は自分の強運ぶりが恐ろしくなった。下手をすれば、有栖川刹那を追い込む危険もあるからこそ、慎重に進めなくてはならない。
(先週の事件と関係があるとは思えないけど。うかうかしてられないわ)
美景の記者魂に火がつく。
有栖川刹那の真実が明らかになるのは、その冬のクリスマスだった。
☆
ダンジョン・サバイバルの突破を経て、輪たちはもとのフロアまで戻ってきた。主催者のキャロル=ドゥベが何食わぬ顔で、高らかに順位を発表する。
「おっつかれ~! シズカちゃんは残念だったねえ」
閑は輪たちがゴールしたあとで合流したため、今回はポイントを獲得できなかった。
「なんかあったのか? 閑」
「う、ううん。大丈夫だから気にしないで」
はぐれていた間にメグレズと接触したのかもしれない。しかし今は追求せず、輪はメインモニターをしげしげと眺める。
輪20、閑19、黒江23、沙織21、優希24、澪20。
閑以外の五人でポイントを割ったことで、順位自体は最下位が入れ替わっただけ。にもかかわらず、澪は不服そうに声をあげる。
「どうしてあたしだけ、4ポイントも入ってるんですか?」
キャロルはにやにやと笑みを噛んだ。
「ええー、聞きたいのぉ? どんなふうに抱かれちゃったか、とかサ~」
「ちちちっ、違います! 変な言い方しないでくださいっ!」
澪の赤面ぶりを見て、優希や沙織が呆れる。
「澪ちゃんったら、またまたぁ……ダーリンちゃんとそんなことまで、やっらし~」
「隙が多いんですわ。ですから、すぐ輪さんの餌食になってしまいますの」
「は、話を聞いてくださいったら!」
依然として上位をキープしているのは、優希と黒江だった。
キャロルが小粋に指を鳴らす。
「それじゃあ、いよいよ最後のゲーム! おぱぁいダーツも捨てがたいんだけど、ラストはやっぱり定番のこれ! スロットマシ~ン!」
フロアの照明が落ち、一部だけがライトアップされた。
そこには五台のスロットマシンが並んでいる。ところが、その座席は『サドルのない自転車』のような形になっていた。手でしっかり掴まるためのグリップも、前にある。
「んーとねえ……ダーリン氏、試しにやってみてくんない?」
「おう。要はスロットを止めりゃいいんだろ」
輪は右端のスロットマシンを選び、車輪の上で股を浮かせた。
「右手のほうのスイッチでリールが回転すんの。で、下の車輪を止めればオーケー」
スロットの速度はさほど早くない。
「なるほど……って、おい?」
しかしグリップに両手を縛りつけられてしまい、車輪を止めるに止められなかった。輪はこのゲームの恐ろしさを直感し、ぞっと肝を冷やす。
「……ま、まさか……」
「ほらほら、早く止めないと! 絵柄がドクロだらけになっちゃうぞ~」
しかもリールが回転すればするほど、イチゴやベルの絵柄は減り、ドクロのマークが増えていった。輪は腹を括り、跨ることで車輪に体重を掛ける。
(ひいいっ! こんなゲームばっかりか!)
その拍子にニンジンを下から突きあげられてしまった。
膝で車輪を挟み込もうにも、カバーが邪魔で届かない。さらに体重を掛け、どうにか股間で回転を止めてやる。
だが、もたもたしたせいで、リールはみっつともドクロが揃ってしまった。
「残念! ダーリン氏にはペナルティでぇーす!」
メインモニターに結婚式のワンシーンが映し出される。
「魔眼で作ったビジョン、よくできてるっしょ? ひっひっひ」
新郎は輪で、新婦は妹の蓮だった。魔眼による映像だけのものとはいえ、ふたりの初々しいムードも細やかに再現される。
『な、なんか恥ずかしいよね? アニキ』
『しょうがねえだろ。ほら、目ぇ閉じろって……』
輪と蓮、兄妹のキスシーンを前にして、閑は大慌てで両手を振りまわした。
「だだっだめよ! 輪、あなたと蓮ちゃんは兄妹なんだからッ!」
しかし当の輪は妹とのキスにも動じない。
「単なる合成だぜ? オレは別に」
「しずか、れんちゃんのことになると、むきになるよね」
「なんか勘違いしてるよねえ、閑ちゃんって前から」
ほかのメンバーもさして驚かなかったが、キャロルの一言で俄かに顔色を変えた。
「ドクロを揃えちゃったウサギさんは、コレでダーリン氏と結婚式、お見せしちゃうからねえ~。どんなキスシーンになるのかなあ? ひっひっひ!」
沙織と澪が一緒になって怒号を飛ばす。
「じじっ、冗談じゃありませんわ! どこまで辱めるおつもりでしてっ?」
「肖像権の侵害です! 断固として抗議させていただきますから!」
合成の映像であっても、輪との挙式など我慢ならないらしい。抵抗がないのは優希くらいで、黒江もクールなりに戦意を高揚させつつあった。
「ちょっと面白そうだけど、みんなに押しつけちゃうのは、酷かなあ」
「恥はかきたくない。やるしか」
その一方で、閑は茹であがってしまっている。
「わたしが輪と結婚だなんて……だ、だめったら。輪には蓮ちゃんがいるのに……」
かけるべき言葉が思い当たらず、輪はひそひそと優希に尋ねた。
「なあ、優希。閑のやつ、メグレズに妙なこと吹き込まれたんじゃねえか?」
「そうじゃなくって、ダーリンちゃんと蓮ちゃんの仲がよすぎるから、心配なんでしょ」
キャロルが魔眼の杖で首筋を按摩する。
「あ、ダーリン氏は今のでゲームオーバーだから、どいて」
「オレだけ扱いが雑すぎんだろ……」
輪は別として、ウサギさんたちの順位はこのスロットマシンで決まりつつあった。全員がほぼ20ポイント台のため、閑や澪にも挽回のチャンスはあるだろう。
閑19、黒江23、沙織21、優希24、澪20。
「最後のゲームだし、絵柄に応じて、ダイレクトにポイントに換算してあげる。ただしスロット一回ごとに、1ポイントいただくかんね」
リールの絵柄についても得点が発表される。王冠は3で、ベルは2、イチゴは1。そして大当たりの『777』は7ポイントだった。
「じゃあ、イチゴだと、プラスマイスがゼロになるってわけね」
「制限時間は二十分! さあさあ、位置についてー」
とにもかくにも最後のゲーム。これまでのエッチなゲームには嫌悪感を隠さなかった澪や沙織も、渋々と折れ、問題だらけの車輪に跨った。
全員の両手がグリップに拘束される。
「そんじゃ、スタート!」
「えいっ!」
いの一番にリールを回転させ始めたのは、右端の優希だった。腰を引き、狙い澄ませるかのようにタイミングを待つ。車輪は『後ろから前』の向きに回転を続けた。
そこに優希がバニースーツの股布を擦りつけ、ブレーキを掛ける。
「くふぅ? こ、これくらいでえ……」
車輪は優希の股間にハイレグカットを食い込ませながら、再び回転を速めた。
リールはみっつあるため、ブレーキも三回、掛けなくてはならない。同じように優希は腰を落とし、のけぞりながらリールに目を凝らした。
結果はベル、ベル、イチゴ。
「はぁ、いけると思ったんだけど、なあ……」
そのプレイだけでも息を乱し、胸元を香汗で照り返らせる。
(健康美ってか……優希のやつ、ほんとに色気が出てきたよなあ)
続いて、中央左の黒江がスロットマシンに挑んだ。
「さっきの優希ので、仕様は把握できた」
優希にしろ、黒江にしろ、上位だからこそ余裕があるのだろう。無理に『777』を狙わずとも、王冠やベルを手堅く狙っていけば、逃げきれる。
「最低でもベル、を……ひはあっ?」
ところがゲームに集中するあまり、弱点の守りが疎かになっていた。迂闊にお尻を降ろし、痺れつくような刺激に唇をわななかせる。
おかげで狙いはずれ、イチゴ、ベル、7。
黒江はグリップを握り締め、車輪の回転から股間を逃がすだけで精一杯らしかった。
「うぅ……タイミングは読めてたのに、はあ、失敗だなんて」
上位のふたりが外したことで、ほかの三人にもチャンスが巡ってくる。
「どんどんまわさないと、時間がなくなりましてよ!」
「え、ええ!」
中央右の沙織と左端の澪もスロットマシンを見据え、スタートを切った。優希と黒江も差を縮められまいと、続行する。
「ちょ、ちょっと、みんな? 待ってったら……」
中央の閑はたじろぎ、右を見ては左に向いた。
すぐ隣の沙織が下唇を噛んで、慎重にお尻を降ろしていく。しかし慎重になりすぎて、タイミングを逃がしてしまった。
「早くしませんと、ドクロが……っあぁあ?」
かといって、焦ってバニースーツを擦りつけようものなら、痺れに襲われる。
「どれもこれも悪趣味すぎるんです! こんな、恥ずかしい……っ!」
左端の澪はなるべくお尻の部分で車輪を止めようと、腰をくねらせた。けれども沙織とは逆に弱点を意識しすぎるせいで、リールを見ていない。
そんなウサギさんたちに輪は後ろから檄を飛ばす。
「落ち着くんだ、みんな! ゲームそのものは簡単なはずだぜ」
「輪……そ、そうよね」
中央の閑も顔つきを引き締め、スロットマシンに臨んだ。車輪との摩擦やハイレグカットの食い込みに悶えながらも、王冠を揃えていく。
「あくぅ? あ、あとひとつ……ンッ!」
みっつの王冠を揃えると、ファンファーレが響いた。
「おっとぉ! シズカちゃん、いきなり3ポイント獲得ぅ! これで21ポイント!」
キャロルの実況にも熱が入る。
閑の当たりに少し遅れて、澪も同じファンファーレを鳴らした。
「や、やりました……んふぁ、あたしも王冠です!」
次第に順位は横並びの様相を呈し、優希と黒江の焦りも大きくなる。
「あわわっ! またハズレ?」
「ゲームと名のつくもので、負けるわけには」
黒江は意地でイチゴをキープし、上位に踏みとどまった。
五台のスロットマシンが次々とリールをまわす。だんだんバニーガールたちも操作に慣れ、腰の捻りがリズミカルになってきた。
そのはずが、不意に閑がびくっとお尻を跳ねあげる。
「んひゃあっ? こ、こら、輪! ぁはあ、何するのよ?」
「へ? オレは何も……」
「ああっ! お、おやめになって……!」
隣の沙織まで弓なりになって、車輪から股座を浮かせた。ふたりとも、ボディスーツの股布がびしょ濡れになっている。
キャロルの手には水鉄砲があった。
「ひっひっひ! ここからが本番だかんね、ウサギちゃんたち!」
黒江も優希も水鉄砲で直撃を受け、敏感そうに背筋を伸びあがらせる。
「あふぅ? こんなの、ずるい……」
「だっ、だめだめ! 妨害はなしでしょ、キャロルちゃん!」
「ほらほら、ダーリン氏も! 楽しいぞ~」
さらにキャロルは輪に無理やり水鉄砲を握らせた。
「お、おい? オレは」
「正直になりなって。どーぞ、どーぞ」
トリガーまで引かれ、澪の股座に冷たい水を放ってしまう。
「きゃっ? り、輪くん! 今くらい、セクハラは自重してくださいったら!」
「だからオレじゃねえっての!」
この妨害のせいで、ウサギさんたちはリールのタイミングを逃してしまった。絵柄がドクロに替わらないうちに、とにかく止めようと、お尻を急降下させる。
「あ、あら? ちょ、ちょっと、やだ!」
「ひええっ? これ、普通の水じゃないのぉ?」
しかし滑りがよすぎて、ブレーキが掛かりきらなかった。
キャロルが意地悪な笑みを弾ませる。
「残念でした~! アタシが撃ったのはローションなの。どう? ぬるぬるっしょ!」
「な……なんですってえ?」
沙織は肩越しに振り返り、お尻の下を確認しようとした。その間にもドクロは増える。
「前を見るんだ! 外れでもいい、早く止めねえと!」
「そうだった……まだゲームの途中」
黒江はスロットマシンに向きなおり、車輪へとさらに体重を掛けた。澪や優希もかろうじて危機を脱し、持ちなおす。
「そーだ、ダーリン氏が助けてあげなよ。ひひひ」
キャロルは輪にまた別の水鉄砲を手渡した。
「こん中は普通の水が入ってるから。洗い流してあげないと」
「ふざけやがって……」
輪はそれを構え、バニーガールたちの際どい股間を真後ろから覗き込む。
「ローションはオレが落としてやる! あと少しだぜ、頑張れ!」
恥ずかしいところに不意打ちで水を浴びせられ、閑は涙ぐむまで赤面してしまった。
「あふぅうっ? 輪、あなた……ちょっとはためらうとか、あ、あるでしょ?」
「そんな暇はねえんだよ、我慢してくれ」
続けざまに優希、沙織と直撃を受け、いやいやと腰をくねらせる。
「ほんとは楽しんでるんじゃないのぉ? あん、ダーリンちゃんのばか!」
「セ、セクハラの才能だけは……はあ、認めて差しあげますわ」
バニースーツの股布どころか、網タイツまでぐっしょりと濡れそぼった。少しはローションも流れたようで、ブレーキの利きが戻ってくる。
「あぁ、あたしはいりませんから、そんなの!」
左端の澪は水鉄砲で責められまいと、滑りながらもリールを止めた。ドクロ、ドクロ、ベルと並び、窮地を脱する。
しかし黒江は輪のサポートも間に合わず、みっつのドクロを揃えてしまった。
「この私が、こ、これくらいの妨害で……凡ミス……?」
キャロルが意気揚々とこぶしをあげる。
「ここでクロエちゃんがまさかのペナルティ! 披露宴だあ~!」
またもメインモニターに結婚式のワンシーンが浮かびあがった。誓いのキスのため、花嫁は少し背伸びして、唇を上に向ける。
『黒江先輩……』
『じっとしててね、れん』
ところが新婦は蓮で、新郎は黒江の男装バージョンだった。キャロルは小首を傾げ、黒江はほっと安堵の息をつく。
「……あり? 配役、間違えちゃったみたい」
「危なかった……もうちょっとで一生ものの恥、かくとこ」
「そんなに嫌なのかよ? 傷つくだろ」
制限時間も半分を過ぎ、五台のスロットマシンはひっきりなしにリールを回転させた。キャロルは何度もローションを撃ち、ブレーキの利きを鈍らせる。
「まだまだ、これからっしょ!」
「てめえ! しょうがねえな、五月道も我慢しろ」
「え? いえ、あたしは……ひゃふぅ!」
それを追って、輪も水鉄砲を連射した。だが、ローションはすでに車輪の全体に行き渡っており、ちょっとやそっとの水では落とせない。
バニーガールと車輪との合わせ目が、ぬちゃぬちゃと意味深な粘音を鳴らす。
「あっあぁ? 止まって、ぇはあ……と、止まっへえ!」
「これ、もう無理……ぬるぬるして、ほんと、やばいってばぁ~!」
嬌声もしきりに響き渡って、艶めかしいムードを盛りあげた。ローションが滑るせいで車輪との摩擦時間も長くなり、むしろお尻はさほど上がらなくなってくる。
キャロルの声が含みを込めた。
「さ、て、は……ウサギさんたち、気持ちよくなってきちゃったのかなあ~?」
「そっ、そんなわけありませんってば!」
澪は全力で否定するも、さっきまでのようにはお尻を持ちあげられずにいた。反抗も弱まり、もどかしさと快感のちぐはぐなアンサンブルに息を荒らげる。
(本当に気持ちいいんじゃねえのか? みんな)
水鉄砲を撃つのも忘れ、輪は息を飲んだ。
優希はぐいぐいと股座を車輪に押しつけ、やけに熱っぽい吐息を散らす。
「あふぁあ……! もう変になりそお、ボク……へっ、へぁあ」
まだ沙織は唇を噛んで、堪えようとはするものの、快感には素直な声を漏らした。それでもドクロを揃えるわけにはいかず、蕩けかかった双眸でリールの絵柄を読む。
「んあぁ? と、止まらなくなってきましたわ、くぅ、早く、おしまいにぃ……!」
ゲームでは負けられない、負けたくないらしい黒江は、巧みに腰をくねらせた。粘っこい水音を立てながらも、ブレーキを掛ける。
「これで、ベル……! リードはできてる、わ、悪くない」
同じように澪もボディスーツの股布を引きずり、リールを制した。
「お、王冠! やっとあたしも……あっ、あぁあ?」
「くふぅあっ? らめぇ、こんなの……!」
しかし腰が抜けてしまったのか、ふたりして車輪の回転に晒され、色悶える。
ウサギさんの股間はびちょびちょに濡れていた。網タイツまで蜜にまみれ、肉感的なフトモモをぬめ光らせるのも、いやらしい。
「こうするのよ、みんな!」
閑が前のめりになって、車輪に巨乳を押しつけた。
胸の谷間が車輪を挟むことでブレーキとなり、絵柄を揃えやすくなる。リードを奪われつつある優希も真似し、柔らかなおっぱいを車輪に擦りつけた。
「こ、これなら……はふっ、どうにか」
同時に股間も擦りつけ、回転を食いとめる。
「しかたありませんわね。ここまで来て、っはあ、負けるわけには」
「私だって……次で、くふぅ、もっとポイントを」
沙織や黒江も巨乳を降ろし、魅惑の谷間を駆使した。手が使えないため、肩で上げ下げしつつ、タイミングを合わせる。
「あ、あっち向いててください! 輪くん……ひあっ、あひぃ?」
同じ体勢になっても、澪は後ろばかり気にしていた。ベルをふたつ揃えたところで、回転を止められなくなり、みっつめのリールはドクロだらけになってしまう。
(オレにできるのは、こいつだ!)
ウサギさんが悶絶する一方で、輪はキャロルのローション鉄砲を奪い取った。
「いつまでもお前の好きにはさせないぜ? キャロル」
「おっとと……じゃあ、そろそろ最後の仕上げと行こうかなあ。ボディスーツのアーツも解除、ポロリ大作戦~!」
しかしキャロルは動じず、笑みを深める。
彼女がぱちんと指を鳴らすや、スロットマシンの車輪が逆回転を始めた。バニースーツの胸元が車輪に巻き込まれ、脇からずりさがっていく。
「きゃあああっ! やだ、見ないで……み、見ないでったら、輪!」
「ちょっと? あっ、だめ! ずれるずれるっ!」
ウサギさんのおっぱいが次々と飛び出した。メンバーは途端に顔を赤らめる。
「ご、ご覧にならないでくださいませ、ダーリンさま……!」
沙織などマゾ気質を触発され、メイドの人格になってしまった。裸の巨乳があちこちで弾むように揺れ、輪の目を釘付けにする。
(正面からだと、どうなってんだ? オレ、もう……っ!)
左側のウサギたちも狼狽した。
「ほんと待って? 止めてっ、りん、これ止めてえ!」
「だ、だから、あっち向いてくださいって、っはあ、いっへるんれす!」
黒江さえ声を荒らげ、澪は呂律もまわらない。両手を拘束されていては、胸を隠すに隠せず、輪の視線をお尻で妨げようと躍起になる。
真中の閑は車輪の上で寝そべり、快感に喘いでいた。
「あっ? こ、これ、来ちゃう……へはあぁ、いいの、気持ちいいの来ちゃうぅ!」
みっともないほど脚を開いて、感じやすそうに引き攣らせる。
周りのバニーガールたちも嬌声を張りあげ、閑に続いた。ウサギのお耳をぴょこぴょこと揺らしながら、汗だくの巨乳を弾ませる。
閑のスロットマシンは『777』で大当たり。
「はああぁあああああ~~~っ!」
五匹のバニーガールは一斉にしゃくりあげ、甲高い嬌声をはもらせる。
沙織は王冠、黒江と優希はイチゴ、澪もベルを揃え、ファンファーレを反響させた。閑の『777』は一際、眩い輝きを放つ。
やがてウサギさんたちは力尽き、くずおれた。
「んはぁ? ……あ、はあ……」
拘束を解かれても起きあがれず、車輪に跨ったまま、息継ぎを長引かせる。
巨乳は汗みどろで、脚の付け根もびしょびしょだった。網タイツは蒸れ、男の子を誘うかのように甘酸っぱいにおいを漂わせる。
「ゲーム終了~! まさかまさかの、シズカちゃんの大逆転だね!」
キャロルはすっかり得意満面になっていた。
だが輪はもう我慢できず、両手で頭を抱え込む。
「ぐぅう……っ!」
「へ? どったの、ダーリン氏」
その暴走を察し、閑たちは我に返るや、そそくさと間合いを取った。
「みんな、輪から離れて! あれが来るわ!」
「……なんのこと?」
キャロルだけはきょとんとして立ち竦む。
輪の全身がぶるぶると震えた。
「お、お前が悪いんだぜ? オレを興奮させまくるから、オレのあれが……!」
ディーラー服が裂け、中から夥しい数の触手が溢れてくる。
「げええええええっ?」
さしものキャロルも目玉をひん剥いた。怪物は彼女に狙いをつけ、触手を伸ばす。
「まずはクレーンゲームだっ!」
「ひゃあああ?」
ぬるぬるクレーンゲームが始まった。触手で吊りあげられながら、キャロルはボーリングのレーンへと運ばれる。
「お次はボーリングだぞ、ハァハァ!」
「どひぃいい~ッ!」
しかもゴールにはピンの代わりに触手が待ち構えていた。キャロルの巨乳にうぞうぞと殺到し、まるで蛇の群れのように身を擦りつける。
さらに休む間もなく、キャロルはビリヤード台のコーナーに座らされた。
「ちょちょっ、ちょっと! まだやんの? ひええええっ!」
触手が次々とキャロルの股間をくぐり抜け、球を打つ。
そこに入りきれない触手も、彼女のボディスーツを舐めるように這いまわった。ついにはスーツの裏にまで侵入し、艶やかな柔肌を好き放題に荒らす。
最後はスロットマシンの車輪に押しつけての、猛烈なスパンキング。触手は興奮気味にのたくりながら、キャロルのお尻を叩きまくった。
「こいつでとどめだっ!」
「そ、そこちが……そっちもちがっ、ぎ、ぎょえぇえええええ~~~っ!」
スロットのリールがみっつのドクロを並べる。
メインモニターの映像に砂嵐が混ざった。キャロルの花嫁姿が映し出されたところで、画面にびしっと大きな亀裂が走る。
「ハァハァ! 気持ちよすぎて、オレも……アアア~ッ!」
触手モンスターはエクスタシーに達した。
散々弄ばれ、キャロルはすっかり目をまわしている。
「……きゅう」
彼女が倒れたことで、エッチなゲーム大会もようやく幕を閉じた。魔眼は力を使いすぎたようで石と化し、割れてしまう。
素っ裸の輪は何とか魔装を実体化させた。
「悪い、オレ……もう制御できなくなっちまって」
閑たちは呆れるものの、輪を責めはしない。
「気にしないで。今回はちゃんと相手を選んで、暴れてたみたいだもの」
「このかたの自業自得でなくて? おかげで、わたくしも溜飲が下がりましたわ」
それだけ、彼女らもキャロルの辱めには耐えかねていたのだろう。魔眼が壊れたおかげで、黒江のスカウト系アーツも復旧する。
「……やれやれ」
「結局、景品はもらえるの? もらえないのぉ?」
優希は肩を竦め、澪は腕組みのポーズで口を尖らせた。
「いりませんよ、輪くんとデートの権利だなんて。……でしょう? 閑さん」
「えっ? えぇ、まあ……」
「景品なら、こっちで用意させてもらうわ」
そこへメグレズと、司令官の愛煌=J=コートナーがやってくる。メグレズは失神中のキャロルを見下ろし、溜息を落とした。
「……はあ。これで、この子も少しは懲りるといいんだけど」
愛煌は第四のメンバーを一瞥し、労ってくれる。
「お疲れ様。あなたたちに任せて、正解だったようね」
「ひょっとして、キャロル=ドゥベを退治させるつもりだったのか」
「そうじゃなくて。あれよ、あれ」
愛煌の指差すほうには、魔眼の残骸が転がっていた。
魔眼のレプリカを破壊すること。第四部隊には先日、そんな難題が与えられている。
「真井舵とキャロル=ドゥベのコンビなら、くだらない悪戯か何かで、安全かつ確実に魔眼を壊してくれると思ったの」
「はあぁ~? だからって、こんなパーティーまで企画したってのかよ?」
今回の件は愛煌とメグレズが結託してのことだったらしい。愛煌は魔眼のレプリカを処分するために。メグレズも表向きはキャロルにお灸を据えるために。
「そ、そういうことだったなんて……」
閑はメグレズと目を合わせようとせずに俯く。
「あきら司令も意地が悪い。黙ってコトを進めるの、とか」
「ごめんなさい。今日のことは全員、温泉旅行で許してちょうだい」
沙織や優希は顔を見合わせて、妥協した。
「それでよろしいんじゃ、ありません? 魔眼も無事に破壊できましたもの」
「そこそこ面白かったしねー」
澪は恥ずかしそうにバニーガールのスタイルをかき抱く。
「温泉って……輪くんも来るんですか?」
「どこまでオレを信用してねえんだよ! 何もしねえって!」
メグレズがぱんっと手を鳴らした。
「そうそう、ついでにあなたたちにも声を掛けておこうかしらね。マイダーリンと一緒に魔界に来る気はない?」
急な誘いにバニーガールたちは首を傾げる。
「ど、どういうことです? あたしも、えぇと……ニブルヘイムへ?」
「新生する魔界をより安定させるためにも、マイダーリンには七人の花嫁を迎えてもらいたいの。ここで五人も確保できたら、私も助かるから」
とんでもない提案に沙織は唖然とした。
「七人の花嫁……ですって?」
「りんのハーレム要員になれってこと? へえ」
黒江は冷めた表情で呟き、優希はあっけらんと笑い飛ばす。
「あははっ! 七人って……ダーリンちゃん、そんなにもてるんだぁ~?」
澪のこめかみには青筋が浮かんだ。そのまなざしだけで、輪の心胆を寒からしめる。
「……………」
「な、なんで黙るんだよ? 五月道!」
軽蔑の言葉をはっきりと口にしたのは、閑だった。
「最低ね」
「ちょっ、閑まで? 今のはメグレズが勝手に言っただけだろ?」
ふと愛煌が足元のカメラに気付く。キャロルの私物らしい。
「そういえば、そっちはゲーム大会だったわね。どんなゲームで盛りあがって……」
ダンジョン・サバイバルでのワンシーンが再生された。
『ぢゅるるっ! ちゅぱっ、ずちゅっぱ!』
よりにもよって、ウサギさんたちがニンジンキャンディーをしゃぶっているところ。しかも編集済みで、キャンディーにはモザイクが掛けられていた。
『びゅるびゅる! びゅるるるっ!』
紅潮しきった小顔にミルクが浴びせられる。
閑たちは石のように硬直し、愛煌は口角を引き攣らせた。
「へ、へえ……? あなたたち、ま、真井舵と、こんなことまで……」
「ちちっ、違うの! これはキャロルの悪戯で!」
淫靡な光景は輪の網膜にも焼きついており、立っていられない。前屈みで座り込み、元気なニンジンをひた隠しにする。
「……どうしたの? ダーリンちゃん」
「聞かないであげて、ゆき。男の子は大変らしいから」
「わかってんじゃねえか、黒江! 生理現象なんだよ、もういいだろっ?」
こうして第四部隊は日曜日の任務を終え、明日からは学校へ。
そのあと、まさかキャロルから漫画の手伝いを要請されるとは、思わなかった。
☆
次の週末、セプテントリオンの面々は屋敷のブリーフィングルームに集まった。メグレズが出欠を確認し、いつものことに嘆息する。
「サツキとセツナは、また? まったく……今日は大事な話があるっていうのに」
キャロル=ドゥベは円卓に突っ伏していた。今日は無地のパーカーを羽織っているだけで、手首には湿布を巻いている。
「原稿あがったの、ついさっきなんだけどー。ふあ~あ……」
隣のツバサ=ミザールは片方の眉だけ顰め、呆れた。
「だらしのないやつめ。前もってスケジュールを立てておかんから、そうなるんだ。それでも私たちの上級生か? 貴様」
「ど、どんだけ作業が多いと思ってんの? アシスタントも少ないんだからサ」
チハヤ=メラクは舌を吐き、エミィ=フェクダは頬を染める。
「オレは二度と手伝わねえぞ。あんな細けえ仕事、してられっか」
「エッチな漫画はちょっと、ねえ?」
サツキ=ベネトナシュの席には誰も座っていなかった。
「はいはい、漫画の話はそこまでになさい。あなたたちにはマイダーリンと……イチノセシズカについても、知っておいて欲しいことがあるの」
「え……イチノセさん?」
意外な人物の名が出てきたことで、メンバーは一様に疑問符を浮かべる。
「アルコルでしょ」
そこへ、もうひとりが遅れてやってきた。
「わたしたちの死兆星……アルコルがやっとお出ましのようね」
大人気アイドルグループSPIRALのリーダー、有栖川刹那。彼女こそが『強欲』を司る最後のセプテントリオン、セツナ=アリラトだった。
「遅刻よ? セツナ。キャロルだって来てるのに」
「ごめん、ごめん。まあ大体の事情はわかってるつもりだから」
切れ長の瞳がきらりと光る。
「わたし、真井舵輪クンにすっごく興味があるの。次はわたしが遊んでも?」
「あなたが? ……おかしなことを考えてるんじゃないでしょうね」
その唇も不敵な笑みを含めた。それをなぞった薬指が、うっすらと照り返る。
「だってぇ、欲しいものは手に入れる主義だもの。うふふ」
最後のセプテントリオン、強欲のセツナ=アリラト。
そして死兆星のシズカ=アルコル。
人類の変革を巡り、決戦の時は近づいていた。
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