ダーリンのおぱぁい大作戦!
第1話
102号室へと足を踏み入れ、閑たちは目を瞬かせた。
「……輪? いないの?」
部屋そのものには何の変哲もない。照明は点きっ放しで、勉強机のテキストを黙々と照らしていた。しかし部屋の主が見当たらない。
「こっちです!」
焦った調子で、澪が皆を呼ぶ。
問題のカイーナは浴室で待ち構えていた。浴槽の底に大きな穴が空いて、まったく別の空間と繋がっている。第四のメンバーは顔を見合わせて、頷いた。
「入ってみるしかありませんわ。輪さんも、きっと中に……」
「黒江ちゃんもお部屋にいないし、ひょっとしたら、ダーリンちゃんと一緒かも」
戦闘用のフォーム(白色のスクール水着)にチェンジして、前衛の沙織から順に、浴槽の穴へと飛び込む。優希のあとは閑で、最後尾は澪となった。
「どうして、こんなところにカイーナが……」
「周防くんの推察では、輪くんが作り出したってこと、らしいですけど」
生活の場である寮がカイーナとなったことで、誰もが緊張感を孕ませていた。この迷宮を片付けることができなければ、スクールライフにも支障をきたすだろう。
細長い回廊を進むにつれ、空気が蒸れてくる。
「……なんだか蒸せませんこと?」
冬にしては暑いほどで、沙織が眉を顰めた。
「体温調節の機能は切ったほうが、よさそうですね」
第四部隊は防御系のスキルアーツを効率よく反映させるため、スクール水着を着用している。生地は薄いものの、レイの攻撃には鉄壁の守備力を発揮した。
ところが、そのレイが一匹も出てこない。
「ここは本当にカイーナですの?」
沙織と同じく前衛の優希は、構えるのを止め、頭上を見上げた。
「逆さまになってない気もするし……ねえ、澪ちゃん」
「それ、あたしも気になってたんです。これでは単なる迷路と言いますか……」
澪は壁に触れ、首を傾げる。迷宮にしても、構造は一本道でしかなかった。
しばらく進むと、道が左右に開け、閑たちは目を見張る。
「……え?」
目の前にはプールがあった。屋外のように明るく、水面がなみなみと煌く。プールサイドにはサマーベッドが並び、ビーチバレー用のネットまで張ってあった。
澪が呆気に取られる。
「ど、どうして、ここだけ夏休みなんでしょうか」
カイーナとは、フロアキーパーとなった『人間』が作り出したもの。その性格や嗜好が如実に反映され、時に独創的な迷宮を誕生させることはあった。つまり、このカイーナのフロアキーパーは、何かしらプールに興味を抱いている。
「ひゃああっ?」
不意に甲高い悲鳴があがった。
「どうしたの、澪!」
「み……見てください。これ……」
パラソルのもとに掛けてある水着を引っ張り出し、澪は赤面する。
それは水着にしても明らかに布地の面積が足りていなかった。サイドがなく、両肩からVの字に掛けるように着用するものらしい。人前で着るには、破廉恥すぎる。
(エッチに節操がない、この感じ……どこかで)
スクール水着のレッグホールを調えてから、閑は皆に指示を送った。
「プールの調査はあとまわしにして、進みましょう。なんだか嫌な予感がするのよ」
「同感ですわ。まさか、とは思いますけど」
沙織も同じものを感じ取ったようで、眉を顰める。
第四のメンバーはプールサイドを通過し、次の扉をくぐった。逆さまになっているわけでもない、普通の階段を降りて、第二層のフロアへと突入する。
その階段の半ばで、優希が立ち止まった。
「……なんなの? これ」
下の通路は大量の風船で埋め尽くされている。色も鮮やかで、さながらテーマパークのような雰囲気を醸し出していた。
「ちょっと待ってください。危険がないか、調べますので」
スカウト系の黒江がいないため、トラップの識別はアイテムが頼り。澪はペンデュラムを吊るし、罠のサーチを試みたが、反応はなかった。
沙織が慎重に身体を腰まで、風船の波に沈める。
「大丈夫ですわ。落とし穴もないようですし」
「まごまごしてても、進めないものね。気を付けていきましょう」
拾ってみても、風船は風船でしかなかった。優希に続き、後衛の閑と澪も風船のプールへと飛び込む。
「こういうの、前の学園祭でなかったっけ? ハートの風船を探せ、って」
「私、まだ中等部ですから……でも、ありそうですね」
そんな話をしていたら、ハートの形の風船を見つけてしまった。バレーボールくらいのそれを両手で抱え、閑は瞳を瞬かせる。
「……水が入ってるのかしら?」
「こっちにもありましたわ。小さいですけど」
沙織の拾ったものはソフトボールほどのサイズだった。そちらも水が入っている。
「よくわからないわね、このカイーナは。プールといい、この風船といい……」
首を傾げていると、すぐ後ろで、また澪の悲鳴があがった。
「ひゃあっ? ……こ、これって……」
何やら頬を赤らめて、困惑の表情を浮かべる。
「今度はどうしたの、み……きゃ!」
おそらく同じものを、閑もお尻で感じ取った。ハート型の風船が角を上に向け、脚の付け根に挟まろうとする。そして、狙い澄ましたかのようなタイミングで割れた。
冷たい水がスクール水着のお尻にじんわりと染み込む。
「くふぅん……! な、なんなのよ、もしかしてトラップだったの?」
お尻の間だけが濡れるという恥ずかしい感触が、閑を戸惑わせた。なるべくフトモモをきつく閉じ、ハートの風船を警戒する。
同じように澪もお尻を逃がそうと、腰をランダムに振った。
「こ、こんな嫌がらせ、誰が考えたんです?」
「ちょっと、澪? 慌てないで」
しかし腰まで埋もれていては、下のほうの風船を視認できない。ふたりして悶えるように風船のプールをかきまわし、お尻とお尻をぶつける。
優希や沙織はまだ状況を把握できずにいた。
「閑ちゃんも澪ちゃんも、急にどうしちゃったの? ねえ……」
「ハートのやつに注意して、優希っ!」
「へ? えっ、あ、あわわ!」
隙だらけの優希に向かって、ハートの風船が突っ込んでいく。それは真正面からセーラー服の中へと飛び込むと、ぱんと割れた。
「ひゃあんっ!」
おかげで、優希の双乳は水浸しに。
「つ、つめたぁ……なんで、はあ、風船がこんなこと?」
セーラー服がしっとりと濡れ、スクール水着のラインが透けてしまう。優希は敏感そうに唇をわななかせて、灼けた吐息をにおわせた。
「そっちにもいるわよ、沙織!」
「え、ええ!」
まだスクール水着を濡らされていない沙織は、階段まで引き返そうとする。しかしすでに遅かったのか、びくっと身体を震わせた。
「きゃあっ? あ……ふうっ、ん!」
目を瞑って耐えるものの、ありありと羞恥を浮かべながら、下唇を噛む。やや前屈みの姿勢で、両腕はおへその下へと向かっていた。濡らされた場所に想像がつく。
「ひょっとして、沙織?」
「お、おっしゃらないで……それより脱出しませんと」
閑たちは背中合わせに集まって、ハートの風船に細心の注意を払った。
だが、肝心のハート型はほかの風船に埋もれて、見えない。あとずさった拍子に閑と沙織は、ハートの風船をお尻でサンドイッチにしてしまった。
「ひゃあぁ? こ……こんなとこにも?」
そこだけ体温を一時的に奪われ、寒気がする。堪えているつもりでも腰が震えた。
「と、とにもかくにも、っん……この風船地帯を突破するべきですわ」
「少しくらい濡れるのは、我慢するしかありませんね」
ハートの風船を警戒しつつ、閑たちはおもむろに風船をかき分け、進む。
単に濡れるだけ、と頭ではわかっていた。しかし濡らされる『場所』に意図的なものを深読みせずにいられない。
小さなハートが閑のセーラー服にも飛び込んで、弾けた。
「ま、また? はあ……こんな、悪戯くらいで」
気丈に振る舞ってみても、濡れる感触は無視できない。回数を重ねるごとに、スクール水着はしとど濡れ、身体にぺったりと張りついた。吸収しきれない分は雫となって、薄生地の脇腹を舐めるように伝い落ちる。
ほかの風船も波を荒くして、胸の高さまでせりあがってきた。
「……けほっ! い、息が」
顔面で水を浴びる羽目になった澪が、片目を伏せて、咳き込む。一方、優希はファルシオンをこぶしに装着し、風船の群れを蹴散らそうとした。
「もう割っちゃおうよ! ボクに任せ……ひあ?」
しかし攻撃の構えで脚を広げたために、そこを一斉に狙われる。続けざまにスクール水着の股座ばかり濡らされて、さしもの優希も赤面しつつ、身体を震わせた。
「なんで? んはあ、濡れるだけなのに」
「しっかりして、優希! こっちから割るのは、いい方法よ」
閑は細身の剣・ジェダイトを召喚し、手当たり次第に大きい風船から貫く。沙織もハルバードのニーズホッグを振るい、風船を薙ぎ払った。
だが、殲滅させるには数が多すぎる。
後衛の澪は風船の波に飲まれているせいで、スペルアーツを詠唱する暇もなかった。それでも頭はまわるようで、丸い風船を手に取る。
「閑さん! 普通のを脚に挟んでおけば、守れるかもしれません」
「そ、それだわ! みんなも早く!」
すかさず閑も手頃な風船を取って、フトモモで挟み込んだ。おかげで、ハートの風船の脅威から、多少は弱点を庇うことができる。
ただし、そのせいで歩きにくくなってしまった。戦闘態勢もままならず、優希など、すっかり身体を小さくしている。
「うぅ……これじゃ、かえって不利になってない?」
どうせ動けないのならと、閑は号令を放った。
「こうなったら……沙織、優希! 少しだけ澪をガードして! 澪のスペルアーツで一掃してもらいましょう!」
「了解ですわ!」
「うん! 澪ちゃんは真中にいてね」
リーダーの指示に従い、沙織と優希が迅速に動く。
閑も合わさって、澪の三方向を固める布陣が整った。風船の波に煽られながらも、中央の澪を死守し、詠唱の時間を稼ぐ。
「お待たせしました、さがってください! トルネード!」
澪のてのひらから突風が巻き起こった。
そのはずが、扇風機ほどの威力しか出ない。正面の風船を風にふわりと乗せるだけで、トルネードはかき消えてしまった。てのひらを突き出したまま、澪は唖然とする。
「な……どうして?」
「え、詠唱を間違えとか、アーツの構成が……」
閑も、優希も、沙織もトルネードの不発に気を取られた。その隙にハートの風船がいくつも飛来し、メンバーの頭上を取る。
それが連続して弾け、閑たちに頭から水を浴びせた。
「きゃあああああ!」
「いっ、いい加減になさい!」
濡れた髪が、うなじや上腕に絡みつく。
閑たちをひとしきり揉みくちゃにしてから、風船の群れは波を反転させた。ハートの風船がなくなったのか、一斉に引くように退散していく。
やがて道が開けた。
「あたしのスペルアーツが発動しないなんて、こんなこと……」
「気にしないで、澪。わたしだって、ジェダイトをろくに使えなかったんだもの」
全員、スクール水着はびしょ濡れ。セーラー服の生地を剥がすと、巨乳のラインに沿って、水滴が流れた。
脚に挟んであった風船を、優希が軽く蹴り飛ばす。
「遊園地のアトラクションでも、こんなにエッチなのはないってば」
「風船ごときに手間取りましたわ」
思わぬ苦戦には沙織も辟易としていた。
あくまで『濡れるだけ』であって、実害は少ない。だが、ハートの風船は胸やらお尻やらを執拗に狙ってきた。いやらしい目的が働いていると見て、間違いないだろう。
ふと、澪がおかしなものを見つける。
「あれは……なんですか」
トンボのような物体がホバリングしていた。
そこから視線を強烈に感じ、閑はずぶ濡れの我が身をかき抱く。
「まさか、誰かが見てたんじゃ……?」
それは方向を変え、飛び去った。カメラの類であれば、閑たちが風船と戯れる一部始終を、何者かが観賞していたことになる。
プライドの高い沙織は奮起し、ハルバードを握り締めた。
「絶対に許せませんわっ! わたくしが引導を渡して差しあげます」
「うんうん! ボクもアッタマきちゃった」
優希の両手でもナックルが輝く。
(わたしたちのことを見てたなんて……一体、誰が?)
真相を確かめるべく、第四のメンバーは探索を再開した。
進むにつれ、道がだんだんと狭くなる。
「敵もいないし、わたしが前に出るわ。沙織はしんがりをお願い」
「撤退のルートを確保すれば、よろしいんでしょう? お任せになって」
隊列は閑を先頭に、優希、澪、沙織の並びとなった。三番手の澪はスカウト系のアイテムを駆使し、黒江の不在をカバーする。
「やっぱり何の反応もありません。でも、あたしでは……」
「難しいものね、それ。マッピングだけで充分よ」
ここに来て、黒江がいないのは痛かった。
スカウト系のスペルアーツは代用品があるとはいえ、扱いが難しい。罠の解除やアーツ片の解析には、アイテムとは別に、専門的な技術と知識を要求される。
司令部との通信にしても、使用回数が限られた。
「哲平くん、聞こえる? こちら、第四部隊」
『はい、司令部です。そちらの状況を教えてください』
「カイーナに入ったことは、入ったんだけど……どうもおかしいのよ。レイは一体も出てこないし、プールがあったりして」
『プール、ですか?』
回線の向こうで哲平が疑問符を浮かべる。
『……了解しました。引き続き、調査をよろしくお願いします』
「わかったわ。黒江と連絡がついたら、すぐ教えて」
通信を終え、閑たちは作戦を続行した。
道はさらに狭くなって、縦一列で進むのがやっと。両側の壁を撫で、隠し扉を探してはみるものの、手応えはない。
「本当にこの道で合ってるのかしら……」
「ほかに道なんてなかったよ? 窮屈だよね、ほんと」
歩く速度を合わせるため、後ろの優希が閑の肩を掴んだ。少し離れて、澪はペンデュラムで罠の警戒に当たる。
「通れますか? 沙織さん」
「こう狭くっては、ニーズホッグはなおしておくしか、ありませんわね」
最後尾の沙織はハルバードを引っ込め、移動に専念した。
道は狭いうえ、床の中央が盛りあがってくる。最初のうちは気に留めるほどでもなかったが、それは徐々に高度をあげ、意外な形で閑たちの進行を妨げた。
「ね、ねえ、閑ちゃん……やばくないかなあ」
二番手の優希が息を飲む。
通路の中央はさながらアルファベットの『A』の形にまでせりあがっていた。左右の足場にも余裕がないせいで、脚を広げ、その三角形を跨ぐ格好にならざるを得ない。
「戻ったほうがいいかもしれないわね」
嫌な予感がした。さっきの風船プールといい、いやらしい意図を感じる。
不意に左右の足場がさがった。
「きゃああああっ!」
反射的に爪先立ち、脚を伸びきらせるものの、三角形がスクール水着の底を直撃する。
後ろの優希も同じ目に遭って、三角形の斜面に膝を擦りつけた。
「待ってってば! こんなの……無理っ、脚が……!」
「ち、ちょっと、優希? 手を離してっ!」
優希に肩を掴まれているせいで、閑にも体重が掛かる。
澪はペンデュラムを捨て、三角形に両手をついた。沙織もその角を持つことで、股座への加重をいくらか和らげる。
「落ち着いてください。こうやって腕も使えば、はあ、恥ずかしいことには……」
「あ、足だって着くでしょう? 焦っては、敵の思うつぼでしてよ」
沙織の言う通り、爪先立ちで踏ん張れば、股間を浮かせていられた。だが三角形の高さは閑たちの脚よりも長いため、ぎりぎりのバランスを強いられる。
次第に脚も痺れてきた。少しだけ休憩するつもりで、力を緩めると、スクール水着の股布に三角形が食い込む。
「だ……誰なんですか? こんなくだらないトラップ、んあ、考えたの!」
澪は気丈に悪態をつくも、声に張りがなかった。この中ではもっとも運動神経のよい優希でさえ、早くも疲労の色を滲ませる。
「ど、どうするの、閑ちゃん? このままでも行く?」
「冷静にならなくちゃだめよ。ンッ、これ以外に……大した害はないんだから」
肩越しに振り向きながら、閑は爪先に力を込めた。両手も使って、三角形の上を跨る格好で進んでいく。おかげで身体は火照り、スクール水着が蒸れるように感じられた。
最後尾の沙織が恥ずかしさと怒りに震える。
「さっきのやつですわっ!」
いつの間にか、飛行カメラが戻ってきていた。閑たちが三角形に跨って、色っぽく苦悶するさまを、まじまじと観察している。
ねちっこい視線を感じ、羞恥心を燃えあがらせずにはいられなかった。
「ち、ちょっと? あなた、はあ、どこ見て……!」
カメラが前方にまわり込んできて、閑の艶めかしい水着姿を遠慮なしに吟味する。
純白のスクール水着は乾かず、豊満なプロポーションを今なお潤わせていた。むっちりとしたフトモモが付け根を晒しつつ、透明の雫にまみれる。
優希のナックルでは射程が短すぎて、カメラに届かず、沙織のハルバードは振りまわせるだけのスペースがなかった。
「みんなはじっとしてて。くぅ、わたしのジェダイトで仕留めるわ」
閑は剣を取り出し、痴漢じみたカメラに狙いを定める。
するとカメラは高度をあげ、閑の射程外へと逃げてしまった。おまけに天井から水が流れ出し、最後尾の沙織から慌てる。
「今度はなんですの? 澪さん、はあっ、早くお進みになって」
「そ、そのつもりなんですよ? でも……!」
三角形の斜面が濡れ、つるつると滑った。こうなっては、片手では体勢を保てず、閑は攻撃を諦める。しかし両手を使っても心許なかった。
後ろの優希が閑の背中越しに声をあげる。
「見て! あと少しだよ!」
幸い、この通路の出口が見えた。戻るよりも進むほうが近い。
シャワーを浴びながら、閑たちはスクール水着をなるべく三角形に擦りつけないよう、慎重に前進した。だが、ここまで来て、さらに三角形の頂点が高くなる。
食い込みに耐えきれず、先頭の閑がのけぞった。
「くふっ、あ、ふうぅん……!」
その背中に優希がぶつかって、スクール水着のサイドを引っ掴む。
「ひゃあ? 閑ちゃん、はあ、いきなり止まらないでぇ?」
「そ、そっちこそ、あんっ! 押さないでったら」
締まらない唇から、熱っぽい吐息が漏れた。
呼吸が激しくなるにつれ、鼓動も早くなる。火照った身体に冷たい水が流れると、背中や腰にぞくぞくと震えが走った。
三番手の澪も優希のスクール水着に掴まって、三角形の刺激を和らげようとする。
「ごめんなさい、優希さん! あっ、あたし、これ以上はもう……っ!」
「だっ、だめだってば! そんなに押されたら、やん、んふぅ」
澪の巨乳は優希の背中で、優希の巨乳は閑の背中で、むにゅうとひしゃげた。最後尾の沙織も押しあいへしあいに加わって、喘ぎの回数を競わせる。
「脚が攣ってきましたの……閑さん、んはぁ、やく……早く行ってください!」
「そんなこと言ったって、こっちもいっぱいいっぱい、なんだからぁ」
そう遠くない出口が、遥か彼方にも思えた。
閑は優希に引っ張られ、優希は澪に引っ張られ、澪は沙織に引っ張られて。全員が脚を引き攣らせながら、それでも爪先立ち、前の仲間に体重を掛ける。
「澪ちゃん、えひっ、引っ張っちゃだめ!」
「沙織さんが押してくるんです! 閑さん、ひはっあ、ま、まだですか?」
スクール水着はびしょびしょに濡れ、白い生地がぬらぬらと潤沢を帯びていた。
「んはあっ、あ、あと少しよ……みんな、ンッ、我慢してぇ!」
手前の仲間に柔乳を押しつけながら、後ろの仲間をお尻で遮る。フトモモも照り返るほどに濡れそぼって、濃厚な色気を充満させた。
(だめ……恥ずかしいのに、身体がぞくぞくしちゃって……!)
カメラの視線を意識すればするほど、敏感になる。無意識のうちに閑は弾みをつけ、スクール水着の中にある身体を刺激していた。
「ほんともう、らめだから……閑ちゃん、っあはぁ、早くぅ」
後ろの優希もいやいやと腰をくねらせて、抵抗にならない抵抗を続ける。呂律もまわらなくなってきて、眉にも唇にも力が入っていなかった。
澪さえ反抗していられず、半ば惚けている。
「おっ、押さないでくださいったら、沙織さん? 前が詰まっへ、えあっ、あぁ!」
「こっちだって必死ですの! 脚が……んあはぁ、つ、疲れへ……!」
顔は好調しきって、とろんとした瞳には、羞恥の涙を湛えていた。品格を重んじる沙織まで、自らの呼吸に溺れるかのように、舌をうねらせる。
とうとう左右の足場が落ちてしまった。三角形がスクール水着の股布を突きあげる。
「ひはあああッ? ……や、やだ、これ……れっ、えれぇえええぇええ!」
悩ましく打ち震えながら、閑は嬌声を張りあげた。それを皮切りにして、優希も澪も沙織も前の仲間にしがみつき、限界に達する。
「ごめんなさい、あたっ、あたひ……んあああぁあ!」
「なんで? こんなのれ、ボク、ボクまへっ、へああぁああんっ!」
「し、失礼いたしますわ、わはっ、わたくしも、くふ……んふぅううううん!」
沙織だけは唇を噛んで、かろうじて叫ぶのを堪えた。しかし澪は口の中で舌を返し、優希など涎を垂らす始末。
強制された快感にもかかわらず、閑たちは半ば陶酔しつつあった。
(こんなの、初めて……!)
やがて張り詰めていたものが切れ、メンバーの四肢が弛緩する。息も絶え絶えで、もはや三角形の存在など忘れていた。頭上でシャワーが止まる。
左右の足場が戻ってくるとともに、問題の三角形が低くなった。ようやく解放され、閑たちは手前の仲間を下敷きにして、倒れ込む。
「あふぁ? はあ……あっ、んふう」
その一部始終をカメラは余すことなく眺めていた。そこから何者かの声が聴こえる。
『……なんとか止まったみたいだな。助かったぜ、黒江』
『あ。音声がオンになってる』
それを聞いて、最初に起きあがったのは、澪だった。
「今……輪くんの声がしませんでしたか?」
沙織も優希もゆらりと立ちあがって、雫を滴らせる。声のトーンはやけに低い。
「わたくしも確かに聞きましたわ。黒江さんもご一緒のようですけど」
「さては……さては、ダーリンちゃんめえ……っ!」
ハートの風船といい、三角形の通路といい、いやらしい目的によるものだった。温厚な閑さえ、今回ばかりはわなわなと震え、女の怒りを漲らせる。
「そういうことだったのね……心配してたのが、馬鹿みたいじゃないの。行くわよ、みんな! 今日という今日は許さないんだから!」
カメラは大慌てで逃げていった。
☆
モニターの前で、輪は目をギンギンに血走らせる。
「や、やばいことになったぞ……?」
最初のうちは、少し驚かせてやるだけのつもりだった。しかしカイーナを完全には制御できず、あれよあれよとスケベトラップがエスカレートしてしまった。
おかげで、閑たちの悶えるさまも堪能できたのだが、輪はこわごわと頭を抱え込む。
(オレ……殺されるかも)
今の閑たちがこのコントロールルームまで乗り込んできたら、十中八九、輪に死ぬような制裁をくだすだろう。グランドクロスをぶっ放されるかもしれない。
ところが輪の苦悩を余所に、黒江は淡々と作業を進めていた。
「このカイーナ、りんがみんなにセクハラしてると、安定するみたい」
「どんなカイーナだよ! なんでオレ、さっき悪戯しようなんて思ったんだ?」
彼女のパンツによって、魔力の暴走は抑えられているものの、感情の暴走までは制御しきれないらしい。
作業がてら、黒江がお菓子を頬張る。
「もぐもぐ」
輪は目を点にした。
「あのぉ……黒江さん? そんなもの、どっから?」
「あっち。私の部屋と繋がってるの」
彼女の指すほうには、一台の冷蔵庫。まさかと思って、開けてみると、向こうは黒江の102号室だった。黒江の部屋の冷蔵庫が、こちらの冷蔵庫と繋がっている。
窮屈だが、無理やり通れないこともなかった。
「待ってくれよ? じゃあ、いつでも脱出できたんじゃないか」
「うん。でも、今のりんが外に出るの、やめたほうがいい」
輪は自分の恰好を再確認し、相槌を打つ。
「わかってきたぞ。街のみんなに影響を与えかねない状態なんだろ、これ」
普通の人間が地獄の力をもろに受けたら、正常でいられるはずもなかった。そもそも露出が過剰なボンデージ風のスタイルで、外出など恥ずかしい。
「黒江は大丈夫なのか? そのためのユニフォームなんだろうけどさ」
黒江も白いスクール水着にセーラー服という、摩訶不思議な恰好をしていた。第四部隊のイレイザーはアーツの力を最大限に活かすため、これを着用する。
「一応、着てるだけ。効果は十パーセントも出てない」
「なんだって……?」
第三層のモニターが警報を鳴らした。
閑たちが最後のフロアに辿り着いてしまったらしい。輪は顔面蒼白になって、コントロール用の席につく。
「と、とにかく防衛だ。今日のところは帰ってもらわねえと……」
そんな輪のもとへ、黒江がお菓子を持ってきた。
「落ち着いて。食べる?」
「いいって……それより、黒江は脱出してもいいんだぞ? お前のおかげで、カイーナも大分、安定してきてるし……ここにいたら、オレと共犯扱いにされちまうぜ」
これ以上、彼女を巻き込むつもりはない。不具合だらけだったカイーナを調整するなど、すでに充分な働きをしてくれている。
にもかかわらず、黒江は輪の前に座って、足をばたばたさせた。
「まだ、りん、思い出してないから。もうちょっと一緒に遊ぼ」
「……黒江?」
同じようなことが、昔もあった気がする。
子どもの頃、よく一緒に遊んだのは、ひとつ年上で隣に住んでいた四葉優希。しかし優希には輪とは別に、仲のよい女の子の友達もいた。
その子の名前はケイちゃん。
(ひょっとして……?)
黒江の口元に小さな笑みが浮かんだ。
☆
閑たちの一行は第二層を突破し、さらに下のフロアへと降りた。階段が途中から梯子になっている奇妙な構造で、深さとしては四層に達する。
「一本道の割にひねくれてますこと」
「ダーリンちゃんが作った迷路って感じ、するかも……」
そこから次は上がって、第三層に入るらしい。ところが、ルートは天井に見えているにもかかわらず、そのための階段や梯子がなかった。
高さはおよそ六、七メートル。
「あれくらいなら、ジャンプで届かないかしら。誰かが台になって……」
イレイザーであれば、スキルアーツで身体能力が強化されるため、手が届かない高さでもない。しかし澪は思い詰めたような表情で、視線を落とす。
「さっきから、ずっと気になってたんですけど……あたしたちのステータス、普段とほとんど変わってないと思いませんか?」
閑も優希もはっとして、スクール水着を撫でた。
「言われてみれば……」
「そ、そうだよ! さっきの罠にしたって、いつもの調子なら」
バトルユニフォームを展開していてなお、三角形の廊下ではろくに抵抗できず、破廉恥な目に遭わされた。沙織は再びハルバードを構えるも、腕が震えて、安定しない。
「確かに『重たい』ですわ……。ど、どうしてですの?」
閑たちのアーツはまるで性能を発揮していなかった。澪が確信を込める。
「あたしのトルネードが不発したのも、このせいです。おそらく……ここは完全なカイーナではありませんから、ARCのプロテクトも外れないんじゃないでしょうか」
機密保持などのため、イレイザーのアーツにはARCによって厳重な制限が掛けられていた。それがカイーナにおいては解除される。
しかし今回のカイーナは『逆さま』になっておらず、レイも出現しなかった。プロテクトがここをカイーナと認識しないために、アーツを発動できない。
「……なるほどね」
自分の胸を抱えあげるように、閑は腕組みのポーズを取った。平常は、巨乳ぶりを強調しかねない仕草は避けるのだが、それだけ現状は悩ましい。
今は筋力も脚力も一般人と変わらないうえ、閑と澪に至っては、スペルアーツにも期待できなかった。
だが、ここで引き返すわけにもいかない。三角形の廊下で悶絶するさまを、フロアキーパーにじっくりと観賞されてしまったのだから。
「あの向こうに輪がいるはず……」
第三層への入口を見上げていると、何かが垂れるように降ってきた。
反射的に沙織と優希が構え、後衛の澪は胸を撫でおろす。
「なっ、なんですの?」
「大丈夫みたいです。とりあえずレイじゃありません」
それは網目状に結ばれたロープだった。ロープ自体が太く、結び目もしっかりとしている。全員が一度によじ登っても、充分に耐えられるだろう。
「これで上に行けってこと、かなあ?」
優希がロープに掛けようとした足を、引っ込める。
嫌な予感は閑にもあった。何しろ、先ほども窮屈な三角形の廊下で、恥ずかしい思いをしたばかり。このアスレチックにもスケベな思惑があると見て、間違いない。
閑は前に出て、沙織に目配せした。
「わたしと沙織で試しに登ってみましょう。優希と澪は待機してて」
この作戦なら、運動神経が抜きん出ている優希と、頭の回転が早い澪を温存し、万が一の状況にも対応できる。そこまで説明せずとも、沙織は納得してくれた。
「閑さんのおっしゃる通りにいたしますわ」
優希と澪は一旦さがり、固唾を飲む。
「……ほんとに気をつけてね、閑ちゃん、沙織ちゃん」
「おふたりが動けない分は、あたしたちでフォローしますから」
改めて閑はロープの網を仰ぎ見た。アスレチックとしては定番のコースで、至って健全なのが、かえって不安を煽る。
「じゃあ、わたしはこっちから行くわ」
「でしたら、わたくしは左のほうから……」
右は閑、左は沙織のフォーメーションでアスレチックに挑む。
片足だけでもロープに掛けると、思いのほか揺れた。沙織とペースを合わせないことには、振り落とされるかもしれない。
「焦ることはありませんわ。閑さん、もっとゆっくり」
「そ、そうね」
慎重に体重を掛けながら、沙織と横並びになって上を目指す。
(そんなに難しくはない、けど……)
登るためには、どうしても脚を開く必要があった。スクール水着がお尻に食い込む有様を、澪や優希に見せびらかすようで、恥ずかしい。
もとより自分の身体つきにはコンプレックスがあった。しかも真っ白なスクール水着を満遍なく濡らしていては、はしたないことをしている気がして、顔も赤らむ。
「遅れてますわよ、閑さん」
「ごめんなさい。ちょっとスクール水着が、ね」
脚を付け根から動かすうち、スクール水着の股布が拠れてきた。沙織がフロントのほうから手を差し込んで、器用に縁を調えなおす。
「あのカメラもいませんし、心配することはありませんわ」
「わたしの気にしすぎかしら」
だんだんコツも掴めてきて、三メートルの高さまでは難なく進むことができた。単なるアスレチックらしいことに安堵し、閑は肩越しに振り向く。
「澪、優希! 大丈夫みたいだわ」
「あっ? お待ちになって、閑さん!」
ところが、その拍子に縄が揺れ、沙織がバランスを崩してしまった。ロープがたわんだり跳ねたりして、閑のほうも振り落とされそうになる。
「とにかく揺れが収まるまで……きゃああっ?」
言葉の途中で意図になく、俄かに甲高い声が溢れてしまった。
あろうことか、ロープのやや横長の隙間に双乳が嵌まり、フィットする。縄は曲線の麓にみっちりと食い込んだ。
左の沙織も同じ罠に捕まり、上半身をのけぞらせる。
「どどっ、どうなってますの? こんな真似、狙いでもしない限り……」
「う、動かないで、沙織! こっちまで揺れ、あふぅ!」
両手でロープに掴まっていないと、豊乳に体重が掛かる状態に陥ってしまった。まさかの罠の正体に、閑たちは動揺するほかない。
「落ち着いてください! まずはロープから、その……胸を抜いて」
「え、ええ……ン! んむっ?」
もがいたくらいでは、縄は解けなかった。むしろきつくなって、たわわな果実を苛烈に締め付けるようになる。これには沙織も汗が浮くほどに紅潮し、息を乱した。
「だ、だめですわ……これじゃロープまで一緒に、はあ、動いてしまいますもの」
「ほかの方法を考えないと……ど、どうしたの、優希?」
何かを見つけたように優希が目を丸くする。
「……あれ。やばいんじゃない?」
ロープ越しに反対側、閑たちの真正面に、奇妙なものが現れた。曲がりくねったホースの群れが、どうやら閑と沙織をターゲットにしている。
「ま、まさか……」
閑はぎくりと顔を強張らせた。
ホースの先端から勢いよく水が噴き、ふたりのイレイザーを直撃する。
「きゃあああ! な、なんですの、これ?」
「わからないってば! だ……誰か、んあっ、とめてぇ!」
沙織も閑も混乱しながら、シャワーを巨乳に浴びた。噴射の勢いだけでセーラー服が捲れ、スクール水着のラインが露わになる。
細長いしぶきは執拗に柔乳を『狙って』きた。
(こんなの変よ、身体が……!)
力んで耐えるのは難しい。むしろ、快感の類で肩の力が抜けそうになる。
いやいやと腰を捻っても、噴水攻撃からは逃れられなかった。
「だ……大丈夫? 沙織、ふぅ、そっちは」
「た、ただの水ではありませんの。これくらいのことで……」
せめて脚を閉じ、スクール水着の股底に水が流れ込むのを、堰き止める。ただし、脚を閉じては踏ん張りが利かず、余計に豊乳へと体重が乗ってしまった。
「最低ですね……これも輪くんの発想なんでしょうか」
さながら蜘蛛の巣じみた罠の正体を、澪は舌を吐くほどに軽蔑する。一方、子どもの頃から犯人について知る優希は、首を傾げた。
「ダーリンちゃんって、パンツより、水着のほうが興奮しちゃうのかなあ」
「冷静に分析してないでっ!」
その間にも水は噴射し続け、閑と沙織の巨乳を弄ぶ。
冷たい水が純白のスクール水着を潤わせて、柔肌にぺったりと吸いつかせた。フロントデルタにも直撃を受け、閑は一気に赤面する。
「そんなとこまで? もっ、もういや……あん、水着濡らしちゃ、だめえ!」
恥ずかしさが極まって、瞳に涙が滲んだ。なのに身体はすっかり敏感になって、しぶきを受け入れつつあるのが悔しい。
ナンデ、キモチ、イイノ? そんな疑問が脳裏に忍び寄る。
気高さを信条とする沙織も、悪趣味な責め苦に翻弄されていた。慌てふためき、アスレチックのロープを揺らす。
「みっ、見てないで、早く助けてくださいまし! あはぁん、優希さん、澪さん!」
行動を起こしてくれたのは、澪だった。
「任せてください! あたしのセイレーンで水を受ければ……!」
スキルアーツ『セイレーン』をロープの向こう側に召喚する。
セイレーンとは、目隠しをされた女性の顔を模したもので、本来はスペルアーツを補助するためのものだった。その口で澪と同時に、別のスペルを唱えたりできる。
今はアーツの力が万全ではないとはいえ、大きく口を開けば、閑のデルタくらいは水鉄砲から守れた。しかし澪が急に咳き込む。
「……けほっ! み、水の感触が」
セイレーンの口は澪の口と感覚を共有していた。そのうえでは、澪が水を飲むのと変わらず、セイレーンのほうもあっぷあっぷする。
「無理しないで、澪!」
「はあ、大丈夫です……本当に飲んだわけじゃ、ありませんから」
まだ閑は澪に身体を張ってもらえるものの、沙織は直撃に晒されていた。痺れたらしい脚を開いて、姿勢を少しは楽にしながらも、噴水を股座でもろに受ける。
「か、身体が、んあっふ、おかしくなっへしまいますわ……!」
自慢の美貌は眉を八の字に曲げ、唇も締まらなかった。舌がうねって言葉を妨げる。
ふと、澪がロープの向こう側に一本のレバーを見つけた。ホースの群れの中央で、わざわざ『STOP』と札が掛けられている。
「あれを切り替えれば、止まるんじゃないですか?」
「ま、待って、澪ちゃん! あんなの、どう見たって罠だよ、絶対!」
怪しさ満点のレバーを目の当たりにして、優希はうろたえた。しかし澪は意を決し、ロープのアスレチックへと足を掛ける。
「やってみましょう! さっきの廊下でも、最後には開放されましたから、このトラップも攻略法があると思います」
「ええっ? ボクはないと思うけど……」
閑や沙織の二の舞にならないよう、彼女は双乳を庇いながら、アスレチックを登っていった。すでに閑と沙織の体重が掛かっているため、中央は揺れも少ない。
ところが、急に澪の身体が硬直した。らしくもなく青ざめ、かちかちと歯を鳴らす。
「……澪?」
「ご、ごめんなさい……あたし、高いところは苦手で……!」
まさかの高所恐怖症だった。背筋を不自然に曲げ、竦む。
そうやって躊躇しているうちに、澪まで胸を捕縛されてしまった。横長の穴が双乳の麓に食い込んで、苛烈に引っ張りあげられる。
「しっかりして、澪!」
「んくぅう……こ、こんなにきついんですか? あっ、あぁはあ!」
ホースは澪の胸にも狙いを定め、水の勢いだけでセーラー服を剥がした。露わになった柔らかな曲線に、水しぶきが飛びかかる。とうとう閑たちの高さまで登れなかった。
しかしレバーは目の前にあり、腕を伸ばしさえすれば、届くかもしれない。
「はぁ……はあ、まだです。沙織さん、少し我慢してください」
「は? ちち、ちょっと? おやめになって!」
猛烈なシャワーに抗いつつ、澪は左手で沙織のスクール水着に掴まった。お尻の生地が伸び、裏側に溜まっていた水を、フトモモに吐き出す。
そうしてバランスを取りながら、右手は閑のお尻の、下へ。
「へあっ? あ……んふぁあ!」
閑は目を見開いて、刺激の始まった場所に驚いた。ぎりぎりの力で閉じあわせていたフトモモの間を、澪の手が通り抜けようとする。
その先には例のレバーがあった。
「ごめんなさい、閑さん……はっふ、す、すぐに終わりますから……!」
「そ、そんなこと言ったって、だめったら!」
途中で指が股布の脇に引っ掛かり、捲れそうになる。
恥ずかしいのを堪え、閑は唇を噛んだ。ようやく澪の右手が閑の下をくぐり抜け、レバーに指先が触れるところまで近づく。
だが、レバーは土台ごと動き、遠ざかってしまった。
「あ? こら、待ちなさい!」
「もっ、もういいから! 動かさないでぇ!」
澪が手を伸ばそうと、閑のスクール水着が余計にお尻に食い込むだけ。
おかげで閑も沙織もすっかり疲弊し、熱っぽい吐息を散らした。
「れ、冷静になりましょ? えあっ、単純な罠には、あん、違いないんだもの」
「さっきから何を、んあっ、なさってるの? こんなの、澪さんらしくありませんわ」
同じく動けなくなった澪も息を切らせる。
「どうかしてました、あたし……あはぁ、助けなくちゃと、お、思っれえ」
スクール水着はびっしょりと濡れ、フトモモに無数の雫を連ねた。それぞれ巨乳を締めつけられながら、シャワーで快感を強制される。
このままでは埒が明かなかった。閑と沙織が同じことを閃き、声を揃える。
「ゆ……優希っ! あなただけが頼りだわ」
「わたくしたちの身体を登って、上にお行きなさい!」
ロープに触れる回数を抑えたうえで突破する方法が、ひとつだけあった。澪や沙織の背中をよじ登って進めば、攻略できるかもしれない。
わかっていても、優希はたじろいだ。
「で、でも、ボク……」
仲間を犠牲にする作戦に戸惑っているらしい。しかし澪も必死に声をあげる。
「優希さんの運動神経なら、きっと……し、信じてますからっ!」
噴射は勢いを強め、閑たちの柔乳をなお責め続けた。デルタにも命中し、身体の感度にまるで自制が利かなくなってくる。
「早く、優希! じゃないと、わたし、また……へえぁあ!」
快感で喘ぐなど初めてのことなのに、甲高い嬌声はお腹の底から出てしまった。そのたび、いやらしい身体の才能を強烈に自覚させられる。
優希は力強く決心してくれた。
「わかったよ。ボクが上まで登って、ダーリンちゃんを止めればいいんだね」
思いきりのよい助走をつけ、まずは澪の背中に飛び移る。
「ごめんね、澪ちゃん!」
「あくっ? も、問題ありません。そのまま……!」
アーツの力がなくとも前衛だけあって、アクロバティックな動きに慣れていた。澪の背を足場にて、閑と沙織の肩に手を掛け、軽々とロープを登っていく。
「その調子よ、優希!」
「うん! もうちょっとだけ待ってて、みんな」
足場となった閑たちは唇を引き結んで、正面からの水流に耐えた。
「上まで、あっく、まだ三メートルほどありましてよ? んふぁ、焦らないで」
「こ、この水鉄砲、最低です……エッチなとこばっかり!」
あとから加わった澪も、閉じるに閉じられない脚の付け根を、激しい噴射に晒される。スクール水着をしとど濡らしつつ、魅惑の身体は敏感そうに打ち震えた。
不意に背後からも噴射が襲ってくる。
「……ひゃあっ?」
背中に奇襲を受け、途端に優希がバランスを失った。とうとう彼女の巨乳まで罠の餌食にされ、水鉄砲が殺到する。
「ちょちょ、ちょっとぉ? だめっ、やん、やめてってばあ!」
腕や脚を拘束されるのとは違い、胸を押さえられては、重心を保つことも難しかった。その顔が真っ赤な恥ずかしさを浮かべ、瞳に涙を滲ませる。
ロープがたわんだ分、優希の位置がさがった。
「待ってください、優希さ……んむうっ?」
脚を開いていたせいもあって、真下にいた澪の顔面にスクール水着の股座を押しつける羽目に。澪のほうも拘束状態ではかわしきれず、呼吸のために口を開ける。
「ご、ごめん、澪ちゃん!」
「んんん~っ! しずは、はん! なんふぉかひて、くらはい!」
澪がもがくたび、沙織はスクール水着をぐいぐいと引っ張られた。閑もお尻の下で右手を抜き差しされ、気を動転させる。
「じっ、じっとなさって、澪さん! わたくしの水着が!」
「そんなにかきまわしちゃ……ひはっ、らめ……へぇあ、すごいの来ちゃうからぁ!」
濡れそぼったスクール水着が摩擦に巻き込まれ、じゅくじゅくと水音を立てた。
かろうじて自由に動けるのは、澪のセイレーンだけ。それでレバーを引こうと、澪は必死に首を捻りながら、唇で吸い付くのを繰り返す。
「ろめんなさぃ、優希さん……ンッ、せーれーんへ、ぷはっ、あれを」
スクール水着の股布などを食まれ、優希は露骨に赤面した。
「や、やだやだ! やめてったら、澪ちゃ……あぁ? そんなとこ、えあぁ!」
フトモモで澪の頭を挟んで、抵抗しつつ、全身に甘い痺れを漲らせる。
「位置を教えへくらはい、閑さん……どっちれす?」
「もう少し右よ! 右……だめ、行き過ぎたわ、あっ、あと上!」
澪が奮闘した甲斐あって、セイレーンはどうにかレバーを咥えた。しかし澪自身、息も絶え絶えで、切り替えるだけの力が顎に入らない。
「後ろをご覧になって! こ……こいつら、ひふぅ、まさか……わたくしたちを」
まごまごするうち、背後からもホースの群れが距離を詰めてくる。
四方八方からシャワーが噴いた。閑、沙織、澪の三人はお尻を水流で削るように刺激され、反射的に腰で跳ねる。
「はあああんっ! とめて、これ……じゃないと、わたっ、わたひ……!」
「変な声を、もお、お出しにならないで? わたくしまで、おぉ、おかしくなっへ!」
その動きに追いすがるように巨乳も弾んだ。
優希のお尻には澪が顔を埋め、不可抗力のキスを押し込む。
「んんっんぅ、んぐっ、あむぅ!」
「こ、こんなの……ボク、もっ、もうらめぇえええっ!」
閑たちの嬌声がひとつに合わさった。
「あはぁあああぁぁぁああああ~~~~~ッ!」
スクール水着をびしょ濡れにしながら、全員がバイブレーションを極める。
その誘惑的な一部始終を、カメラはステルス状態で目撃していた。
モニターの前で輪はぼたぼたと鼻血を垂らす。
「……す、すげえな」
黒江のパンツを被っていても、いかがわしい興奮は制御できなかった。閑たちの、快感を拒絶しながらも恍惚とした表情が、網膜に焼きつく。
(感じてるんだよな? これ……)
悪いと思いつつ、輪はごくりと生唾を飲んだ。
水鉄砲で追い返すだけのつもりだったのに、もはや収拾のつけようがない。閑らの抵抗と合わさって、今回の罠は想像を絶するほどのスケベトラップへと、変貌を遂げた。
隣の黒江も呆気に取られ、食べかけのお菓子を落とす。
「なんで……こうなったの?」
「オレが聞きたいって! と、とにかく水を止めて、それから……」
そんな黒江を見た途端、衝動が走った。
閑たちにもひけを取らない蠱惑的なプロポーションが、純白のスクール水着で引き締められている。それが手に届く距離にあるだけで、今は狂おしい。
輪は額を強く押さえ、かろうじて理性を保った。
「く、黒江……逃げてくれ。オレ、なんつーか、はあ、もうムラムラしちまって」
その獣じみた息の荒さに、クールな黒江もぎくりとする。
「大丈夫? りん」
「早くっ! このままじゃオレ、お前に何するか、わかんねえから!」
輪がにじり寄った分、彼女はあとずさった。
「早く、オレの前から……!」
こうやって迫るのは、魔性が暴走しているせいかもしれない。だが、黒江に触れたい、抱き締めたいという正直な欲求も込みあげ、自制などままならなかった。
黒江が檻のひとつに入って、鉄格子の扉を閉ざす。
「な、何やってんだよ、黒江? 冷蔵庫ならあっちだぞ」
「りんを見捨てて行けない……下手したら、カイーナが深刻なレベルになるかもだし」
彼女の気持ちは嬉しかった。だからこそ、これ以上は付き合わせられない。
輪は鉄格子を掴んで、声を荒らげた。
「オレのことはいいって! 黒江が逃げたあとで、何とかする!」
「で、でも……」
その時、コントロールルームのドアが、ばんと開け放たれた。ずぶ濡れになりながら、ついに第四部隊のメンバーがここまで辿り着いたらしい。
「み、みんな! よかった、無事だったのか?」
優希が力みすぎたこぶしを震わせる。
「無事だったのか、じゃないでしょ? ダーリンちゃん……」
「ダーリンさんにお話がありますの。ちょお~っと、よろしいかしら?」
沙織もこめかみに青筋を立てていた。今までになく激怒している。
澪はぎょっとして、人差し指を変態に向けた。
「な、なななっ……何をしてるんですか! 輪くん!」
輪は今、パンツなんぞを被って、顔は鼻血まみれ。しかも黒江を檻に閉じ込め、何やらがなっている最中だったのだから。おまけに黒江は怯えたように小さくなっている。
これでは弁解のしようがなかった。
「ち……違っ! これは!」
輪は慌てふためき、閑たちに両手を突っ返す。
リーダーの閑は司令室と通信していた。
『お待たせしました。先ほど、みなさんのプロテクトを解除できましたので』
「ありがとう、周防くん。これでやっと戦えるわ」
朗らかな笑顔のようで、閑の目は少しも笑っていない。アーツのプロテクトが解除されたことで、彼女の剣が光のエネルギーを高めだした。
「……覚悟はいいかしら? ダーリン」
あの優しい閑に脅しを掛けられ、輪は悪寒を禁じえない。
「し、閑……?」
「何も言わないで、ダーリン。あなたのこと、ちゃんと、わかってるつもりだから」
閑のジェダイトは今、本来の輝きを放っていた。沙織のニーズホッグも、優希のファルシオンも、澪のセイレーンも、百パーセントの性能を発揮する。
「黒江さんをどうするつもりでしたの? ダーリンさん」
「おしおきじゃ済まさないよ? ダーリンちゃん」
「女の子をオモチャにして、許せません! 死刑を執行します!」
邪悪なものを倒すために。
「まままっ、待て! そ……そうだ、オレ、そろそろ勉強しないと……」
「勉強ならさせてあげるわよ。わたしが、ね」
閑のジェダイトが十字を切った。膨大な量の光が一点に集中し、爆発を起こす。
「グランドクロス!」
光の大波が輪を飲み込んだ。
「アアアアアアアアアアア~ッ!」
打ちあげられた輪の身体から、ボンデージ風の黒衣が剥がれていく。
かくして戦いは終わった。黒江も救出され、事なきを得る。
「大丈夫だった? 黒江ちゃん。ダーリンちゃんに触られたりしなかった?」
「えぇと……その、そういうわけじゃ」
「言いづらいことでしたら、無理しないでください。もう変態は始末しましたので」
コントロールルームから撤収しようとして、ふと沙織が気付いた。
「……あら、あのかたは?」
第二層の監視モニターに、奇妙な風貌の女性が映っている。
褐色の肌に黒衣をまとった、その女も、スケベトラップで散々な目に遭ったらしい。ひっくり返って、目をまわしていた。
『マイダーリンの力、恐るべし……き、今日のところは、出直すとするわ……』
閑たちは一様に首を傾げる。
「誰かしら? とりあえず救助に向かったほうが……」
「あれ、もういなくなりましたよ?」
それがセプテントリオンとのファーストコンタクトだった。
☆
二月十四日、聖バレンタインデー。
無論、高等部への内部受験を控えた真井舵輪には、バレンタインにうつつを抜かす余裕などなかった。今日も朝から勉強に没頭している。
しかし集中のほどは今ひとつ。
(はあ……。なんで、あんなことになっちまったんだろ)
一昨日、輪はフロアキーパーとなって、浴室をカイーナに変貌させた。今なお迷宮は存在し、数々のスケベトラップが獲物を待ち構えている。
おかげで閑たちは大激怒。評価を地の底まで落とした輪に、バレンタインのチョコレートなど、あるはずもなかった。
ただ、黒江だけは輪に協力的で、勉強を見てくれている。
「採点、終わった。まずまず……」
「数学は大分、ましになってきたよな」
彼女なりに今回の件には責任を感じているらしい。おかげで、理系の教科はしっかりとサポートしてもらえた。
一服のついでに、輪は黒江に問いかけてみる。
「ところでさ、お前って『ケイちゃん』、なんだろ?」
「……ふ」
彼女の口元が緩んだ。
※ 当サイトの文章はすべて転載禁止です。
あなたもジンドゥーで無料ホームページを。 無料新規登録は https://jp.jimdo.com から