ダーリンのぴょんぴょん大作戦!

第4話

 館林陽子の日曜は、平日よりも朝が早い。

「ちょっと寒くなってきたわね」

 館林家は由緒ある宮司の家系で、先祖代々、ミロク神社の神主を務めている。娘の陽子も巫女として、お正月などには祭事に参加することもあった。

 休日は朝のうちに神社の境内を掃除し、水をまく。

 この秋に館林家の一員となった狐のロクスケが、陽子の肩に飛び乗ってきた。

「本当に甘えん坊ね、あなたは。よしよし」

 尻尾がみっつもあり、伝説上の『九尾の狐』を彷彿とさせる。なのに名前はロクスケと、まるで統一性がなかった。

 この狐はとても利口で、掃除の手伝いから食器洗いまで、大抵のことはこなせる。当初はペットに難色を示した母も、手が掛からないロクスケを気に入った。

「あとでお出掛けしましょうか。油揚げ、買ってあげる」

 鼻先を撫でてやると、ロクスケは嬉しそうにみっつの尻尾を振る。

「新しいパンツも買わなくっちゃ」

 母に下着の着用を許されてから、ちょうど一年が過ぎていた。

 清らかな巫女はパンツを穿いてはならない。館林家にはそんな戒律が存在していた。

うろ覚えだが、自分は去年、悪霊に取り憑かれて騒ぎを起こしたらしい。そこを、ある男子生徒に救われた。

 先週の怪事件でも、彼が巨大な悪魔と戦っていたのを、漠然と憶えている。

「真井舵くんって何者なのかしら。ねえ、ロクスケ」

 ひょっとしたら、彼は一種の霊能者なのかもしれない。そのあたりは新聞部の進藤美景が徹底的に探りを入れてくれるだろう。

「さあ、朝ご飯にしましょ」

 ミロク神社でも秋らしい穏やかな時間が流れていた。

 その神の正体を彼女が知るのは、さらに一年後のこととなる。

 

 

 ドリンク休憩を挟んで、第四部隊は次のゲームに挑むことになった。

「さあって、ダーリン氏もお待ちかね! お次のゲームは、おぱぁいボーリング~!」

「ななななっ?」

 澪は一気に赤面し、勢い任せにまくしたてる。

「おおっ、おっぱいって何ですか! またエッチなゲームでしょう!」

 それを意に介さず、キャロルはチッ、チッと指を振った。

「おっぱいじゃなくて、おぱぁい、だってば。この違い、わかんないかなあー」

「わかってたまるか……」

 輪にとっても期待以上の不安しかない。

 バニーガールとゲームで楽しく盛りあがれるのなら、素直に喜べた。しかしキャロルのゲームは『バニーガールをエッチな目に遭わせる』ことに主眼を置いている。

 こうなっては、矛先を向けられるのはゲームマスターのキャロルより、むしろ男子の輪だった。これまでのスケベ前科の数々も、ここに来て輪を追い込む。

「りんには目隠しでもしてもらったほうが……」

「今度は胸だなんて……こ、こっちを見ないでくださいまし」

 第四部隊の男女比は1対5、輪に発言権はないに等しかった。それでも輪はめげず、魔眼の様子に気を配っておく。

(あれを破壊できりゃ、いいんだけどな)

 今のところ、魔眼のレプリカはキャロルの制御下にあり、安定しているようだった。

 それに、いつぞやの魔女の危険極まりない使い方に比べれば、可愛いもの。輪たちが殊勝な態度でゲームに興じている限り、暴走の心配もなかった。

「ではでは、こちらへどうぞ~」

 フロアの一角にボーリング用のレーンがせりあがってくる。しかしピンは自動で配置されず、可愛らしいコウモリがせっせとピンを並べていた。

「あれはアタシの相棒、ネーナちゃんってゆーの。憶えておいてねー」

「ゾフィーが連れてきたロクスケみたいなもんか」

 黒江がそわそわと指を編む。

「……撫でてもいい?」

「ゲームのあとでなら、ね。これが終わったら、お昼ご飯にしてあげるからサ」

 今回も破廉恥な内容に違いないものの、ひとまず午前のゲームは終わりも見えてきた。だが、そのためには『おぱぁいボーリング』をクリアしなくてはならない。

「ルールは簡単、ピンを倒すだけ。た、だ、しぃ……球は自分のおぱぁいを使うこと」

「おおっ、お待ちなさい! それのどこがボーリングですの!」

 沙織が異議を唱えても、キャロルはわざとらしく口を尖らせるのみ。

「ボーリングですぅー。言っとくけど、こっちにはコレがあんだからねえ?」

 魔眼の杖が鈍い光を放った。あれに睨まれては、ゲームのルールに従うほかない。

「ダーリン氏はおぱぁいがないから、みんなのサポートね。パートナーのスコアから最終的な得点を計上するって感じで、いいっしょ」

「好きにしてくれ……」

 半ば諦めもしつつ、輪はボーリングのレーンを一瞥した。

 スタートからゴールまで、普通のボーリングとそう変わらない。しかしレーンの表面には異様なほどの光沢があった。わずかに魔法のものらしい波動も感じる。

「そんじゃー、まずはっと」

「……ひゃあっ?」

 キャロルがぱちんと指を鳴らした途端、閑たちは頬を赤らめ、うろたえた。バニースーツの胸元を念入りに押さえながら、身を小さくする。

「ち、ちょっと? どうなって……やだ、剥がれちゃうってば」

 スキルアーツ製なのだから、ずれるはずもなかった。それをキャロルの手品か、魔眼によって、狂わされたらしい。

「そうそう、ポロリしちゃったウサギさんには、ボーナスもあげるからねー」

「い、いりませんっ!」

 澪も我が身をかき抱き、怒号を震わせた。

 第四部隊は誰もが巨乳だけに、ポロリの危険は大きい。普段はクールな黒江さえ、両手で胸を押さえ、すっかり困惑の表情を浮かべていた。

「これじゃあ激しい動きは……」

 細い腕の間から零れそうな巨乳を眺め、輪はごくりと咽を鳴らす。

(たまんねえな、これも)

かくしてキャロル主催のおぱぁいボーリングが始まった。一番手にはスポーツ万能な優希がレーンに立ち、強がって見せる。

「よ、よぉし、ボクから行くね。あれを倒せばいいんでしょ? 簡単じゃ……きゃ!」

 ところが不意に前のめりになって、べしゃっと倒れ込んでしまった。どういうわけか、レーンの床面から胸を剥がせず、苦悶する。

「あれ? おっぱいが……はあっ、お、重いぃ~!」

「ひひひ! どう? キャロル謹製、おぱぁいグラビティのお味は」

 レーンを覆っている魔力の正体に、輪が勘付いた。

「わかったぜ! あいつは重力を操れるんだ」

「ま、まさか? おっぱ……胸だけ重たくするなんてことが、できるの?」

 閑たちは信じられない様子で、優希の挙動に注目する。

 しかも優希は両手を背中の側で拘束されてしまった。魔法の手錠がぼんやりと輝く。

「ま、またこれぇ? んもう、こんなのばっか!」

 いくらバトルユニフォーム(バニースーツ)で身体能力をアップさせているとはいえ、レーンに胸を押しつける体勢では、進めるはずもなかった。

おまけに床面が滑るせいで、おっぱいを運べない。

「ほらほら、ダーリン氏ぃ? ウサギさんを手伝ってあげなくっちゃ」

「へ? ……オ、オレが?」

輪はぎょっとして、人差し指を自分に向けた。

確かに男子の輪なら、おぱぁいグラビティとやらに影響されず、レーンの上を歩きまわることができる。ただ、床が滑りやすいのは変わらない。

「うぅ、助けて? ダーリンちゃん……」

「お、おう。待ってろ」

慎重な足の運びで輪もレーンに乗って、突っ伏したままの優希に近づいた。

おっぱいが異常な重さのため、直立の姿勢で進ませるのは難しい。黒江がノートパソコンで計算を済ませ、提案してくれる。

「多分、押してくのが楽」

「押すったってなあ……どこを押せばいいんだよ、どこを」

とりあえず優希の後ろにまわってみたものの、まさかお尻に手をつくわけにもいかなかった。それを予想したらしい澪や閑が、輪に冷ややかな視線で釘を刺す。

「変なところ触ったりしたら、許しませんから」

「胸の大きい子には誰にでもそうよね、輪って……」

「待て、待て! ちょっとはオレを信用してくれても、いいだろ?」

しかし、いつまでも手をこまねいていては、埒が明かなかった。輪は腹を括って、優希ウサギのフトモモを掴みに掛かる。

「やるしかねえのか……じ、じっとしてろよ? 優希」

「ひあっ?」

 優希は驚き、反射的に身を竦めた。それでも触られたのがお尻ではなかったことで、妥協したらしい。肩越しに振り返り、輪に続行を求めてくる。

「……だ、大丈夫だよ? ダーリンちゃん。そのまま、ゆ、ゆっくり……」

「ああ。痛かったりしたら、言うんだぞ」

 なんでもないやり取りのつもりなのに、閑や沙織は赤面してしまった。

「り、輪ったら……いやらしいわ」

「押すだけ、でしてよ? 輪さん、許して差しあげるのは、押すまでですから!」

「わかってるって! よし、一気に行くぜ」

 自棄にもなりながら、輪は優希ウサギのフトモモを押していく。

 だがフトモモは低い位置にあるため、簡単には押しきれなかった。悪いと思いつつ、お尻をお腹で押すようにもして、前に進む。

「ダ、ダーリンちゃん?」

「触ってるわけじゃねえから! が、我慢しろ?」

まるで痴漢の言い訳になってしまった。閑たちの視線がちくちくと痛い。

それでも輪と優希のコンビはレーンを抜け、ピンのもとまで辿り着いた。そこまで来れば、おぱぁいグラビティの重力からも解放される。

 すかさず優希はのけぞり、持ち前の巨乳をピンの列に突進させた。

「ええーいっ!」

ふたつの膨らみがピンを一網打尽にして、ストライク。

ところが、同時に優希のバニースーツが捲れてしまった。生のおっぱいが零れそうになり、さしもの優希も慌てふためく。

「あわわっ! ダーリンちゃん、こっち見ないで!」

 しかも両手を拘束されているため、背中を向けるほかなかった。輪からは見えないところで、ありのままの双乳がぽろんと弾む。

 それを直視せずとも、鼻の奥にみるみる熱が集まってきた。

「みみ、見てねえ! 見てねえから!」

 輪も真っ赤になって、大袈裟なほど顔を背ける。

「……ほんとに見てない?」

「見てないって。だから、その……安心してくれ」

 幼馴染みの豊満な身体つきを前にして、落ち着いてなどいられなかった。熱い興奮が胸を高鳴らせ、彼女への興味を、むらむらと節操なしに膨張させる。

(こういう時は数式を思い浮かべるんだ! y=ax+b、y=ax+b……)

 キャロルはにやにやと笑っていた。

「初っ端から、やってくれるじゃん? 幼馴染みってのも怪しいよね~」

 ほかのバニーガールたちは一様に顔を引き攣らせる。

「つ、次は……どなたが行きますの?」

「あたしはまだ心の準備が……閑さん、どうぞ、どうぞ!」

「おっ、押さないでったら!」

 何しろ次は彼女らの番。譲りあい、押しつけあいながら、順番で揉める。

 そんな中、あえて黒江が二番手に名乗りをあげた。

「さっきのは、ボディスーツが床で捲れるってこと、失念してた私のせい。ゆきだけ恥ずかしい目にも遭わせられないから……りん、変に遠慮しないで」

 真剣な物言いからも、彼女の覚悟のほどがひしひしと伝わってくる。

「わかった。黒江がそう言うなら」

 黒江はレーンでうつ伏せになり、重たくなった巨乳を降ろした。あえて自ら両手を後ろにまわし、宣言する。

「手は使わないから。手錠とか、いらない」

「オッケー。ウサギちゃん、本気になったみたいだねー」

 優希の時と同じように、今回も輪はバニーガールの後ろにまわった。ボディスーツが網タイツとともにお尻に食い込むのが、このアングルでは丸見えになってしまう。

「じゃあ、押すぞ?」

「待って。今、掴まるから」

 輪が屈んだところへ、黒江が脚で絡みついてきた。運動会でいう『手押し車』みたいな要領で、輪の腰にしっかりと掴まる。

「お、おい? 黒江?」

 器械体操部の黒江ならではのポーズだった。巨乳を下敷きにして、意外にバランスも取れている。ただ、輪にとっては大変な体勢となってしまった。

 ウサギさんの股座がニンジンを圧迫する。

(数式! えぇと、す、数式って、歴史のあれだっけ?)

 魅惑のお尻にも密着されて、混乱するほかなかった。左右でフトモモを抱えはするものの、下手に前進しようものなら、元気なニンジンを刺激される。

「……りん? この体勢、つらいんだけど」

「え? あ、ああ……行くぞ?」

 間もなく輪と黒江のペアはぎこちない前進を始めた。

黒江が腰を捻るたび、輪の急所で圧力も変動し、ニンジンが力を増す。

(オレのせいなのか? 生理現象なんだから、しょうがねえだろ!)

 心の中で言い訳を連発しつつ、輪は黒江ウサギをピンのもとまで押しきった。黒江が輪の腰から脚を解き、ピンの列に双乳を勢いよく飛び込ませる。

 ボディスーツが捲れ、裸になったおっぱいを。

「これで……ス、ストライク……!」

 大急ぎで黒江は生乳を抱え込んだ。このために芝居を打って、拘束を逃れたらしい。

 そんな彼女のクールに徹しきれない、弱気な恥じらいのさまが、輪の男心を巧妙に煽り立てる。単なる興奮に留まらない衝動が、輪の本能を揺るがした。

(優希といい、黒江といい、なんでこんなに……ウサギの恰好だから、か?)

 幼馴染みのふたりが可愛く思えてならない。

「クロエウサギちゃんもいい感じ! やればできる子が多いなあ」

 続いて、三番手には澪が押されて、前に出てきた。

「あ、あたしですか?」

「澪も挽回しなくちゃ、でしょ? 最後はもっとやりにくいわよ、きっと」

 閑なりに澪のことを心配したようで、沙織や優希も納得する。

「意識しすぎないほうがいいですわ。輪さんのことは、タメにゃんとでも思って」

「胸は気をつけてねー。これ、今は簡単にずれちゃうから」

「は、はあ……わかりました」

 渋々、澪はレーンで前のめりになった。おぱぁいグラビティに自前の巨乳を晒し、おもむろに突っ伏してから、さっきの黒江と同じように両手を背中で組む。

「輪くん、あたし、我慢しますから……も、もうお尻で一気に押しちゃってください」

「い、いいのか?」

 まさかの提案に輪は息を飲んだ。

今なら同意のうえで、澪のお尻に触ってしまえる。興奮の酔いもまわっているせいで、もはや節度を保ってなどいられなかった。

「それじゃあ……その、お、お言葉に甘えて……」

「……あぅ?」

 後ろから輪は澪ウサギのお尻に触れ、網タイツの感触をてのひらに馴染ませる。

 張りのあるお尻の弾力は手首まで伝わってきた。緊張しながらも押すと、澪の身体が巨乳で転がるようにレーンを進む。

「こっちのほうが押しやすいみたいだぞ? 五月道」

「お、押すだけですからね? んくぅ」

 その様子を、閑と沙織は恥ずかしそうに見守っていた。

「あれを、わたしたちもするの?」

「そ、そういうゲームですもの。あれくらいでしたら、わたくしだって……」

 ところが、レーンの途中で澪のバニースーツがずれ、捲れてしまう。

「きゃあああっ? 待ってください、輪くん!」

 慌てて澪は両手をつき、いやいやと腰をくねらせた。しかしおぱぁいグラビティのせいで、レーンの上では巨乳を抱え込むこともできない。

「もうすぐだ、頑張れ!」

 あえて輪は澪のお尻に指を立て、勢いをつけた。レーンのゴールまで押しきり、おっぱいグラビティの影響下から辛くも抜け出す。

「はあ、はあ……どうして押すんですか、輪くんのばか!」

 けれども澪はゲームどころではなく、最優先で裸のおっぱいを隠した。

ピンはすべて残り、キャロルが片方の眉をあげる。

「あーあ。ミオウサギちゃんってば、挽回のチャンスだったのに~」

「さ、五月道にこんなゲームができるかっ!」

 おぱぁいボーリングで五月道澪は得点ならず、という結果となってしまった。

 残ったふたりのバニーガールを、キャロルが意地の悪い視線でなじる。

「そっちのウサギさんはどーするのぉ?」

 挑発を受け、プライドの高い沙織が前に出た。

「よろしくてよ。わたくしが華麗なストライクをお見せしますわ。……くうっ?」

 自らレーンに巨乳を押しつけ、おぱぁいグラビティに耐える。

「確かにこれは、ひとりでは……輪さん、サポートをお願いしますわ」

「ああ。こっちは四回目だし、要領はわかってきたぜ」

 彼女もまた両手を背中のほうで組み、ゲームのルールに則った。そのうえで大胆に脚を開いて、バランスを保つ。

 輪はその後ろにまわって、お尻を押す体勢となった。

(沙織のも、すげえ食い込みじゃねえか)

ウサギさんが開脚しているせいで、目のやり場に困らされる。

「じゃあ、行くぞ?」

「んあっ?」

 思いきってお尻に両手をつくと、沙織は敏感そうに呻いた。ロングヘア越しに振り向いて、艶っぽい唇をわななかせる。

「覚悟はできてますから、ど、どうぞ? 遠慮せず、押してくださいまし」

「よ、よし。絶対にストライクだっ!」

 輪と沙織のペアも何とかレーンを抜け、ピンに迫った。沙織は顔を赤らめながらも、跳ねるようにのけぞり、バニースーツから生のおっぱいを振りあげる。

 おっぱいの威力は凄まじく、ピンを残らず弾き飛ばした。

「い、いかがでして? ほら、ストライクでしてよ!」

 勝気な喜びを笑みにして、輪のほうを向く。

「いいいっ?」

 目の前で裸のおっぱいが揺れ、輪は咄嗟に鼻を押さえた。おまけに巨乳の谷間にはボーリングのピンが一本、深々と差さっている有様で。

「さ、沙織……前! 前!」

「え? あ……きゃあああああ~っ!」

 今になって沙織は真っ赤になり、スケベ男子の横っ面に平手打ちを放った。

(これもオレのせいだってのか?)

 キャロルは愉快そうに拍手を鳴らす。

「おぱぁいボーリングは大成功だね! さあさあ、シズカウサギちゃんも頑張って!」

「わ、わたしも?」

 閑はまごまごするばかりで、レーンに進もうとはしなかった。

 これまでのバニーガールは四人とも、輪に身体を触られた挙句、生のおっぱいを晒す羽目になっている。輪としても、これ以上は平手打ちで済むとは思えない。

(閑に嫌われたら、おしまいだぞ……?)

 初めて彼女のパンツを被り、泣かせてしまった時のことを、また思い出す。

 優希や黒江は穏やかに口を揃えた。

「大丈夫だよ。ダーリンちゃん、そこまで度胸はないんだし」

「ゲーム自体は簡単。やっといたほうがいい」

 そこに澪の溜息が割り込む。

「あたしは0点でしたけどね……」

「早く終わらせて、ランチにしましょう。キャロルさん、ご馳走は期待しても?」

「もっちろん! ちゃんとおもてなししてあげるからサ、ひひひ」

 閑は意を決したようにボーリングのレーンを見据えた。

「……わかったわ。輪、手を貸してちょうだい」

「オーケー」

 優希たちと同じようにうつ伏せになり、重たくなった巨乳をゆっくりと降ろす。さらに後ろの輪が持ちやすいよう、左脚を浮かせた。

「こ、これで行くわ。お願い」

「なるほど……案外、悪くねえかもな」

 その脚を輪は両手でしっかりと抱え、前方にベクトルを掛けていく。

上手い具合に床が滑って、閑ウサギを進ませてくれた。輪にとっては五回目、力加減も掴めており、今までになく安定もする。

 レーンを抜けたところで、閑が身体を弓なりに反らせた。

「え、えいっ!」

ボディスーツから豊乳が飛び出し、ピンの列へと飛びかかる。

 しかし気が逸ったせいか、距離が足らず、おっぱいは空振りに終わった。

「……まだだ、閑!」

「えっ? き……きゃあああっ!」

 反射的に輪は前のめりになり、閑の生乳を鷲掴みにして、突撃させる。

 ふくよかなおっぱいはピンを薙ぎ倒しつつ、輪の手から零れるように弾んだ。ただ、一本だけ倒れず、ぎりぎりでバランスを取り戻す。

「……あ、あれ?」

 いつの間にか、輪のてのひらには柔らかい感触があった。

 閑はみるみる紅潮し、羞恥心を燃えあがらせる。

「どどどっ、どこ触ってるのよ、輪! は、早く離してったら!」

「わわ、悪い! つい手が出ちまって」

「つ、つい? ついじゃないでしょ! ばか!」

 その瞳は少し涙ぐんでいた。ほかのバニーガールたちも輪に軽蔑の視線を向ける。

「ねえ、黒江ちゃん。今のもラッキースケベっていうの?」

「意図的なスケベ。ラッキーじゃない」

「信じられませんわ……まさか、あ、ああも鷲掴みになさるなんて……」

「……ノーコメントです」

 輪はくずおれ、己の浅はかさを悔やんだ。

(もうオレに立場はねえのかも……)

 このゲームのおかげで、第四部隊のリーダー、真井舵輪の信用はガタ落ち。

これまで彼女らとともに数々の死線をくぐり抜けてきたものの、たった一度のセクハラで、すべて台無しとなる可能性も現実味を帯びてきた。

 おぱぁいボーリングは終了し、メンバーのポイントが変動する。

輪13、閑17、黒江16、沙織19、優希17、澪11。

 一転して澪には厳しい展開となった。沙織はストライクに加え、今回もイチャイチャボーナスを獲得し、トップに躍り出る。

「意外にサオリちゃんが一番、ダーリン氏と相性いいのかもね~。ひっひっひ」

「そ、そんなことはありませんわ。まあ……悪い気はしませんけど」

 閑、黒江、優希の三人は横並びの状況となった。

 とにもかくにも午前のゲームは終わり、輪たちはほっと安堵の息を重ねあわせる。

「まだまだゲームはこれからだよ? そんじゃー、お昼ご飯にしよっか」

 キャロルがシルクハットをステッキで叩くと、真っ白な煙が生じた。それが晴れた頃には、テーブルには豪勢な料理が出揃っている。

 食いしん坊の優希が瞳を輝かせた。

「お昼ってピザなんだ? うわあ、どれも美味しそう!」

「少々お待ちになって、みなさん。今、お茶を淹れますから」

 香辛料の香りに輪も食欲をそそられる。

「ひょっとして、キャロルはピザが好きなのか?」

「うん! 実はこれ、アタシが作ったやつなんだよねえー。今頃、上でもメグレズたちが食べてるんじゃないかなあ」

「へえ~。そういや、ゾフィーもスパゲティ作るのは、上手かったな」

 輪たちは席につき、それぞれ好きなピザを頬張った。

 しかし胸をじかに触られた閑や、お尻を鷲掴みにされた澪は、あからさまに輪から距離を取っている。

(はあ……早いとこ謝らねえと)

 キャロルは味見程度にピザをつつくと、席を立った。

「ちょっとメグレズと話があるからサ。みんなはテキトーに寛いでて」

 魔眼の杖もひとりでに引きさがっていく。

「悪いやつじゃねえみたいなんだけどな。ガールズトラブルの作者なんだし……」

「そんなのばかり読んでるから、スケベになるんです」

 ピザを齧りながら雑談に興じていると、一匹の犬と目が合った。巻物を咥えたまま、輪をまじまじと見詰め返してくる。

「……なんだ、こいつ」

「ワン!」

 犬は巻物だけ置いて、走り去っていった。

 かの聡明な忍者、ツバサ=ミザールからの手紙らしい。輪は巻物を広げ、第四のメンバーにも読んで聞かせる。

 

 マイダリンへ。

キャロル=ドゥベの目的がわかったぞ。やつは貴様らに卑猥なゲームをさせて、お色気漫画のネタにするつもりだ。遅いかもしれんが、やつの変装には注意しろ。

 問題はむしろメグレズのほうだ。あいつはキャロルの計画を利用して、貴様と第四部隊の女子らの仲を引き裂く算段らしい。イチノセやサツキドーに嫌われるような流れになったら、メグレズの思うつぼ、というわけだ。

 追伸――カイーナを攻める機会があるなら、私たちと一緒にどうだ? チハヤのやつも貴様を徹底的に鍛えてやると、息巻いとるんでな。

 ツバサ=ミザールより。

 

 キャロル=ドゥベの狙いは予想の通り。ガールズトラブルのお色気展開を充実させるため、輪たちにエッチなゲームを強要したと見て、間違いない。

 しかしメグレズの企みはノーマークだった。

「なるほどな。オレを孤立させて、魔界に連れていこうってわけか」

「やることがいちいち面倒くさいね、あのひと……」

 優希がピザを片手ににやつく。

「このままキャロルちゃんやメグレズちゃんの思い通りになるのもねえ。どお? 午後からはみんな、ダーリンちゃんとベタベタするとこ、見せつけてやるのって」

 優希の提案には黒江も乗ってきた。

「メグレズに揺さぶりを掛けるには、いいかも」

「負けっ放しではいられませんものね。わたくしも協力しますわ」

 暫定一位の沙織も余裕があるのか、作戦を受け入れる。

 あとの閑と澪は戸惑いながらも頷いた。

「みんながそう言うなら……ね、ねえ? 澪」

「ち、調子に乗らないでくださいね? 輪くん。セクハラはカウントしてますので」

「……へいへい」

 やがてキャロルが戻ってくる。

「向こうも盛りあがってたよー。アキラちゃんが男の娘って、ほんと?」

「そういや、前にあいつがクロードとお見合いする羽目になって……オレが彼氏役として連れ出されたりしたっけ」

「ぶふぉっ? 何それ、ダーリンちゃん! 初耳~」

 優希ウサギが輪の右隣にすり寄ってきた。左には黒江ウサギがつく。

「詳しく教えて、だーりん。いつのこと?」

「夏の前、だったかな。んで、クロードは御神楽に彼女のふりをさせて、さあ」

 話題を提供しつつ、輪はバニーガールたちの大胆なアプローチに内心、戸惑った。優希も黒江も輪の腕にしがみつき、巨乳を押しつけてくる。

(や、やりすぎだろ? 優希!)

 しかもソファー越しに後ろから、沙織も腕をまわしてきた。ふくよかな巨乳が頭の上に乗っかって、輪に誘惑を投げかけてくる。

「ダーリンさんったら、第六にいた頃のことは、あまり話してくれないんですもの」

「やっぱ次元の違いってのを痛感するからさあ……御神楽は気を遣ってくれたけど、オレなんかじゃ、足手まといにしかならなかったぜ」

 さらに閑や澪までやってきて、輪の脚の間で蹲った。

「ね、ねえ、ダーリン? こっちのピザも美味しいわよ、ほら、食べてみて」

「ダーリンくんにはこっちのほうが、その、お口に合うと思います」

 作戦とはいえ、ダーリンはもてもてに。

「ええと、オレ……」

 しどろもどろになっていると、黒江が声を潜めた。

「りんも抱き寄せるとかして、アピールして」

「お、おう」

 ためらいながらも、輪は両手に優希と黒江を抱え、沙織の胸にもたれる。

 まさかの光景にキャロルは目を丸くした。

「……アレ? ダーリン氏って、第四の子とそういう仲なワケ?」

「ま、まあな。寮ではいつもこんな感じで……ってえ!」

 ハーレムのご主人様を気取っていると、澪に足を抓られる。

「勝手に誇張しないでください、ダーリンくん」

 その一方で、閑は輪の股間のあたりに巨乳を乗りあがらせてきた。

「こ、誇張なんかじゃないでしょ。ね? ダーリン」

「私たち、だーりんがデザインした下着、つけてるくらいだし。身も心も奪われた」

 負けじと黒江まで抱きついてきて、輪の耳元に艶めかしい吐息を漂わせる。

「ちょっとぉ、黒江ちゃん? くっつきすぎぃ」

「ダーリンさんが困ってましてよ。もう少し離れてはいかが?」

「そ、そういう沙織さんこそ、ダーリンくんから離れてくださいっ!」

 バニーガールの群れはひとりしかいないご主人様を取りあい、お耳を揺らした。

 キャロルはさして疑いもせず、肩を竦める。

「ふぅん……まっ、いーか。メグレズの都合なんて、どうでもサ」

 果報者の輪は一時の快楽に酔いしれつつ、明日がないことを悟っていた。

(無事でいられるかっての……でも、可愛いんだもんな)

 第四部隊のゲーム大会は後半戦へ。ウサギさんにとっては身の毛もよだつ、ダーリンにとっては鼻血必至のスケベゲームは、これからが本番だった。

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